この想いに気付いて(土方)
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いつものようにタバコ屋の店番をしていると、けたたましいサイレンが近付いてきた。何か事件でも起きたのかと思いながらぼんやり音を聞き流していれば、店の前でパトカーが止まる。
中から飛び出て来たのは店の常連であり、真選組副長のトシさん。どうやら彼は時間に追われているようで、時計を気にしながら店に走り寄ってきた。
「いらっしゃい。勤務中なのにタバコが切れたの?」
トシさんの好きな銘柄のタバコを素早く取り出し、台に置く。そうすればすぐに商品はお金と入れ替わり、彼もまた仕事に戻っていくだろう。
そう思っていたのに……。
「トシさん?」
何故か今日はタバコを手にする事なく、目の前に立ち尽くしていた。
「どうしたのよ。あ、ひょっとして銘柄を変えたとか?」
基本タバコ好きの人は同じ銘柄を吸い続ける事が多いけれど、時には味を変えたくなる事もあるのかもしれない。
「マヨ風味のタバコはマヨボロしか無かったと思うんだけど、何か他にお好みの銘柄を見つけた?」
そう言いながら私は、どの銘柄を言われてもすぐに取り出せるようスタンバイした。でもトシさんは何も言わず、焦りと戸惑いでテンパっているような様子で懐に手を突っ込んでいる。
「トシさんらしくないよ。何か困った事でもあるの?」
話をしやすいように正面を向いて私が言うと、トシさんはしばらく何かを考えていたようだったが、やがて決心したように大きく息を吐き出し、ぶっきらぼうにこう言った。
「受け取れ」
懐から取り出して私の前に突き出されたのは、ホワイトデー用に可愛くラッピングされた小さな箱。驚いて箱とトシさんを交互に見れば、顔を真っ赤にしながらそっぽを向いていた。
これはつまり、先日渡したバレンタインのお返しという事か。
「ありがとう。今開けても良い?」
「……ああ」
やはりこちらを見る事なく答えるトシさんに了承を得た私は、丁寧に包装紙を開いていく。中から出てきたのは、可愛らしいネックレスだった。
「わぁ……こういうの大好きなんだ。嬉しい!」
私が手に乗せて喜んでいると、ようやくホッとした表情でこちらを向くトシさん。
「……付けてやろうか」
「え? わざわざ付けてくれるの?」
私が答えるより早く、彼の手に渡ったネックレスは留め金が外され、私の首元へと近付く。
留めやすいように体を前屈みにすると、おでこがトシさんの胸元に触れた。ふんわりと香ってくるマヨボロとトシさんの匂いが鼻孔をくすぐり、何だか照れ臭い。
「できたぞ」の声にゆっくりと体を起こすと、胸元にネックレスが揺れ、嬉しくなった。
「どう?」
「ああ、よく似合ってる」
ふわりと優しい笑顔で言われ、私の顔はニヤけるばかりだ。
「わざわざ準備してくれてありがとね。大切にするよ」
「当然だ。そうしてもらわねェと困るからな」
「……困る?」
会話の流れからは想像していなかった言葉が引っかかり首を傾げると、トシさんは苦笑いを見せる。
「男が女にネックレスを送る意味を知ってるか?」
「意味? それは相手を喜ばせようと思って……」
「それだけじゃねェ」
そう言った彼は、何故かこちらに身を乗り出すようにして私の肩に手を回した。そのまま店の台を挟んで私を抱き寄せながら、耳元で囁く。
「詩織を縛り付けて、独り占めしてェって事だ」
その直後、頬に触れた温もりはトシさんの唇に相違ない。
「仕事が終わったら迎えに来る」
最後に一言そう言い残したトシさんはあっという間に店から離れ、再びけたたましくサイレンを鳴らしながらパトカーで走り去った。
残された私は呆然としながら後ろ姿を見送るしかない。
「……これってつまり……」
ようやく全てを理解した私の顔が、一気に朱に染まる。
「今日は早めに店じまいしなきゃ」
