繋がらない電話(土方)
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あと1時間ほどで日付が変わるというのに、何度電話しても貴方は出てはくれない。
今すぐ声を聞きたいのに。
会いたくて仕方ないのに。
会えないどころか、電話で声を聞く事すら出来ないのが辛かった。
「何で……出てくれないのよ」
繋がらない電話にイラつきながら、履歴に同じ名前を並べていく。いい加減諦めたら良いのにと自分に言い聞かせても、指は勝手に貴方の名前を押し続けた。
やがて、履歴の全てが貴方の名前で埋まった頃、一本の電話が入る。名前も見ず咄嗟に電話に出ると、ずっと待ち焦がれていた声が耳に届いた。
『詩織お前、鬼電してんじゃねェよ』
「十四郎!」
『履歴が二桁で全部お前って。ありえねーだろうが』
「だって全然繋がらないんだもん」
『仕事だっつったろ。終わったら連絡するとも言ってあったはずだぞ』
「分かってるよ!分かってるけど……」
確かにそう言われてはいたけど、どうしても声を聞きたかったから。今日だけは我慢できなかったのだ。
「誕生日なんだもん。会えないならせめて声くらいは聞かせて!」
プレゼントなんて無くていい。忙しいならせめてただ一言、十四郎から「おめでとう」の言葉が欲しかった。
だからーー。
「今日くらいはワガママ言わせてよ……」
そう懇願すれば、電話越しに聞こえたのはため息。
『今日くらい、か』
「そうよ。誕生日は特別なんだもん」
呆れられたかと思いながらも、そこは譲れないのだという態度で答えると、十四郎は言った。
『俺は、ワガママ言うななんて言った覚えは無いんだがな』
「……え?」
ピンポーン
その時、チャイムが鳴った。
「あ、ごめん十四郎、ちょっと待ってて。誰か来た……」
十四郎の言葉に引っかかる物を感じながら、来客を確認しようとドアフォンの液晶を見た時。
「嘘……」
『嘘じゃねェ。ほら、さっさと開けろ』
そこに映っていたのは、紛れもなく十四郎だった。慌てて携帯を放り投げ、急いで玄関を開けると、苦笑いをしながら携帯をしまう十四郎の姿。
「携帯を放り投げてんじゃねェよ。耳が痛ェだろうが」
「ご、ごめん! だって驚いて……」
「まァ良いさ。とりあえずこれだけでも渡しておこうと思ってな」
そう言って十四郎が差し出したのは、小さな紙袋だった。
「本当はもっと早く来て、ゆっくり祝ってやりたかったんだが、将軍がらみの仕事じゃさすがに無理だった」
「だから全く繋がらなかったんだ……もう終わったの?」
「ああ。遅くなっちまって悪かったな」
十四郎から素直に謝られた事で、さっきまでのイライラが全て吹き飛んでしまう。受け取った紙袋を抱きしめながら、私は言った。
「こちらこそごめんね。十四郎は何も悪い事なんてしてないのに……」
「別に。女のワガママを聞くもんだしな」
「何よそれ。なんか偉そうなんだけど」
「俺にはそれだけの度量と器があるってこった」
グイと腕を引かれ、抱き寄せられた十四郎の胸は確かに大きく逞しかった。
「ま、そういうわけで誕生日おめでとう、詩織」
「……うん、ありがとう、十四郎」
自然な流れで落とされたキスはとても優しくて、胸が一杯になる。
「さて、ギリギリになっちまったが、とりあえずのお前のワガママは聞いたわけだ……これでもう満足か?」
何度かキスをした後、額をくっつけるようにして十四郎が言った。その顔は私を試すようにニヤリと笑っている。
「……もう、ズルいなぁ」
何を言わせたいのかが分かるから、私は拗ねてみせた。でも十四郎はただククッと笑うだけ。
これはもうこちらが折れるしかないと覚悟を決めた私は、一つ大きく深呼吸して言った。
「残り僅かの今日をお祝いして欲しい。……私の部屋で」
「仰せのままに」
返事と共に、私の体は宙に浮き上がる。
「十四郎!?」
「今から全力で祝って愛してやるよ。今日までのお前と……一つ歳を重ねた明日からのお前もな」
「……うん」
オートロックの閉まる音が聞こえた頃にはもう、十四郎しか見えなくなっていてーー。
そのまま私は、さっき受け取ったばかりの紙袋に入っていた、今は薬指にある指輪と十四郎の温もりに包まれながら、幸せな誕生日を過ごしたのだった。
