いつも傍に(銀時)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
立秋を過ぎ、処暑を迎えても尚暑さ厳しいとある休日の午後。
本当はどこかへ遊びに行きたいのだが、友人たちとは予定が合わず。ならば一人でと思っても心躍る場所などない詩織は、どうせこの殺人的な暑さだしと理由を付けて、仕方なく一人暮らしのアパートに引きこもっていた。
するとそこに現れた一人の男。
ノックと同時にドアを開け、「邪魔するぜ〜」と言いながら詩織の返事も待たず部屋へと上がりこんできたのは、近所で『万事屋』というなんでも屋を営んでいる男、坂田銀時だった。
わけあってここ数日、在宅中は家の鍵をかけていない。その事は誰にも言っていなかったはずなのに、まるで最初から鍵が開いているのを知っていたとばかりに入ってきたものだから、詩織は驚きを隠せなかった。
「ちょっと銀さん、いきなり来て何勝手に上がってるのよ!」
「いやもう万事屋があまりに暑いから涼みに来たんだわ。……あー、生き返る〜」
そう言って銀時が当たり前のように座ったのは、エアコンの風が一番よく当たる場所だ。外のうだるような暑さとは正反対で、よほど心地良いのだろう。だらしなく頬を緩ませながら冷たい風を堪能していた。
「もう、銀さんったら!」
詩織はというと、銀時の暴挙に怒りはするも強引に追い出そうとはしない。赤の他人なら即通報だが、普段世話になっているお登勢からの紹介で、何度か雑用を頼んだことのある相手だ。しかも自分を飾らなくて良い、数少ない心許せる顔見知りでもあるため、銀時らしいと半ば諦めているようだった。
「相変わらずエアコン無しで生活してるんだ。神楽ちゃんはどうしてるの?」
洗いたてのフェイスタオルを、銀時に向けて放る。それを受け取った銀時は、流れる汗を拭いながら答えた。
「耐えらんねーっつって、新八んトコに行ってる。俺は依頼の電話待ちで残ってたけど、流石にこの温度はきつくてよォ」
「だから早くエアコンを買えとあれほど」
「バカヤロー! そんな金があるならとっくの昔に買ってるっつーの! うちの経済状況舐めんなよ!」
「人の家に押しかけておきながら、何でそんなに偉そうなのよ」
「暑くてイライラしちまってんだよ。悪いのは全部この暑さ!」
「さいですか」
勝手な言い分に呆れながら、詩織はキッチンへと向かう。
冷たい麦茶と梅ぼしをお盆に乗せて銀時に渡すと、余程のどが渇いていたのか一瞬で飲み干してしまった。コロコロと口の中で種を転がしながらお茶のおかわりを要求する銀時は、まるで外遊びから帰ってきたばかりの子供のようで。その姿を見ていると、先程の偉そうな態度も可愛く思えてくるから不思議なものだ。
「……何だよ、急にニヤニヤして」
「別にニヤニヤなんてしてないから。ほら、ちゃんと固定しておいてよ」
手の中のコップにお茶を継ぎ足して氷も追加してやれば、銀時は器用にゴミ箱の中へ種を吐き出し、新たなお茶を一気に飲み干す。
「ぷっは〜、美味い! これが麦酒だったらもっと美味いんだけどなァ」
「飲みたきゃまずはエアコンを買ってから。しっかり働きなさいよね」
「うるせェな、お前は俺のかーちゃんかってェの」
「私は当たり前のことを言ってるだけでしょ」
「はいはい、分かりましたよ〜っと」
そう面倒臭そうに返事をした銀時は、拗ねて口を尖らせながらその場にゴロリと横になった。さりげなくクッションを引き寄せて枕にまでしてしまう図々しさには、さすがの詩織も呆れてしまう。
「あのねぇ、銀さん。たった今働くって言ったとこじゃない」
「分かったとは言ったけど、今すぐたァ言ってねーよ」
「またそんな屁理屈を……」
「んな事言ったって、万事屋で待ってても依頼がこねーんだから仕方ねェだろ。それとも何か? 詩織が仕事を回してくれんの?」
「そんなの無理に決まってるじゃない。本気で働きたいなら、お登勢さんにでも頼みなさいよね」
これ以上言っても無駄だと思ったのだろう。床に置かれたコップを拾った詩織はやれやれと溜息を吐きながらキッチンに戻ろうとした。
すると不意に聞こえてきた、ドタドタと騒がしい足音。何やらアパートの共用廊下を複数の人間が走っているらしく、「いたか?」「こちらにはいない」「絶対に逃がすな!」という物騒な声まで聞こえてきた。