熱くなった頬を押さえ、早鐘のような鼓動を感じながら、私は一人呟いたのだった。
~了~
中から飛び出て来たのは店の常連であり、真選組副長のトシさん。どうやら彼は時間に追われているようで、時計を気にしながら店に走り寄ってきた。
「いらっしゃい。勤務中なのにタバコが切れたの?」
トシさんの好きな銘柄のタバコを素早く取り出し、台に置く。そうすればすぐに商品はお金と入れ替わり、彼もまた仕事に戻っていくだろう。
そう思っていたのに……。
「トシさん?」
何故か今日はタバコを手にする事なく、目の前に立ち尽くしていた。
「どうしたのよ。あ、ひょっとして銘柄を変えたとか?」
基本タバコ好きの人は同じ銘柄を吸い続ける事が多いけれど、時には味を変えたくなる事もあるのかもしれない。
「マヨ風味のタバコはマヨボロしか無かったと思うんだけど、何か他にお好みの銘柄を見つけた?」
そう言いながら私は、どの銘柄を言われてもすぐに取り出せるようスタンバイした。でもトシさんは何も言わず、焦りと戸惑いでテンパっているような様子で懐に手を突っ込んでいる。
「トシさんらしくないよ。何か困った事でもあるの?」
話をしやすいように正面を向いて私が言うと、トシさんはしばらく何かを考えていたようだったが、やがて決心したように大きく息を吐き出し、ぶっきらぼうにこう言った。
「受け取れ」
懐から取り出して私の前に突き出されたのは、ホワイトデー用に可愛くラッピングされた小さな箱。驚いて箱とトシさんを交互に見れば、顔を真っ赤にしながらそっぽを向いていた。
これはつまり、先日渡したバレンタインのお返しという事か。
「ありがとう。今開けても良い?」
「……ああ」
やはりこちらを見る事なく答えるトシさんに了承を得た私は、丁寧に包装紙を開いていく。中から出てきたのは、可愛らしいネックレスだった。
「わぁ……こういうの大好きなんだ。嬉しい!」
私が手に乗せて喜んでいると、ようやくホッとした表情でこちらを向くトシさん。
「……付けてやろうか」
「え? わざわざ付けてくれるの?」
私が答えるより早く、彼の手に渡ったネックレスは留め金が外され、私の首元へと近付く。
留めやすいように体を前屈みにすると、おでこがトシさんの胸元に触れた。ふんわりと香ってくるマヨボロとトシさんの匂いが鼻孔をくすぐり、何だか照れ臭い。
「できたぞ」の声にゆっくりと体を起こすと、胸元にネックレスが揺れ、嬉しくなった。
「どう?」
「ああ、よく似合ってる」
ふわりと優しい笑顔で言われ、私の顔はニヤけるばかりだ。
「わざわざ準備してくれてありがとね。大切にするよ」
「当然だ。そうしてもらわねェと困るからな」
「……困る?」
会話の流れからは想像していなかった言葉が引っかかり首を傾げると、トシさんは苦笑いを見せる。
「男が女にネックレスを送る意味を知ってるか?」
「意味? それは相手を喜ばせようと思って……」
「それだけじゃねェ」
そう言った彼は、何故かこちらに身を乗り出すようにして私の肩に手を回した。そのまま店の台を挟んで私を抱き寄せながら、耳元で囁く。
「詩織を縛り付けて、独り占めしてェって事だ」
その直後、頬に触れた温もりはトシさんの唇に相違ない。
「仕事が終わったら迎えに来る」
最後に一言そう言い残したトシさんはあっという間に店から離れ、再びけたたましくサイレンを鳴らしながらパトカーで走り去った。
残された私は呆然としながら後ろ姿を見送るしかない。
「……これってつまり……」
ようやく全てを理解した私の顔が、一気に朱に染まる。
「今日は早めに店じまいしなきゃ」
熱くなった頬を押さえ、早鐘のような鼓動を感じながら、私は一人呟いたのだった。
~了~
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