〜了〜
今すぐ声を聞きたいのに。
会いたくて仕方ないのに。
会えないどころか、電話で声を聞く事すら出来ないのが辛かった。
「何で……出てくれないのよ」
繋がらない電話にイラつきながら、履歴に同じ名前を並べていく。いい加減諦めたら良いのにと自分に言い聞かせても、指は勝手に貴方の名前を押し続けた。
やがて、履歴の全てが貴方の名前で埋まった頃、一本の電話が入る。名前も見ず咄嗟に電話に出ると、ずっと待ち焦がれていた声が耳に届いた。
『詩織お前、鬼電してんじゃねェよ』
「十四郎!」
『履歴が二桁で全部お前って。ありえねーだろうが』
「だって全然繋がらないんだもん」
『仕事だっつったろ。終わったら連絡するとも言ってあったはずだぞ』
「分かってるよ!分かってるけど……」
確かにそう言われてはいたけど、どうしても声を聞きたかったから。今日だけは我慢できなかったのだ。
「誕生日なんだもん。会えないならせめて声くらいは聞かせて!」
プレゼントなんて無くていい。忙しいならせめてただ一言、十四郎から「おめでとう」の言葉が欲しかった。
だからーー。
「今日くらいはワガママ言わせてよ……」
そう懇願すれば、電話越しに聞こえたのはため息。
『今日くらい、か』
「そうよ。誕生日は特別なんだもん」
呆れられたかと思いながらも、そこは譲れないのだという態度で答えると、十四郎は言った。
『俺は、ワガママ言うななんて言った覚えは無いんだがな』
「……え?」
ピンポーン
その時、チャイムが鳴った。
「あ、ごめん十四郎、ちょっと待ってて。誰か来た……」
十四郎の言葉に引っかかる物を感じながら、来客を確認しようとドアフォンの液晶を見た時。
「嘘……」
『嘘じゃねェ。ほら、さっさと開けろ』
そこに映っていたのは、紛れもなく十四郎だった。慌てて携帯を放り投げ、急いで玄関を開けると、苦笑いをしながら携帯をしまう十四郎の姿。
「携帯を放り投げてんじゃねェよ。耳が痛ェだろうが」
「ご、ごめん! だって驚いて……」
「まァ良いさ。とりあえずこれだけでも渡しておこうと思ってな」
そう言って十四郎が差し出したのは、小さな紙袋だった。
「本当はもっと早く来て、ゆっくり祝ってやりたかったんだが、将軍がらみの仕事じゃさすがに無理だった」
「だから全く繋がらなかったんだ……もう終わったの?」
「ああ。遅くなっちまって悪かったな」
十四郎から素直に謝られた事で、さっきまでのイライラが全て吹き飛んでしまう。受け取った紙袋を抱きしめながら、私は言った。
「こちらこそごめんね。十四郎は何も悪い事なんてしてないのに……」
「別に。女のワガママを聞くもんだしな」
「何よそれ。なんか偉そうなんだけど」
「俺にはそれだけの度量と器があるってこった」
グイと腕を引かれ、抱き寄せられた十四郎の胸は確かに大きく逞しかった。
「ま、そういうわけで誕生日おめでとう、詩織」
「……うん、ありがとう、十四郎」
自然な流れで落とされたキスはとても優しくて、胸が一杯になる。
「さて、ギリギリになっちまったが、とりあえずのお前のワガママは聞いたわけだ……これでもう満足か?」
何度かキスをした後、額をくっつけるようにして十四郎が言った。その顔は私を試すようにニヤリと笑っている。
「……もう、ズルいなぁ」
何を言わせたいのかが分かるから、私は拗ねてみせた。でも十四郎はただククッと笑うだけ。
これはもうこちらが折れるしかないと覚悟を決めた私は、一つ大きく深呼吸して言った。
「残り僅かの今日をお祝いして欲しい。……私の部屋で」
「仰せのままに」
返事と共に、私の体は宙に浮き上がる。
「十四郎!?」
「今から全力で祝って愛してやるよ。今日までのお前と……一つ歳を重ねた明日からのお前もな」
「……うん」
オートロックの閉まる音が聞こえた頃にはもう、十四郎しか見えなくなっていてーー。
そのまま私は、さっき受け取ったばかりの紙袋に入っていた、今は薬指にある指輪と十四郎の温もりに包まれながら、幸せな誕生日を過ごしたのだった。
〜了〜
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