卒業式の後で(銀八)
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卒業式を終え、名残を惜しむ生徒たちが集まっていた校庭も今はまばら。一人、また一人と校門から立ち去っていく姿を塔屋から眺めながら、銀八はタバコを吹かしていた。
手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったもので、今年担当した個性の強い三年Z組の生徒たちとの別れは、これまでの教師生活の中で最も胸を熱くする。
とは言え、それを素直に表に出すのはガラじゃない。だからこそ銀八は誰もいない塔屋で、一人静かに生徒たちの旅立ちを見送っていた。
優しい風が、蕾の膨らんだ桜の枝を揺らしている。そこに自らの吐いた紫煙が重なると、まるで花が咲いているかのように見えた。
煙の花とともに浮かんでは消える、卒業生たちの顔。わがままで生意気で、いつだって困らされるばかりだったというのに。今となっては全てが良い思い出に補正されていた。きっと彼らの存在は、いつまでも忘れないだろう。
「ほんとに卒業しちまったんだなァ……」
認めたくない感情が、胸の中に渦巻く。鼻の奥がツンとする感覚をごまかすように、銀八は大きくタバコの煙を吸い込んだ。
肺が満たされていくのを感じながら、ぼんやりと校庭を眺め続ける。そして最後の一人が校門をくぐったのを見届けた銀八が、ほぼフィルターしか残っていないタバコの火を消そうとした時。
「こんなところにいた!」
不意に聞こえた叫び声。すぐにそれが誰か分かり、銀八が気怠げに振り向くと案の定、タラップの最後の一段を蹴った同僚の詩織が走り寄ってきた。
「もう、探したわよ坂田先生! 生徒は帰宅したし、いい加減仕事に戻らなきゃ」
「相変わらず仕事熱心だねェ」
携帯灰皿にタバコを押し付け、苦笑いする。
三年Z組の副担任として、自分と同じく生徒たちと触れ合ってきたはずなのに。こんなにもあっさり気持ちを切り替えられるのかと、銀八は苛立ちを覚えた。
「頭では分かっちゃいるけどよ」
携帯灰皿をポケットにしまう。
「ちったァ感傷に浸っても良いんじゃねーの?」
吐き捨てるように言うと、タラップに向かった。
迎えに来た詩織を置いて先に下りた銀八は、感情を隠した死んだ魚のような目で塔屋を仰ぎ見る。すると頬に熱いものがかかり、思わず目を見開いた。
「……詩織センセ……?」
再び、頬を濡らした熱。それは塔屋の下を覗き込んでいる詩織からこぼれ落ちた涙だった。
手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったもので、今年担当した個性の強い三年Z組の生徒たちとの別れは、これまでの教師生活の中で最も胸を熱くする。
とは言え、それを素直に表に出すのはガラじゃない。だからこそ銀八は誰もいない塔屋で、一人静かに生徒たちの旅立ちを見送っていた。
優しい風が、蕾の膨らんだ桜の枝を揺らしている。そこに自らの吐いた紫煙が重なると、まるで花が咲いているかのように見えた。
煙の花とともに浮かんでは消える、卒業生たちの顔。わがままで生意気で、いつだって困らされるばかりだったというのに。今となっては全てが良い思い出に補正されていた。きっと彼らの存在は、いつまでも忘れないだろう。
「ほんとに卒業しちまったんだなァ……」
認めたくない感情が、胸の中に渦巻く。鼻の奥がツンとする感覚をごまかすように、銀八は大きくタバコの煙を吸い込んだ。
肺が満たされていくのを感じながら、ぼんやりと校庭を眺め続ける。そして最後の一人が校門をくぐったのを見届けた銀八が、ほぼフィルターしか残っていないタバコの火を消そうとした時。
「こんなところにいた!」
不意に聞こえた叫び声。すぐにそれが誰か分かり、銀八が気怠げに振り向くと案の定、タラップの最後の一段を蹴った同僚の詩織が走り寄ってきた。
「もう、探したわよ坂田先生! 生徒は帰宅したし、いい加減仕事に戻らなきゃ」
「相変わらず仕事熱心だねェ」
携帯灰皿にタバコを押し付け、苦笑いする。
三年Z組の副担任として、自分と同じく生徒たちと触れ合ってきたはずなのに。こんなにもあっさり気持ちを切り替えられるのかと、銀八は苛立ちを覚えた。
「頭では分かっちゃいるけどよ」
携帯灰皿をポケットにしまう。
「ちったァ感傷に浸っても良いんじゃねーの?」
吐き捨てるように言うと、タラップに向かった。
迎えに来た詩織を置いて先に下りた銀八は、感情を隠した死んだ魚のような目で塔屋を仰ぎ見る。すると頬に熱いものがかかり、思わず目を見開いた。
「……詩織センセ……?」
再び、頬を濡らした熱。それは塔屋の下を覗き込んでいる詩織からこぼれ落ちた涙だった。
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