美味しさの秘密(銀時)
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私の働くお店には、毎日イチゴ牛乳を一本だけ買いに来る常連客がいる。
ふわふわとした天然パーマはちょっと珍しい白銀色。
目と眉毛の距離が遠く、見るからにやる気のない死んだ魚のような目。
真面目に話せば良い声なのに、気怠げに間延びしている残念な喋りと、何もかもが印象に残りやすい人だった。
その人はいつも、店に入ると一直線にイチゴ牛乳の棚に行き、レジまで持ってくる。お金を払い、店を出るのと同時にストローを咥える彼の表情は心底幸せそうで、見ている私も幸せになれた。
それが毎日続けば、お互い気心が知れるようになるのは必然というもの。いつしか店の外でも「銀さん」「詩織」と声をかけ合えるようになり、気づけば私の中に淡い恋心が芽生えていた。
もちろんこのことは口にしていない。
そもそも私なんて、銀さんにとっては単なる店員の一人すぎないはずだから。
だったら今のまま、気軽に話せる友達でいられれば良い。
そう、思っていた。
ある日のこと。
私は店の研修で、1ヶ月ほど別の店舗に行くことになった。
場所は隣町。正直なところ、誰一人知り合いがいないことに一抹の不安はある。でも仕事なんだし、とにかくやってみるしかないと覚悟を決めた。
そして研修が始まった三日目の午後。
棚のチェックをするため飲料コーナーに行くと、見知った人影があった。
パック飲料のコーナーに佇む白銀は、見間違えようの無いあの人。
「銀さん……どうしてこんなところに?」
驚いて声をかける。すると銀さんは、商品の棚を見つめながら不機嫌に言った。
「コイツがねーからに決まってんだろ」
指で示した先にあるのは、いつものイチゴ牛乳。それを一本手に取ると、ゆっくりこちらを向いた。
「サクッとレジ通してくんない? 銀さんすげー喉乾いてんだわ」
「それは構わないけど……いつもの店に在庫は無かったの? 銀さん用に店長が毎日補充してるはずなのに」
「補充されてても味が違うんだよ」
「味? まさか発注間違いしてた!?」
申し送り書にはきちんと書いておいたはずだったけど、何か手違いでもあったんだろうか。
「ごめんなさい。すぐに店長に連絡入れるわ。改めて確認してもらって、明日以降はちゃんと在庫を揃えてもらうからね」
手を合わせて謝ると、早速携帯を取り出して店の電話番号を開く。
ところがだ。納得がいかなかったのか、銀さんはますます不機嫌になってしまった。
苛立ちを隠せない銀さん。とは言え今の私には謝ることしかできない。
「本当にごめんなさい。明日からは必ず在庫が切れないようにしておいてもらうから」
頭を下げてもう一度謝罪する。
でも銀さんは苛立ち気味に「だからそーじゃなくて」と言って、下げた私の頭をイチゴ牛乳のパックで軽く突いた。
「コレじゃなきゃ意味がねーんだっつーの」
「だから商品が間違ってたってことでしょ? 今すぐ訂正するから──」
「だからそうじゃなくて……あーくそッ。これだから鈍感なやつは……」
銀さんの眉間にシワが寄る。
一体何がこんなにも銀さんを不機嫌にさせてるんだろう。私ってそんなに察しが悪いのかな?
「申し訳ないけど、銀さんの言いたいことが分かんないの。はっきりと言ってもらっていい?」
分からないなら直接訊くのが一番と思い、ストレートに疑問をぶつけた。すると銀さんは大きくため息を吐き、私の手を掴んでイチゴ牛乳を握らせる。
「商品が違ってるとかじゃなくてだな……銀さんにとってこのイチゴ牛乳は、詩織から買わなきゃ美味くねーんだよ」
そう言って口を尖らせた銀さんの頬は、ほんのりイチゴ色に染まっていた。
〜了〜
ふわふわとした天然パーマはちょっと珍しい白銀色。
目と眉毛の距離が遠く、見るからにやる気のない死んだ魚のような目。
真面目に話せば良い声なのに、気怠げに間延びしている残念な喋りと、何もかもが印象に残りやすい人だった。
その人はいつも、店に入ると一直線にイチゴ牛乳の棚に行き、レジまで持ってくる。お金を払い、店を出るのと同時にストローを咥える彼の表情は心底幸せそうで、見ている私も幸せになれた。
それが毎日続けば、お互い気心が知れるようになるのは必然というもの。いつしか店の外でも「銀さん」「詩織」と声をかけ合えるようになり、気づけば私の中に淡い恋心が芽生えていた。
もちろんこのことは口にしていない。
そもそも私なんて、銀さんにとっては単なる店員の一人すぎないはずだから。
だったら今のまま、気軽に話せる友達でいられれば良い。
そう、思っていた。
ある日のこと。
私は店の研修で、1ヶ月ほど別の店舗に行くことになった。
場所は隣町。正直なところ、誰一人知り合いがいないことに一抹の不安はある。でも仕事なんだし、とにかくやってみるしかないと覚悟を決めた。
そして研修が始まった三日目の午後。
棚のチェックをするため飲料コーナーに行くと、見知った人影があった。
パック飲料のコーナーに佇む白銀は、見間違えようの無いあの人。
「銀さん……どうしてこんなところに?」
驚いて声をかける。すると銀さんは、商品の棚を見つめながら不機嫌に言った。
「コイツがねーからに決まってんだろ」
指で示した先にあるのは、いつものイチゴ牛乳。それを一本手に取ると、ゆっくりこちらを向いた。
「サクッとレジ通してくんない? 銀さんすげー喉乾いてんだわ」
「それは構わないけど……いつもの店に在庫は無かったの? 銀さん用に店長が毎日補充してるはずなのに」
「補充されてても味が違うんだよ」
「味? まさか発注間違いしてた!?」
申し送り書にはきちんと書いておいたはずだったけど、何か手違いでもあったんだろうか。
「ごめんなさい。すぐに店長に連絡入れるわ。改めて確認してもらって、明日以降はちゃんと在庫を揃えてもらうからね」
手を合わせて謝ると、早速携帯を取り出して店の電話番号を開く。
ところがだ。納得がいかなかったのか、銀さんはますます不機嫌になってしまった。
苛立ちを隠せない銀さん。とは言え今の私には謝ることしかできない。
「本当にごめんなさい。明日からは必ず在庫が切れないようにしておいてもらうから」
頭を下げてもう一度謝罪する。
でも銀さんは苛立ち気味に「だからそーじゃなくて」と言って、下げた私の頭をイチゴ牛乳のパックで軽く突いた。
「コレじゃなきゃ意味がねーんだっつーの」
「だから商品が間違ってたってことでしょ? 今すぐ訂正するから──」
「だからそうじゃなくて……あーくそッ。これだから鈍感なやつは……」
銀さんの眉間にシワが寄る。
一体何がこんなにも銀さんを不機嫌にさせてるんだろう。私ってそんなに察しが悪いのかな?
「申し訳ないけど、銀さんの言いたいことが分かんないの。はっきりと言ってもらっていい?」
分からないなら直接訊くのが一番と思い、ストレートに疑問をぶつけた。すると銀さんは大きくため息を吐き、私の手を掴んでイチゴ牛乳を握らせる。
「商品が違ってるとかじゃなくてだな……銀さんにとってこのイチゴ牛乳は、詩織から買わなきゃ美味くねーんだよ」
そう言って口を尖らせた銀さんの頬は、ほんのりイチゴ色に染まっていた。
〜了〜
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