答えの無いトリック(銀時)
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銀さんがお化け嫌いって言うことを知っていたから、今年のハロウィンは頭から消していた。
でもそれっぽいデザートくらいならと、かぼちゃのプリンだけは作っておいたんだけど、結局冷蔵庫に入れたまま、日の目を見ること無く今日が終わろうとしている。
「そもそも銀さんと会う約束をしてなかったもんな〜。もう、私ってばウッカリさん」
わざとらしく頭を叩きながら鏡に向けて言った独り言は、虚しさと恥ずかしさしか生まなくて。
「……アホらし」
大きな溜息をこぼす。
顔の広い銀さんのことだ。きっと今頃は何だかんだでハロウィンパーティーに呼ばれて仮装とかしちゃってるんだろうな。お仲間たちとワイワイ楽しくにぎやかに、私の存在なんか欠片も思い出さずにさ。
「何やってんだろうな〜、私」
数ヶ月前、天人に絡まれていたのを助けてくれたのが、偶然近くに居合わせた銀さんだった。
それ以来私が勝手に片思いしてるだけで、銀さんからすればちょっとした知り合い程度の存在。でも顔を合わせる度に声をかけてくれるから、ほんの少しだけ期待しちゃってた。
もしかして私の事……なんて、絶対ありえない妄想でしかないのに。
鏡に映る私は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「イベントにかこつけて期待するなんて、虚しいだけなのは分かってたことじゃない」
情けない自分の姿をありありと見せつけられ、たまらず言った時だった。
部屋のチャイムが鳴り、ドアホンの液晶がオンになる。時計を見れば、短針が『12』に触れようとしている。こんな時間に来客予定なんて無い私は、警戒しながらドアホンの映像を確認した。
「え……?」
驚きがそのまま私の手を突き動かし、通話ボタンを押す。
「銀さん……?」
それは、ドラキュラらしき格好をした銀さんだった。
「よォ、詩織。トリック・オア・トリート」
「え……、え? 何で?」
「だ〜から、トリック・オア・トリートだっつーの。とりあえずまずは開けてくんない? このカッコ、見た目より寒ィんだわ」
「あ、はい、ちょっと待ってて」
慌てて玄関に向かい、ドアを開ける。そこには間違いなく銀さんが立っていた。
「一体どうしたのよ、こんな時間に」
玄関の内側に招き入れながら聞けば、外との温度差にブルリと一つ体を震わせた銀さんが言う。
「んなの決まってんだろ。ハロウィンだからだよ」
「決まってるって言われても、うちに来るなんて聞いてなかったから……」
「そりゃそーだ。言ってなかったし」
「あのねぇ……」
話が噛み合わない。どうしたものかと困っていると、銀さんが再び「トリック・オア・トリート」と口にした。
「ほら、答えろよ」
「それは……」
「さっさと答えねーと、ドラキュラ銀さんが勝手に決めちまうぞ」
「何ソレ横暴」
「お化けに人間の常識は通用しねーから。ってなわけであと三秒、ニ」
「わ、分かったわよ、トリー……」
ちゃんと答えたはずだった。
それなのに、気づけば最後の一文字がドラキュラの牙に削り取られていて。
「ック、だろ?」
「……っ」
銀さんがにやりと笑って言う。
初めて触れた唇は、作り物の牙で少しだけ違和感があったけれど、温もりだけは間違いなかった。
恥ずかしさと戸惑いで言葉を失った私に、銀さんが続ける。
「でも銀さん、悪戯だけで帰るような生温いドラキュラじゃねーから。甘いモンを食うまで帰んねーかんな」
そう言ってもう一度キスをしてきた銀さんを追い返せるほど、頭が働くはずもなく。
「……カボチャプリンなら……あるけど……」
「やりィ」
子供のような笑顔を見せる銀さんに、私はしばし見惚れていた。
その後、冷蔵庫に入れていたプリンはあっという間に空となった。
帰り際、玄関で見送っていた私に銀さんが残した言葉は、
「美味かった。クリスマスケーキも楽しみにしてるわ。じゃあな。ハッピーハロウィン」
の一言。
その意味を訊けぬまま、銀さんの後ろ姿は遠のいてしまったけれど。「じゃあな」の後に触れた三度目のキスは、心の内を探るように深いものだったから。
「本気で自惚れても……良いの?」
