ある七夕の日に(銀時)
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街を歩いていたら、商店街のおじさんに一枚の紙を渡された。
「今日は七夕だろ。詩織ちゃんも短冊に願いを書いていったらどうだい?」
おじさんが指差した先には、一本の笹が置かれている。そこには既に数枚の短冊が飾られていた。
「私は良いよ。大人だもん」
「大人だって夢は見ても良いだろう?きっと詩織ちゃんにも幸せが来るよ。ほら、書いた書いた!」
「珍しく強引だね、おじさん。でもそうだなぁ……せっかくだし書いてみよっか」
ペンを借り、願い事を書く。適当な場所に括り付けて良いと言われた私は、どこにしようかと迷いながら笹の周りを一周した。
と、その時。
「これ……ひょっとして」
あまり他人の願い事は見ないようにしようと思っていたのに、目に入ってしまった一枚の短冊。豪快に書かれた紙の端にはしっかりと、『坂田銀時』の署名が入っている。
「銀時も書いてたんだ。……何をお願いしてるんだろう」
何だか悪い事をしているような気分になりながらもやっぱり気になって、そこに書かれた文字を読もうと短冊に手を伸ばした。
ーー割が良くて簡単な仕事が来ますよーに
ーー甘味をたらふく食っても糖尿とは縁の無い体になりますよーに
「……織姫と彦星が頭を抱えそうだな……」
何とも頭の悪い願い事に、呆れながら溜息を吐いた。
「どちらか一つでも微妙な願いなのに。こんな願い事をされちゃ、織姫と彦星もゆっくりデートなんてできないよねぇ」
そんな事を呟きながら短冊から手を離すと、元々結び方が弱かったのか、ヒラリと地面に落ちてしまった。
「いけない!」
慌てて拾い上げ、急いで結び直そうとした時に気付く。
「裏にも何か書いてある……?」
よく見ると、表は黒のペンで書かれているのに、裏には鉛筆で文字が書かれていた。
「何かのメモ?」
薄くて見辛い文字を判読しようと、短冊に目を凝らしてみると……。
ーー詩織が俺に惚れますよーに
「……何よ、これ」
驚きで固まる。事ある毎にちょっかいを出して来るなとは思っていたけれど、まさかそんな事を考えていたなんて。
「いつも私をからかうばかりの癖に……」
ひょっとしてこの短冊も、私をからかうためのネタ? でもここに来るかも分からない人間に、そんなイタズラを用意する?
「こんなのって、私……」
この状況では、銀時の本心を訊ねる事も出来ない。私は一体どうすれば……。
しばらくの間、私は頭を抱えていた。が、最終的に自分の結論へとたどり着く。
「おじさん、申し訳ないけどもう一枚短冊の紙をもらっても良い?」
新しい紙をもらい、改めてペンを走らせる。書き上げた短冊を銀時の短冊の横に飾ると、私は満足げに頷いた。
「さて、七夕効果はあるのかな」
一時間ほど経った頃、銀時が私の家にやって来た。
「……よォ、詩織」
「銀時。連絡無しに来るなんて珍しいね」
インターホンで確認して玄関から出ようとすると、いきなり目の前に突き出された紙。それはさっき私が書いた短冊だった。
「これ……お前だよな?」
少し頬を赤らめながらも、緊張した面持ちの銀時が言う。
ーーお隣の短冊の人が『裏面の願い』が叶うまであと一息という事に気付きますように
改めて内容を確認した私は、間違いないと頷いて見せた。
「よく分かったね。名前は書かなかったのに」
「詩織の字くらい、見りゃ分かるってーの。だから……確かめに来た」
そう言った銀時は、私を玄関の中へ押し込みながら抱きしめると、耳元で囁いた。
「自惚れて良いんだよな? 実は冗談でした、なんて事言われたら銀さん、一生立ち直れないかんね」
いつもは強気な態度で私をからかって遊んでいる癖に、今目の前にいる銀時はまるで小さな子供のようだ。私を抱きしめているのではなく、必死に抱きついて来ているような錯覚に陥っているのはきっと、それだけ銀時が必死なのだという証。
だから、私は言った。
「銀時が正面から想いを伝えれば、きちんと願いは叶うんじゃない?」
その言葉で覚悟を決めたかのように、銀時が正面から私を見つめる。
「……詩織」
「はい」
「あ〜、その……」
「うん」
「……好き、だからな」
「……うん」
恥ずかしさと嬉しさで思わず溢れてしまった笑みと共に私が頷くと、不意に唇が重なった。
「だからお前も、俺を好きになれよ」
「……そんなの今更だよ」
私が言うと、一瞬銀時の目が大きく見開かれる。でもすぐに目を細めて嬉しそうに笑うと、再び私にキスをしたのだった。
〜了〜
【おまけ】
「ねえ銀時。ひょっとしておじさんとグルだった? 私が短冊に気付くようにって」
「……さァな」
「ん〜、答えられないってわけね。そこは察しておくとして、表面の願いは自力で頑張れ!」
