始まりのHoly Night(銀時)
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毎年十二月になると、アドベントカレンダーを開けるのか楽しみだった。
何のことはない小さなお菓子が入っているだけなのに、毎日クリスマスのカウントダウンをしながらそれを食べるのがとにかく嬉しくて。二十歳を超えた今でも、店で見かけるとつい買ってしまっていた。
「なァ詩織。何でこのカレンダー破られてんの?」
その日、部屋の棚を直してもらう為に来てもらっていた万事屋の銀さんが、机の上に置いていたアドベントカレンダーを見て言った。
「ああ、銀さんは知らないんだ? 中にお菓子が入ってるんだよ。毎日その日付に合わせて取り出すの」
「へェ……また洒落たモン持ってんな」
「割と子供の間では流行ってると思うよ。一応毎日種類が違うから、結構楽しめるの。最後の所には一番豪華なお菓子が入ってて、サンタさんからのプレゼントだと思ってたんだ」
私が笑いながら答えると、自分から聞いた割には大して興味無さそうに「あっそ」と言って作業に戻る。
まぁ確かに大人の男性向けのお楽しみじゃないかな? と思った私は、そろそろ仕事が終わりそうな銀さんの為に、彼向けのお茶とお菓子の準備に取り掛かった。
そして、待ちに待った二十四日のクリスマスイブがやってくる。
昨日の夜、何故か銀さんから「二十四日のアドベントカレンダーを開けるのは、夜まで待てよ」と言われ、訳の分からぬまま言う通りに待っていた。
時計の針は八時を回り、そろそろ良いかとカレンダーに手をかけた時、物凄い勢いで部屋のチャイムが鳴る。驚いて覗き穴から外を見ると、肩で息をする銀さんの姿があった。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「カレンダー……」
「はい?」
「今日の分、未だ開けてねェよな?」
「え? あ、うん、今開けようとしてたトコだけど」
「ギリギリセーフ、だな。……入るぞ」
「な……っ! ちょっと銀さん!?」
私の制止を聞かず、ズカズカと部屋に上がり込んだ銀さんは、真っ直ぐにアドベントカレンダーへと向かっていく。しかも躊躇する事なくカレンダーを掴み、最後の日付けを破ってしまった。
「何なのよ一体。まさかそれをする為にわざわざ来たの? 破ってみたかったんだったら言ってくれれば……」
強引なやり方にさすがの私も怒ったけれど、当の銀さんは何も言わず、そのままちょこちょことカレンダーを触り続けている。
「もう、銀さんってば聞いてるの?」
私の言葉をスルーし続ける銀さんに業を煮やし、彼の肩に手をかけようとした時。
「ほらよ」
突如目の前に出され、咄嗟に受け止めたカレンダー。それは何故か不思議な重みを感じさせ、シャラシャラと音を立てた。
言葉が見つからずに銀さんの顔を見上げれば、意味ありげな視線を向けられる。
仕方なくカレンダーを確認すると、たった今破かれたばかりの二十四日の部分がわざわざ閉じられていた。シャラシャラ音は、そこから聞こえてくるようだ。
「これは何のイタズラ?」
まさか虫でも入れられたんじゃ? と少し怯えながら中を確認すると、入っていたのはお菓子、ではなく――。
「わぁ……!」
雪の結晶のペンダントだった。
それは以前、親戚のお登勢さん経由で初めて銀さんに仕事を依頼した日に、買い物の荷物持ちをお願いした私が通りすがりの店先で「可愛い」と言った物。そう言えばあの日以来、何故か用がなくとも毎日のように、銀さんと顔を合わせるようになったんだっけ。
「よくこんなの覚えてたね。……でも何で?」
銀さんから貰う謂れのない私は首をかしげる。そんな私を見て、銀さんはガックリと肩を落とした。
「こーんな分かりやすい方法でも気付かねェのかよ」
そう言った銀さんは私の手の中からペンダントを取り、金具を外す。
「詩織がコレを付けてる姿を見たくなっちまったんだよ」
ゆっくりとした動作で正面から手を伸ばした銀さんは、私の首にペンダントをかけてくれた。
「イブの夜に雪とプレゼントってのは鉄板だろ?」
そのまま私を抱きしめた銀さんから、早鐘のような心臓の音が伝わってくる。それに呼応するように私の胸も鼓動が早まり、恋の始まりを予感させた。
「もしかして、初めて会った時から……」
――私を好きだったの?
