お口直しに唇を(土方)
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「うぜェ」
巡察から帰って早々、自室に入った土方が心底嫌そうに言う。その言葉を拾うように「ああ、これですかィ?」と言った総悟は、目の前に積まれたバレンタインチョコの山から一つを選び取ると、キラリと目を光らせた。
「酷いなァ土方さん。甘いモンをあまり嗜まないとは言えせっかくもらったんですから、全部食って腹壊して死んじまいなせェ」
「ちょっと待て総悟! お前それをどうする気……」
「食いモンは粗末にすんなと姉上も言ってましたからね。チョコまみれでさっさとくたばっちまえ土方このヤロー」
「だから俺は甘いモン……むごォッ!」
勢いよく箱ごと口に突っ込まれ、苦しげにもがく土方をニヤニヤと笑って見ている総悟。ふざけているようで九割型本気の命がけな攻防は、例の如く終わりが見えない。
が、そこに都合良くやってきたのは詩織だ。
「お二人とも、相変わらず仲良しですね」
苦笑いしながら言う詩織に、今度は総悟が心底嫌そうな顔を見せて答えた。
「冗談じゃねェ。土方と仲良くするくらいなら、このチョコの山を全部土方の口に突っ込む方がマシだってんだ」
「今まさにそれをやってるじゃないですか。このままだと副長が死んじゃいますよ」
よほど口の奥まで箱を突っ込まれたのか、涙目になりながらもがいている土方の顔は真っ赤になっている。さすがにシャレにならないのではと心配になった詩織は、土方に駆け寄ろうとした。
そんな詩織の姿を見て、総悟はニヤリと笑う。
「願ったりかなったりじゃねェか。そんじゃ詩織に隊長として命令する。土方にトドメをさせ」
「……はぁ!?」
まさかの命令は、詩織の足を止めさせた。
「副長にトドメって……冗談言わないで下さいよ!」
「冗談なんざこれっぽっちも言ってねェよ。 丁度いい武器を持ってんだから、一思いにやっちまいねェ」
そう言って詩織の腰を総悟が軽くポンと叩く。カサリと音がしたのを確認し、最上級のドS顔を見せながら「トドメをさせたら明日は特別に休みをやるぜ? ま、せいぜい頑張りなせェ」と耳元で囁くと「土方死亡の結果報告しかいらねェからな」の言葉を残して去っていった。
「ったく、総悟のヤロー……」
ようやく箱を取り除けたのか、肩で息をしながら怒る土方。一方の詩織はというと、頬を赤らめてその場に立ち尽くしていた。
「おい、どうした詩織。総悟に脅されたか?」
詩織にしては珍しい反応なだけに、土方が心配そうに尋ねる。慌ててかぶりを振った詩織は、咄嗟に腰へと手を当てながら言った。
「いえ、私は何にも持ってませんから!」
「……はァ?」
「あ……!」
しまった、と思った時にはもう遅い。
「出せ」
言葉と共に差し出された土方の手。そこには有無を言わせぬ圧が感じられた。
「あ、あの、副長……」
「副長命令だ。良いからさっさと出しやがれ」
上司の命令は絶対だ。しかも睨みながら強い口調で言われれば、拒否の選択肢など完全に消滅してしまう。
「……はい」
詩織はおずおずと、腰ポケットから取り出した物を土方に渡した。シンプルで素朴ながらも、ちょっぴり歪なハート形チョコが入った袋には、【副長へ】と書かれたタグが付いている。
「お前が作ったのか?」
詩織と袋を交互に見ながら土方が言った。詩織がコクリと頷き「不器用なので保障はありませんが……」と答えると、土方から大きなため息が漏れる。
「ったく、どいつもこいつも流されやがって」
「す、すみません、ご迷惑でしたよね? これは私が持ち帰りますから……」
土方の言葉に慌てた詩織は、チョコを回収しようと手を伸ばした。だが土方はその手をスイと避け、かさかさと袋を開け始める。