その瞬間詩織の体がビクリと大きく震え、思わず手からコップを落とす。床に落ちたコップは割れはしなかったものの、ゴトリと大きな音を立てて転がった。
本当はどこかへ遊びに行きたいのだが、友人たちとは予定が合わず。ならば一人でと思っても心躍る場所などない詩織は、どうせこの殺人的な暑さだしと理由を付けて、仕方なく一人暮らしのアパートに引きこもっていた。
するとそこに現れた一人の男。
ノックと同時にドアを開け、「邪魔するぜ〜」と言いながら詩織の返事も待たず部屋へと上がりこんできたのは、近所で『万事屋』というなんでも屋を営んでいる男、坂田銀時だった。
わけあってここ数日、在宅中は家の鍵をかけていない。その事は誰にも言っていなかったはずなのに、まるで最初から鍵が開いているのを知っていたとばかりに入ってきたものだから、詩織は驚きを隠せなかった。
「ちょっと銀さん、いきなり来て何勝手に上がってるのよ!」
「いやもう万事屋があまりに暑いから涼みに来たんだわ。……あー、生き返る〜」
そう言って銀時が当たり前のように座ったのは、エアコンの風が一番よく当たる場所だ。外のうだるような暑さとは正反対で、よほど心地良いのだろう。だらしなく頬を緩ませながら冷たい風を堪能していた。
「もう、銀さんったら!」
詩織はというと、銀時の暴挙に怒りはするも強引に追い出そうとはしない。赤の他人なら即通報だが、普段世話になっているお登勢からの紹介で、何度か雑用を頼んだことのある相手だ。しかも自分を飾らなくて良い、数少ない心許せる顔見知りでもあるため、銀時らしいと半ば諦めているようだった。
「相変わらずエアコン無しで生活してるんだ。神楽ちゃんはどうしてるの?」
洗いたてのフェイスタオルを、銀時に向けて放る。それを受け取った銀時は、流れる汗を拭いながら答えた。
「耐えらんねーっつって、新八んトコに行ってる。俺は依頼の電話待ちで残ってたけど、流石にこの温度はきつくてよォ」
「だから早くエアコンを買えとあれほど」
「バカヤロー! そんな金があるならとっくの昔に買ってるっつーの! うちの経済状況舐めんなよ!」
「人の家に押しかけておきながら、何でそんなに偉そうなのよ」
「暑くてイライラしちまってんだよ。悪いのは全部この暑さ!」
「さいですか」
勝手な言い分に呆れながら、詩織はキッチンへと向かう。
冷たい麦茶と梅ぼしをお盆に乗せて銀時に渡すと、余程のどが渇いていたのか一瞬で飲み干してしまった。コロコロと口の中で種を転がしながらお茶のおかわりを要求する銀時は、まるで外遊びから帰ってきたばかりの子供のようで。その姿を見ていると、先程の偉そうな態度も可愛く思えてくるから不思議なものだ。
「……何だよ、急にニヤニヤして」
「別にニヤニヤなんてしてないから。ほら、ちゃんと固定しておいてよ」
手の中のコップにお茶を継ぎ足して氷も追加してやれば、銀時は器用にゴミ箱の中へ種を吐き出し、新たなお茶を一気に飲み干す。
「ぷっは〜、美味い! これが麦酒だったらもっと美味いんだけどなァ」
「飲みたきゃまずはエアコンを買ってから。しっかり働きなさいよね」
「うるせェな、お前は俺のかーちゃんかってェの」
「私は当たり前のことを言ってるだけでしょ」
「はいはい、分かりましたよ〜っと」
そう面倒臭そうに返事をした銀時は、拗ねて口を尖らせながらその場にゴロリと横になった。さりげなくクッションを引き寄せて枕にまでしてしまう図々しさには、さすがの詩織も呆れてしまう。
「あのねぇ、銀さん。たった今働くって言ったとこじゃない」
「分かったとは言ったけど、今すぐたァ言ってねーよ」
「またそんな屁理屈を……」
「んな事言ったって、万事屋で待ってても依頼がこねーんだから仕方ねェだろ。それとも何か? 詩織が仕事を回してくれんの?」
「そんなの無理に決まってるじゃない。本気で働きたいなら、お登勢さんにでも頼みなさいよね」
これ以上言っても無駄だと思ったのだろう。床に置かれたコップを拾った詩織はやれやれと溜息を吐きながらキッチンに戻ろうとした。
すると不意に聞こえてきた、ドタドタと騒がしい足音。何やらアパートの共用廊下を複数の人間が走っているらしく、「いたか?」「こちらにはいない」「絶対に逃がすな!」という物騒な声まで聞こえてきた。
その瞬間詩織の体がビクリと大きく震え、思わず手からコップを落とす。床に落ちたコップは割れはしなかったものの、ゴトリと大きな音を立てて転がった。
1/3ページ