バレンタインはオンリーワン(銀時)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
帰宅早々、持ち帰ったチョコをテーブルの上にばら撒いた銀時は、そのままソファに寝転んだ。
明らかに義理と分かる市販の物から、包装まで凝った手作りチョコまで、バラエティに富んでいるというのに。甘い物に目が無い銀時が全く手をつける事なく放置するのは珍しい。
「せっかくもらったのに食べないんですか? 今日はチョコを貰う為に出かけてたんでしょう?」
銀時の帰宅に合わせてお茶を淹れていた新八が、不思議そうに言う。一緒に姿を現した神楽もまた、訝しげな表情だ。
「銀ちゃんが甘いものに手をつけないなんて、天変地異の前触れネ。心配だから、代わりに私が食べてやるヨ」
そう言って一つの包みを手に取り勝手に開いた神楽は、銀時の了承を得る事なく口に放り込む。モゴモゴと咀嚼しながら銀時をチラリと見れば、興味なさげに天井を見上げて口を尖らせていた。
「糖分を奪われても怒らないなんて、銀ちゃんらしくないアル。やっぱり今日の銀ちゃんはおかしいネ」
「一体どうしたんですか? 何か悩み事でもあるなら聞きますよ」
「うるせェな。別になんでもねーよ。今は甘いもんを食いてェ気分じゃねーってだけの話だ」
「銀さんが甘い物を拒否するなんて……どこか悪くしているとしか思えません。すぐに病院に行きましょう!」
「銀ちゃん、そんなに重症アルか? 大変アル! やっぱりこのチョコは私が全部片付けなきゃいけないネ」
「いやいや神楽ちゃん、心配するのはチョコじゃなくて……」
「あーもーうるせーんだよてめーら! ちったァ黙りやがれ!」
いつものノリで騒ぐ新八と神楽に、銀時が怒鳴る。これは本気でイラついているなと察した二人は、口をつぐんで銀時を見つめた。
相変わらず銀時の顔は不機嫌なまま。だがその苛立ちの本当の矛先は、新八たちでは無さそうだ。何故なら銀時はさっきから一度も、新八や神楽、そしてチョコへと視線を向けてはいないのだから。
「……何かあったんですか? 銀さん」
新八が改めて問いかける。しかし返事は「別に」の一言で、要領を得なかった。
さすがに困った新八は、しばらく様子を見た方が良さそうだと感じたらしい。
「チョコ、全部持って行って良いアルか?」
と名残惜しそうにしている神楽を促し、万事屋から出ることにした。
玄関の戸を開けて一歩外に出た時に聞こえてきた、外階段を上がってくる足音。間の悪い来客に、どう対応しようかと新八は頭を抱えた。しかしその姿が見えたと同時に笑顔になる。
「なるほど、だから……分かりやすい人ですね」
小さな呟きは、新八自身にしか聞こえない。
「銀さんは奥にいます。僕たちは出かけますから、後のことはお願いしますね」
階段を上がってきた相手にそう伝えた新八は、未だチョコに後ろ髪を引かれている神楽を連れ出し、来客と入れ替わるように万事屋を後にした。
一方銀時はと言うと。相変わらずソファで不貞腐れていた。
新八と神楽は出かけてしまい、気兼ねする必要もない。だからこそ本音が口をつく。
「そりゃあ甘いモンは何でも好きだけどよ。今日ばかりはチョコも贈り主もオンリーワンだっつーの」
今の銀時にとって、テーブルの上にあるチョコは単なる菓子であり、バレンタインとしての意味を成していないらしい。どれ一つ手をつけることのないまま、チョコに背を向けてふて寝を始めてしまった。
そこへ先程の来客がやって来る。そしてソファの背もたれに頭を押し付けて寝ている銀時の背中に向けて言った。
「詩織さんの出来立てほやほやバレンタインチョコ。貰ってくれる人はいますか〜?」
手提げからチョコを取り出す。
「ちょっと出遅れちゃったけど……銀さんのオンリーワンになれるかな?」
言いながら詩織は、上になっている銀時の肩にそれを乗せた。
落ちないように手で支えながら、銀時の反応を待つ。すると銀時は、肩に乗せられたチョコと詩織の手をそっと掴んだ。
そのまま手を離すことなく、ゆっくりと体の向きを変える。