「副長!?」
「いくつ作ったんだよ」
「はい?」
「何人分作ったんだ? まさか隊士全員分ってこたァねェよな?」
そう言ってチョコを摘まむと、口の中に放り込んだ。
「……甘ェ」
少しだけ眉間にしわを寄せてモゴモゴと口を動かす土方に、詩織は戸惑いを見せる。だが意を決したのか、頬を染めながら言った。
「一つ、です」
「は?」
「だから……副長の分だけです」
語尾が小さくなっていくのは、恥ずかしさに俯いてしまったから。頭から湯気が出そうな程真っ赤になった顔は、言葉にしなくてもその想いを伝えてくる。
そんな詩織の姿に一瞬驚いた顔を見せた土方は、ゴクリとチョコを飲み込むと再びため息を吐いた。
「俺は甘い物が苦手でな。チョコなんざ滅多に食わねェ」
「す、すみません。無理やり食べさせる形になってしまって!」
詩織が申し訳なさそうに言う。だが謝りながらも首を傾げて「だったら何で食べてくれたんですか?」と尋ねると、土方は口角を上げて言った。
「不器用なお前が一生懸命作ったんだろ? それに……」
同時に伸ばされた腕が詩織を抱き寄せる。
「口直しも用意されてたからな」
驚く間もなく重ねられた唇は、チョコより甘い熱を伝えてきて。
「……甘い物、苦手なんですよね?」
「この甘さが苦手な奴はいねェよ。ただし……お前限定だがな」
その言葉通り土方は、蕩ける甘さの詩織を貪った。
後日。屯所内に響き渡った叫び声。
「俺ァあの歪なチョコで土方を抹殺してくれるかと思ってたんだがなァ。まさかチョコよりあま~いモンでトドメを刺すとは思わなかったぜ。いやァ、ビックリびっくり」
「た、隊長!? まさか……」
「俺はな~んにも見てねェよ。いやァ、土方さんのキス顔なんて最高のネタをくれた部下には、感謝しなきゃいけねェや」
「お……お……沖田隊長~~っ!」
その原因がこの会話だったという事は、想像に難くないだろう。
~了~
巡察から帰って早々、自室に入った土方が心底嫌そうに言う。その言葉を拾うように「ああ、これですかィ?」と言った総悟は、目の前に積まれたバレンタインチョコの山から一つを選び取ると、キラリと目を光らせた。
「酷いなァ土方さん。甘いモンをあまり嗜まないとは言えせっかくもらったんですから、全部食って腹壊して死んじまいなせェ」
「ちょっと待て総悟! お前それをどうする気……」
「食いモンは粗末にすんなと姉上も言ってましたからね。チョコまみれでさっさとくたばっちまえ土方このヤロー」
「だから俺は甘いモン……むごォッ!」
勢いよく箱ごと口に突っ込まれ、苦しげにもがく土方をニヤニヤと笑って見ている総悟。ふざけているようで九割型本気の命がけな攻防は、例の如く終わりが見えない。
が、そこに都合良くやってきたのは詩織だ。
「お二人とも、相変わらず仲良しですね」
苦笑いしながら言う詩織に、今度は総悟が心底嫌そうな顔を見せて答えた。
「冗談じゃねェ。土方と仲良くするくらいなら、このチョコの山を全部土方の口に突っ込む方がマシだってんだ」
「今まさにそれをやってるじゃないですか。このままだと副長が死んじゃいますよ」
よほど口の奥まで箱を突っ込まれたのか、涙目になりながらもがいている土方の顔は真っ赤になっている。さすがにシャレにならないのではと心配になった詩織は、土方に駆け寄ろうとした。
そんな詩織の姿を見て、総悟はニヤリと笑う。
「願ったりかなったりじゃねェか。そんじゃ詩織に隊長として命令する。土方にトドメをさせ」
「……はぁ!?」
まさかの命令は、詩織の足を止めさせた。
「副長にトドメって……冗談言わないで下さいよ!」
「冗談なんざこれっぽっちも言ってねェよ。 丁度いい武器を持ってんだから、一思いにやっちまいねェ」