早鐘のような鼓動を感じながら、未だ唇に残る温もりに答えを求めた。
〜了〜
でもそれっぽいデザートくらいならと、かぼちゃのプリンだけは作っておいたんだけど、結局冷蔵庫に入れたまま、日の目を見ること無く今日が終わろうとしている。
「そもそも銀さんと会う約束をしてなかったもんな〜。もう、私ってばウッカリさん」
わざとらしく頭を叩きながら鏡に向けて言った独り言は、虚しさと恥ずかしさしか生まなくて。
「……アホらし」
大きな溜息をこぼす。
顔の広い銀さんのことだ。きっと今頃は何だかんだでハロウィンパーティーに呼ばれて仮装とかしちゃってるんだろうな。お仲間たちとワイワイ楽しくにぎやかに、私の存在なんか欠片も思い出さずにさ。
「何やってんだろうな〜、私」
数ヶ月前、天人に絡まれていたのを助けてくれたのが、偶然近くに居合わせた銀さんだった。
それ以来私が勝手に片思いしてるだけで、銀さんからすればちょっとした知り合い程度の存在。でも顔を合わせる度に声をかけてくれるから、ほんの少しだけ期待しちゃってた。
もしかして私の事……なんて、絶対ありえない妄想でしかないのに。
鏡に映る私は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「イベントにかこつけて期待するなんて、虚しいだけなのは分かってたことじゃない」
情けない自分の姿をありありと見せつけられ、たまらず言った時だった。
部屋のチャイムが鳴り、ドアホンの液晶がオンになる。時計を見れば、短針が『12』に触れようとしている。こんな時間に来客予定なんて無い私は、警戒しながらドアホンの映像を確認した。
「え……?」
驚きがそのまま私の手を突き動かし、通話ボタンを押す。
「銀さん……?」
それは、ドラキュラらしき格好をした銀さんだった。
「よォ、詩織。トリック・オア・トリート」
「え……、え? 何で?」
「だ〜から、トリック・オア・トリートだっつーの。とりあえずまずは開けてくんない? このカッコ、見た目より寒ィんだわ」
「あ、はい、ちょっと待ってて」
慌てて玄関に向かい、ドアを開ける。そこには間違いなく銀さんが立っていた。
「一体どうしたのよ、こんな時間に」
玄関の内側に招き入れながら聞けば、外との温度差にブルリと一つ体を震わせた銀さんが言う。
「んなの決まってんだろ。ハロウィンだからだよ」
「決まってるって言われても、うちに来るなんて聞いてなかったから……」
「そりゃそーだ。言ってなかったし」
「あのねぇ……」
話が噛み合わない。どうしたものかと困っていると、銀さんが再び「トリック・オア・トリート」と口にした。
「ほら、答えろよ」
「それは……」
「さっさと答えねーと、ドラキュラ銀さんが勝手に決めちまうぞ」
「何ソレ横暴」
「お化けに人間の常識は通用しねーから。ってなわけであと三秒、ニ」
「わ、分かったわよ、トリー……」
ちゃんと答えたはずだった。
それなのに、気づけば最後の一文字がドラキュラの牙に削り取られていて。
「ック、だろ?」
「……っ」
銀さんがにやりと笑って言う。
初めて触れた唇は、作り物の牙で少しだけ違和感があったけれど、温もりだけは間違いなかった。
恥ずかしさと戸惑いで言葉を失った私に、銀さんが続ける。
「でも銀さん、悪戯だけで帰るような生温いドラキュラじゃねーから。甘いモンを食うまで帰んねーかんな」
そう言ってもう一度キスをしてきた銀さんを追い返せるほど、頭が働くはずもなく。
「……カボチャプリンなら……あるけど……」
「やりィ」
子供のような笑顔を見せる銀さんに、私はしばし見惚れていた。
その後、冷蔵庫に入れていたプリンはあっという間に空となった。
帰り際、玄関で見送っていた私に銀さんが残した言葉は、
「美味かった。クリスマスケーキも楽しみにしてるわ。じゃあな。ハッピーハロウィン」
の一言。
その意味を訊けぬまま、銀さんの後ろ姿は遠のいてしまったけれど。「じゃあな」の後に触れた三度目のキスは、心の内を探るように深いものだったから。
「本気で自惚れても……良いの?」
早鐘のような鼓動を感じながら、未だ唇に残る温もりに答えを求めた。
〜了〜
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