「人も間も悪ィ奴」
そう言って詩織を見上げた銀時の顔は、照れと喜びに赤く染まっていた。
〜了〜
明らかに義理と分かる市販の物から、包装まで凝った手作りチョコまで、バラエティに富んでいるというのに。甘い物に目が無い銀時が全く手をつける事なく放置するのは珍しい。
「せっかくもらったのに食べないんですか? 今日はチョコを貰う為に出かけてたんでしょう?」
銀時の帰宅に合わせてお茶を淹れていた新八が、不思議そうに言う。一緒に姿を現した神楽もまた、訝しげな表情だ。
「銀ちゃんが甘いものに手をつけないなんて、天変地異の前触れネ。心配だから、代わりに私が食べてやるヨ」
そう言って一つの包みを手に取り勝手に開いた神楽は、銀時の了承を得る事なく口に放り込む。モゴモゴと咀嚼しながら銀時をチラリと見れば、興味なさげに天井を見上げて口を尖らせていた。
「糖分を奪われても怒らないなんて、銀ちゃんらしくないアル。やっぱり今日の銀ちゃんはおかしいネ」
「一体どうしたんですか? 何か悩み事でもあるなら聞きますよ」
「うるせェな。別になんでもねーよ。今は甘いもんを食いてェ気分じゃねーってだけの話だ」
「銀さんが甘い物を拒否するなんて……どこか悪くしているとしか思えません。すぐに病院に行きましょう!」
「銀ちゃん、そんなに重症アルか? 大変アル! やっぱりこのチョコは私が全部片付けなきゃいけないネ」
「いやいや神楽ちゃん、心配するのはチョコじゃなくて……」
「あーもーうるせーんだよてめーら! ちったァ黙りやがれ!」
いつものノリで騒ぐ新八と神楽に、銀時が怒鳴る。これは本気でイラついているなと察した二人は、口をつぐんで銀時を見つめた。
相変わらず銀時の顔は不機嫌なまま。だがその苛立ちの本当の矛先は、新八たちでは無さそうだ。何故なら銀時はさっきから一度も、新八や神楽、そしてチョコへと視線を向けてはいないのだから。
「……何かあったんですか? 銀さん」
新八が改めて問いかける。しかし返事は「別に」の一言で、要領を得なかった。
さすがに困った新八は、しばらく様子を見た方が良さそうだと感じたらしい。
「チョコ、全部持って行って良いアルか?」
と名残惜しそうにしている神楽を促し、万事屋から出ることにした。
玄関の戸を開けて一歩外に出た時に聞こえてきた、外階段を上がってくる足音。間の悪い来客に、どう対応しようかと新八は頭を抱えた。しかしその姿が見えたと同時に笑顔になる。
「なるほど、だから……分かりやすい人ですね」
小さな呟きは、新八自身にしか聞こえない。
「銀さんは奥にいます。僕たちは出かけますから、後のことはお願いしますね」
階段を上がってきた相手にそう伝えた新八は、未だチョコに後ろ髪を引かれている神楽を連れ出し、来客と入れ替わるように万事屋を後にした。
一方銀時はと言うと。相変わらずソファで不貞腐れていた。
新八と神楽は出かけてしまい、気兼ねする必要もない。だからこそ本音が口をつく。
「そりゃあ甘いモンは何でも好きだけどよ。今日ばかりはチョコも贈り主もオンリーワンだっつーの」
今の銀時にとって、テーブルの上にあるチョコは単なる菓子であり、バレンタインとしての意味を成していないらしい。どれ一つ手をつけることのないまま、チョコに背を向けてふて寝を始めてしまった。
そこへ先程の来客がやって来る。そしてソファの背もたれに頭を押し付けて寝ている銀時の背中に向けて言った。
「詩織さんの出来立てほやほやバレンタインチョコ。貰ってくれる人はいますか〜?」
手提げからチョコを取り出す。
「ちょっと出遅れちゃったけど……銀さんのオンリーワンになれるかな?」
言いながら詩織は、上になっている銀時の肩にそれを乗せた。
落ちないように手で支えながら、銀時の反応を待つ。すると銀時は、肩に乗せられたチョコと詩織の手をそっと掴んだ。
そのまま手を離すことなく、ゆっくりと体の向きを変える。
「人も間も悪ィ奴」
そう言って詩織を見上げた銀時の顔は、照れと喜びに赤く染まっていた。
〜了〜
1/1ページ