そう聞いてみたかったのに、銀さんは許してくれなくて。
その代わりに与えられたのは、イブの夜に相応しい、優しく甘い口付けだった。
~了~
何のことはない小さなお菓子が入っているだけなのに、毎日クリスマスのカウントダウンをしながらそれを食べるのがとにかく嬉しくて。二十歳を超えた今でも、店で見かけるとつい買ってしまっていた。
「なァ詩織。何でこのカレンダー破られてんの?」
その日、部屋の棚を直してもらう為に来てもらっていた万事屋の銀さんが、机の上に置いていたアドベントカレンダーを見て言った。
「ああ、銀さんは知らないんだ? 中にお菓子が入ってるんだよ。毎日その日付に合わせて取り出すの」
「へェ……また洒落たモン持ってんな」
「割と子供の間では流行ってると思うよ。一応毎日種類が違うから、結構楽しめるの。最後の所には一番豪華なお菓子が入ってて、サンタさんからのプレゼントだと思ってたんだ」
私が笑いながら答えると、自分から聞いた割には大して興味無さそうに「あっそ」と言って作業に戻る。
まぁ確かに大人の男性向けのお楽しみじゃないかな? と思った私は、そろそろ仕事が終わりそうな銀さんの為に、彼向けのお茶とお菓子の準備に取り掛かった。
そして、待ちに待った二十四日のクリスマスイブがやってくる。
昨日の夜、何故か銀さんから「二十四日のアドベントカレンダーを開けるのは、夜まで待てよ」と言われ、訳の分からぬまま言う通りに待っていた。
時計の針は八時を回り、そろそろ良いかとカレンダーに手をかけた時、物凄い勢いで部屋のチャイムが鳴る。驚いて覗き穴から外を見ると、肩で息をする銀さんの姿があった。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「カレンダー……」
「はい?」
「今日の分、未だ開けてねェよな?」
「え? あ、うん、今開けようとしてたトコだけど」
「ギリギリセーフ、だな。……入るぞ」
「な……っ! ちょっと銀さん!?」
私の制止を聞かず、ズカズカと部屋に上がり込んだ銀さんは、真っ直ぐにアドベントカレンダーへと向かっていく。しかも躊躇する事なくカレンダーを掴み、最後の日付けを破ってしまった。
「何なのよ一体。まさかそれをする為にわざわざ来たの? 破ってみたかったんだったら言ってくれれば……」
強引なやり方にさすがの私も怒ったけれど、当の銀さんは何も言わず、そのままちょこちょことカレンダーを触り続けている。
「もう、銀さんってば聞いてるの?」
私の言葉をスルーし続ける銀さんに業を煮やし、彼の肩に手をかけようとした時。
「ほらよ」
突如目の前に出され、咄嗟に受け止めたカレンダー。それは何故か不思議な重みを感じさせ、シャラシャラと音を立てた。
言葉が見つからずに銀さんの顔を見上げれば、意味ありげな視線を向けられる。
仕方なくカレンダーを確認すると、たった今破かれたばかりの二十四日の部分がわざわざ閉じられていた。シャラシャラ音は、そこから聞こえてくるようだ。
「これは何のイタズラ?」
まさか虫でも入れられたんじゃ? と少し怯えながら中を確認すると、入っていたのはお菓子、ではなく――。
「わぁ……!」
雪の結晶のペンダントだった。
それは以前、親戚のお登勢さん経由で初めて銀さんに仕事を依頼した日に、買い物の荷物持ちをお願いした私が通りすがりの店先で「可愛い」と言った物。そう言えばあの日以来、何故か用がなくとも毎日のように、銀さんと顔を合わせるようになったんだっけ。
「よくこんなの覚えてたね。……でも何で?」
銀さんから貰う謂れのない私は首をかしげる。そんな私を見て、銀さんはガックリと肩を落とした。
「こーんな分かりやすい方法でも気付かねェのかよ」
そう言った銀さんは私の手の中からペンダントを取り、金具を外す。
「詩織がコレを付けてる姿を見たくなっちまったんだよ」
ゆっくりとした動作で正面から手を伸ばした銀さんは、私の首にペンダントをかけてくれた。
「イブの夜に雪とプレゼントってのは鉄板だろ?」
そのまま私を抱きしめた銀さんから、早鐘のような心臓の音が伝わってくる。それに呼応するように私の胸も鼓動が早まり、恋の始まりを予感させた。
「もしかして、初めて会った時から……」
――私を好きだったの?
そう聞いてみたかったのに、銀さんは許してくれなくて。
その代わりに与えられたのは、イブの夜に相応しい、優しく甘い口付けだった。
~了~
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