「あ、やっぱり?」
「今日は七夕だろ。詩織ちゃんも短冊に願いを書いていったらどうだい?」
おじさんが指差した先には、一本の笹が置かれている。そこには既に数枚の短冊が飾られていた。
「私は良いよ。大人だもん」
「大人だって夢は見ても良いだろう?きっと詩織ちゃんにも幸せが来るよ。ほら、書いた書いた!」
「珍しく強引だね、おじさん。でもそうだなぁ……せっかくだし書いてみよっか」
ペンを借り、願い事を書く。適当な場所に括り付けて良いと言われた私は、どこにしようかと迷いながら笹の周りを一周した。
と、その時。
「これ……ひょっとして」
あまり他人の願い事は見ないようにしようと思っていたのに、目に入ってしまった一枚の短冊。豪快に書かれた紙の端にはしっかりと、『坂田銀時』の署名が入っている。
「銀時も書いてたんだ。……何をお願いしてるんだろう」
何だか悪い事をしているような気分になりながらもやっぱり気になって、そこに書かれた文字を読もうと短冊に手を伸ばした。
ーー割が良くて簡単な仕事が来ますよーに
ーー甘味をたらふく食っても糖尿とは縁の無い体になりますよーに
「……織姫と彦星が頭を抱えそうだな……」
何とも頭の悪い願い事に、呆れながら溜息を吐いた。
「どちらか一つでも微妙な願いなのに。こんな願い事をされちゃ、織姫と彦星もゆっくりデートなんてできないよねぇ」
そんな事を呟きながら短冊から手を離すと、元々結び方が弱かったのか、ヒラリと地面に落ちてしまった。
「いけない!」
慌てて拾い上げ、急いで結び直そうとした時に気付く。
「裏にも何か書いてある……?」
よく見ると、表は黒のペンで書かれているのに、裏には鉛筆で文字が書かれていた。
「何かのメモ?」
薄くて見辛い文字を判読しようと、短冊に目を凝らしてみると……。
ーー詩織が俺に惚れますよーに
「……何よ、これ」
驚きで固まる。事ある毎にちょっかいを出して来るなとは思っていたけれど、まさかそんな事を考えていたなんて。
「いつも私をからかうばかりの癖に……」
ひょっとしてこの短冊も、私をからかうためのネタ? でもここに来るかも分からない人間に、そんなイタズラを用意する?
「こんなのって、私……」
この状況では、銀時の本心を訊ねる事も出来ない。私は一体どうすれば……。
しばらくの間、私は頭を抱えていた。が、最終的に自分の結論へとたどり着く。
「おじさん、申し訳ないけどもう一枚短冊の紙をもらっても良い?」
新しい紙をもらい、改めてペンを走らせる。書き上げた短冊を銀時の短冊の横に飾ると、私は満足げに頷いた。
「さて、七夕効果はあるのかな」
一時間ほど経った頃、銀時が私の家にやって来た。
「……よォ、詩織」
「銀時。連絡無しに来るなんて珍しいね」
インターホンで確認して玄関から出ようとすると、いきなり目の前に突き出された紙。それはさっき私が書いた短冊だった。
「これ……お前だよな?」
少し頬を赤らめながらも、緊張した面持ちの銀時が言う。
ーーお隣の短冊の人が『裏面の願い』が叶うまであと一息という事に気付きますように
改めて内容を確認した私は、間違いないと頷いて見せた。
「よく分かったね。名前は書かなかったのに」
「詩織の字くらい、見りゃ分かるってーの。だから……確かめに来た」
そう言った銀時は、私を玄関の中へ押し込みながら抱きしめると、耳元で囁いた。
「自惚れて良いんだよな? 実は冗談でした、なんて事言われたら銀さん、一生立ち直れないかんね」
いつもは強気な態度で私をからかって遊んでいる癖に、今目の前にいる銀時はまるで小さな子供のようだ。私を抱きしめているのではなく、必死に抱きついて来ているような錯覚に陥っているのはきっと、それだけ銀時が必死なのだという証。
だから、私は言った。
「銀時が正面から想いを伝えれば、きちんと願いは叶うんじゃない?」
その言葉で覚悟を決めたかのように、銀時が正面から私を見つめる。
「……詩織」
「はい」
「あ〜、その……」
「うん」
「……好き、だからな」
「……うん」
恥ずかしさと嬉しさで思わず溢れてしまった笑みと共に私が頷くと、不意に唇が重なった。
「だからお前も、俺を好きになれよ」
「……そんなの今更だよ」
私が言うと、一瞬銀時の目が大きく見開かれる。でもすぐに目を細めて嬉しそうに笑うと、再び私にキスをしたのだった。
〜了〜
【おまけ】
「ねえ銀時。ひょっとしておじさんとグルだった? 私が短冊に気付くようにって」
「……さァな」
「ん〜、答えられないってわけね。そこは察しておくとして、表面の願いは自力で頑張れ!」
「あ、やっぱり?」
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