cigarette love(土方)
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【想い、燻らせ】
「うわぁ〜……っ!」
副長と別れ部屋に戻って早々、頭を抱えて畳に倒れこんだ私は、ゴロゴロと部屋を転げ回った。
未だ消えない唇の感触が、心臓をバクバクと激しく揺り動かしている。
「やってしまった……もうおしまいだよ〜!」
自分でも驚いてしまったくらいに大胆な行動は、土方副長を硬直させていた。
――タバコを咥えたままじゃ、キスもできないでしょう?
「って何!? ありえないくらいコッテコテだし、ドラマか何かのセリフなわけ? 私ってば何言ってんだかもう分かんないわよ!」
突然キスをされた上にあんなセリフを吐かれた日には、硬直して当然だ。今頃副長はきっと呆れているか、私を危険人物扱いしている事だろう。
「ほんとにもう、何で私は……」
悔やんでも悔やみきれない自らの行動に、私はただ頭を抱えるしかなかった。
「結局」
一頻り転がり回って落ち着いた私は、チラリと机を見る。ゆっくりと手を伸ばして引き出しから取り出したシガレットケースの中身はバラのタバコだ。
「焦ってるって事、か」
残りは2本。私はその内の1本を取り出すと、口に咥えて火を点けた。
元々体が受け付けないから肺に入れる事はできないけれど、口の中に溜めた煙を一気に吐き出す。副長の物よりもはっきりとした白が視界を覆い、目に沁みた。
「ケースのタバコが全てなくなった時が、副長を諦める時。そう決めてたもんなぁ」
副長を好きだという自覚はあったけれど、叶わない恋だという事も分かっていたから。それならせめてほんの少しの間だけでも片想いを楽しもうと、副長のイメージに合うこのシガレットケースにマヨボロを入れた。
副長に触れる事ができたら1本取り出し、想い、燻らせ忘れるために。
それなのに、忘れるどころか想いは強くなるばかり。
「残り一本。……いい加減諦めて忘れなきゃ……」
我ながら女々しいなと自嘲の笑みを浮かべつつ、灰皿にタバコを押し付けようとした時――。
「何を諦めて忘れるって?」
不意に耳元で囁かれ、驚いて振り向く。そこには副長が怪訝そうな顔で立っていた。しかもその手はタバコを持つ私の手を覆っている。
「未だ火ィ点けたばっかだってのに勿体ねェな。いらねェなら俺に寄越せ」
「え? 待って下さい、それ私が……」
言い終わる前にあっさりと取り上げられたタバコは、副長の唇に挟まれてゆっくりと紫煙を立ち上らせた。
「私が口を付けたのに……」
「あん? それがどうした」
「いや、だって間接キ……」
そこまで言って恥ずかしくなり、慌てて口を噤む。そんな私に副長は言った。
「今更恥ずかしがんのか? 間接どころか直接やらかした張本人がよ」
「すっ……すみませんっ!」
あの時は、副長が硬直していたのをいい事にさっさと立ち去ってしまったから。
恥ずかしさと怒られる覚悟を決め、私は深々と頭を下げた。
「大変失礼を致しました! この処分は如何様にも――」
「処分なんざねェよ。そもそも謝る必要がねェ」
「……え?」
副長の周りを漂っていた煙が大きく揺らぐ。
「コイツは没収だ。お前には必要ねーからな」
「それ……」
いつの間にか副長の手の中に移動したシガレットケース。蓋を開け、最後の一本を取り出した副長は、代わりに自分の懐に入れていたタバコを箱ごと詰め込んだ。
「あいにく中が空になる事はねェな」
蓋を閉め、懐にしまいながらニヤリと笑ってそう言った副長は、呆然としている私をぐいと抱き寄せる。
そのまま重ねられた唇は少し苦かったけれど、それ以上に熱く優しかった。
〜了〜
「うわぁ〜……っ!」
副長と別れ部屋に戻って早々、頭を抱えて畳に倒れこんだ私は、ゴロゴロと部屋を転げ回った。
未だ消えない唇の感触が、心臓をバクバクと激しく揺り動かしている。
「やってしまった……もうおしまいだよ〜!」
自分でも驚いてしまったくらいに大胆な行動は、土方副長を硬直させていた。
――タバコを咥えたままじゃ、キスもできないでしょう?
「って何!? ありえないくらいコッテコテだし、ドラマか何かのセリフなわけ? 私ってば何言ってんだかもう分かんないわよ!」
突然キスをされた上にあんなセリフを吐かれた日には、硬直して当然だ。今頃副長はきっと呆れているか、私を危険人物扱いしている事だろう。
「ほんとにもう、何で私は……」
悔やんでも悔やみきれない自らの行動に、私はただ頭を抱えるしかなかった。
「結局」
一頻り転がり回って落ち着いた私は、チラリと机を見る。ゆっくりと手を伸ばして引き出しから取り出したシガレットケースの中身はバラのタバコだ。
「焦ってるって事、か」
残りは2本。私はその内の1本を取り出すと、口に咥えて火を点けた。
元々体が受け付けないから肺に入れる事はできないけれど、口の中に溜めた煙を一気に吐き出す。副長の物よりもはっきりとした白が視界を覆い、目に沁みた。
「ケースのタバコが全てなくなった時が、副長を諦める時。そう決めてたもんなぁ」
副長を好きだという自覚はあったけれど、叶わない恋だという事も分かっていたから。それならせめてほんの少しの間だけでも片想いを楽しもうと、副長のイメージに合うこのシガレットケースにマヨボロを入れた。
副長に触れる事ができたら1本取り出し、想い、燻らせ忘れるために。
それなのに、忘れるどころか想いは強くなるばかり。
「残り一本。……いい加減諦めて忘れなきゃ……」
我ながら女々しいなと自嘲の笑みを浮かべつつ、灰皿にタバコを押し付けようとした時――。
「何を諦めて忘れるって?」
不意に耳元で囁かれ、驚いて振り向く。そこには副長が怪訝そうな顔で立っていた。しかもその手はタバコを持つ私の手を覆っている。
「未だ火ィ点けたばっかだってのに勿体ねェな。いらねェなら俺に寄越せ」
「え? 待って下さい、それ私が……」
言い終わる前にあっさりと取り上げられたタバコは、副長の唇に挟まれてゆっくりと紫煙を立ち上らせた。
「私が口を付けたのに……」
「あん? それがどうした」
「いや、だって間接キ……」
そこまで言って恥ずかしくなり、慌てて口を噤む。そんな私に副長は言った。
「今更恥ずかしがんのか? 間接どころか直接やらかした張本人がよ」
「すっ……すみませんっ!」
あの時は、副長が硬直していたのをいい事にさっさと立ち去ってしまったから。
恥ずかしさと怒られる覚悟を決め、私は深々と頭を下げた。
「大変失礼を致しました! この処分は如何様にも――」
「処分なんざねェよ。そもそも謝る必要がねェ」
「……え?」
副長の周りを漂っていた煙が大きく揺らぐ。
「コイツは没収だ。お前には必要ねーからな」
「それ……」
いつの間にか副長の手の中に移動したシガレットケース。蓋を開け、最後の一本を取り出した副長は、代わりに自分の懐に入れていたタバコを箱ごと詰め込んだ。
「あいにく中が空になる事はねェな」
蓋を閉め、懐にしまいながらニヤリと笑ってそう言った副長は、呆然としている私をぐいと抱き寄せる。
そのまま重ねられた唇は少し苦かったけれど、それ以上に熱く優しかった。
〜了〜