その残像に口付けて(銀時)
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私が働いている店で、いつも同じ席に座るあの人。
店の親父さんや他の客たちと親しげに話し、食事を済ませて笑顔で去っていく姿を、もう何度見ただろう。
誰とでも屈託無く話せる彼は、人見知りな私とは違う世界の人なんだと思ってはいながらも、何度もあの笑顔を見ている内に、忘れられなくなっていた。
そろそろ閉店の時間。
既にお客はおらず、一人で店を片付けていると、ふとあの席が目に入った。
隣に座って瞼を閉じ、そちらを見れば浮かぶあの人の残像。
唯の一度も並んで座った事など無いのに、その姿は不思議とリアルで。向けられた笑顔が自分だけの物に思えて幸せだった。
「私にほんの少しでも勇気があれば……」
でもそんな小さな期待は、瞼を開いた瞬間に大きな諦めとなる。
「なんて、ね」
薄暗い店内に、あの人の姿なんて無い。
「だったらせめて、残像のあなたの隣にくらいはいても良いですか……?」
そう呟いた私は、再び瞼を閉じた。
そっと口付けるように身を乗り出せば、唇に感じた熱。
その温もりはとても心地良かったけれど、あまりにはっきりとした感触に驚いて目を開けた。するとそこにあったのは……。
「坂田、さん……!?」
「いやァ、詩織ちゃんってば見かけによらず大胆なのね。銀さんびっくりしちゃったわ」
いつものように楽しそうに笑いながら、坂田さんは言った。
「店が終わる頃を狙って来てみたら、先越されちまったぜ」
「え?あの……」
何が起きているのかが分からず頭が混乱している私は、ポカンと坂田さんを見る。そんな私を坂田さんは優しく抱きしめた。
「俺の存在に気付いて欲しくて毎度同じ席に座ったり、賑やかに騒いでみたり。これでも色々努力してたんだってーの」
「それって……」
言葉の意味を理解しながらも信じられない私に、坂田さんは言った。
「残像なんかじゃなく、今目の前にいる俺の隣にいろよ」
そして重なる影。
触れた唇はやっぱり心地良くて。
「坂田さん、私……」
「銀さん。これからはそう呼べよ」
「……はい、銀さん」
そう答えた私に銀さんは少し頬を染め、今まで店では見せたことのない、照れた顔で笑った。
〜了〜
店の親父さんや他の客たちと親しげに話し、食事を済ませて笑顔で去っていく姿を、もう何度見ただろう。
誰とでも屈託無く話せる彼は、人見知りな私とは違う世界の人なんだと思ってはいながらも、何度もあの笑顔を見ている内に、忘れられなくなっていた。
そろそろ閉店の時間。
既にお客はおらず、一人で店を片付けていると、ふとあの席が目に入った。
隣に座って瞼を閉じ、そちらを見れば浮かぶあの人の残像。
唯の一度も並んで座った事など無いのに、その姿は不思議とリアルで。向けられた笑顔が自分だけの物に思えて幸せだった。
「私にほんの少しでも勇気があれば……」
でもそんな小さな期待は、瞼を開いた瞬間に大きな諦めとなる。
「なんて、ね」
薄暗い店内に、あの人の姿なんて無い。
「だったらせめて、残像のあなたの隣にくらいはいても良いですか……?」
そう呟いた私は、再び瞼を閉じた。
そっと口付けるように身を乗り出せば、唇に感じた熱。
その温もりはとても心地良かったけれど、あまりにはっきりとした感触に驚いて目を開けた。するとそこにあったのは……。
「坂田、さん……!?」
「いやァ、詩織ちゃんってば見かけによらず大胆なのね。銀さんびっくりしちゃったわ」
いつものように楽しそうに笑いながら、坂田さんは言った。
「店が終わる頃を狙って来てみたら、先越されちまったぜ」
「え?あの……」
何が起きているのかが分からず頭が混乱している私は、ポカンと坂田さんを見る。そんな私を坂田さんは優しく抱きしめた。
「俺の存在に気付いて欲しくて毎度同じ席に座ったり、賑やかに騒いでみたり。これでも色々努力してたんだってーの」
「それって……」
言葉の意味を理解しながらも信じられない私に、坂田さんは言った。
「残像なんかじゃなく、今目の前にいる俺の隣にいろよ」
そして重なる影。
触れた唇はやっぱり心地良くて。
「坂田さん、私……」
「銀さん。これからはそう呼べよ」
「……はい、銀さん」
そう答えた私に銀さんは少し頬を染め、今まで店では見せたことのない、照れた顔で笑った。
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