そう言って詩織の腰を総悟が軽くポンと叩く。カサリと音がしたのを確認し、最上級のドS顔を見せながら「トドメをさせたら明日は特別に休みをやるぜ? ま、せいぜい頑張りなせェ」と耳元で囁くと「土方死亡の結果報告しかいらねェからな」の言葉を残して去っていった。
「ったく、総悟のヤロー……」
ようやく箱を取り除けたのか、肩で息をしながら怒る土方。一方の詩織はというと、頬を赤らめてその場に立ち尽くしていた。
「おい、どうした詩織。総悟に脅されたか?」
詩織にしては珍しい反応なだけに、土方が心配そうに尋ねる。慌ててかぶりを振った詩織は、咄嗟に腰へと手を当てながら言った。
「いえ、私は何にも持ってませんから!」
「……はァ?」
「あ……!」
しまった、と思った時にはもう遅い。
「出せ」
言葉と共に差し出された土方の手。そこには有無を言わせぬ圧が感じられた。
「あ、あの、副長……」
「副長命令だ。良いからさっさと出しやがれ」
上司の命令は絶対だ。しかも睨みながら強い口調で言われれば、拒否の選択肢など完全に消滅してしまう。
「……はい」
詩織はおずおずと、腰ポケットから取り出した物を土方に渡した。シンプルで素朴ながらも、ちょっぴり歪なハート形チョコが入った袋には、【副長へ】と書かれたタグが付いている。
「お前が作ったのか?」
詩織と袋を交互に見ながら土方が言った。詩織がコクリと頷き「不器用なので保障はありませんが……」と答えると、土方から大きなため息が漏れる。
「ったく、どいつもこいつも流されやがって」
「す、すみません、ご迷惑でしたよね? これは私が持ち帰りますから……」
土方の言葉に慌てた詩織は、チョコを回収しようと手を伸ばした。だが土方はその手をスイと避け、かさかさと袋を開け始める。
「副長!?」
「いくつ作ったんだよ」
「はい?」
「何人分作ったんだ? まさか隊士全員分ってこたァねェよな?」
そう言ってチョコを摘まむと、口の中に放り込んだ。
「……甘ェ」
少しだけ眉間にしわを寄せてモゴモゴと口を動かす土方に、詩織は戸惑いを見せる。だが意を決したのか、頬を染めながら言った。
「一つ、です」
「は?」
「だから……副長の分だけです」
語尾が小さくなっていくのは、恥ずかしさに俯いてしまったから。頭から湯気が出そうな程真っ赤になった顔は、言葉にしなくてもその想いを伝えてくる。
そんな詩織の姿に一瞬驚いた顔を見せた土方は、ゴクリとチョコを飲み込むと再びため息を吐いた。
「俺は甘い物が苦手でな。チョコなんざ滅多に食わねェ」
「す、すみません。無理やり食べさせる形になってしまって!」
詩織が申し訳なさそうに言う。だが謝りながらも首を傾げて「だったら何で食べてくれたんですか?」と尋ねると、土方は口角を上げて言った。
「不器用なお前が一生懸命作ったんだろ? それに……」
同時に伸ばされた腕が詩織を抱き寄せる。
「口直しも用意されてたからな」
驚く間もなく重ねられた唇は、チョコより甘い熱を伝えてきて。
「……甘い物、苦手なんですよね?」
「この甘さが苦手な奴はいねェよ。ただし……お前限定だがな」
その言葉通り土方は、蕩ける甘さの詩織を貪った。
後日。屯所内に響き渡った叫び声。
「俺ァあの歪なチョコで土方を抹殺してくれるかと思ってたんだがなァ。まさかチョコよりあま~いモンでトドメを刺すとは思わなかったぜ。いやァ、ビックリびっくり」
「た、隊長!? まさか……」
「俺はな~んにも見てねェよ。いやァ、土方さんのキス顔なんて最高のネタをくれた部下には、感謝しなきゃいけねェや」
「お……お……沖田隊長~~っ!」
その原因がこの会話だったという事は、想像に難くないだろう。
~了~
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