例え熱のせいだとしても(銀時)
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「珍しいこともあるもんだな」
夕日に空が赤く染まる頃。ガチャリとドアを開け、開口一番の台詞がそれだった。
遠慮の欠片も見せずにズカズカと部屋の奥まで入った男、万事屋の坂田銀時は、ベッドの中で苦しげに浅い呼吸を繰り返している詩織の横に座り込む。額に手を当て、その熱さに顔をしかめると、持ってきた袋をガサガサと探った。
中から取り出したのは体温計と冷却シート、経口保水液、吸い飲み器、そして数種類の錠剤だ。
「熱、計るぞ」
答えを待たずに詩織の額に向けた体温計が示した数字は38.6。それを見た銀時はすぐに冷却シートを詩織の額に貼ると、吸い飲み器に経口保水液を入れ、詩織の唇に当てた。
「ったく、こんなになるまで無理してたのかよ」
まずは唇を湿らせる程度に。そして少しずつ口の中を満たし、喉を潤すように流し込んでいく。その甲斐あってか詩織の苦しげな表情は少しだけ和らいだ。
「ゆっくりで良いからしっかり飲め」
「……ん……」
弱々しく返事をする詩織に、眉間にシワを寄せて溜息を吐く。
いつもは有り余る元気で銀時を振り回す詩織がこんなにも弱っている姿を見るのは、この時が初めてだったから。
「ちょーし狂うぜ」
熱で頬を真っ赤にし、未だ一度も目を合わせる事ができていない詩織を見ながら、銀時はぼやいた。
事の起こりは1時間ほど前。万事屋に入った一本の電話だった。
久しぶりの依頼かと胸を躍らせ受話器を取れば、今にも死にそうなか細い声が聞こえてきたのだ。
名乗らずとも声で詩織だとは分かった。だが、何を言っているのかが聞き取りづらく、何とか理解できたのは、高熱で動けないということ。
「何で俺んトコにかけてきたんだか」
詩織の家に向かう途中、最寄りの店で必要な物を買い揃えながら呟く。
お登勢繋がりで口喧嘩できる程度の仲ではあったが、お互い素直になれるほど距離を詰めるには至っていない。銀時自身秘めた思いはあっても、それを口にする勇気は持ち合わせていなかった。
「珍しいこともあるもんだな」
と憎たらしい物言いで部屋に入ったのは、いつも通りの関係を強調するため。詩織に警戒心を持たせず、かつ自分にも言い聞かせたかったからだ。
ーー期待はするな、と。
実際は期待も何もそんな余裕など無かったけれど。思っていた以上に苦しそうな詩織を見て、何とかしてやらねばという気持ちが邪念を忘れさせていた。
吸い飲み器が三度空になった頃、詩織の目がようやくうっすらと開く。未だ意識ははっきりとはしていないのだろう。ぼんやりと左右を眺め、最後に銀時へと視線を向けた。
「ぎん……さ……ど……して……」
「どうしてって、お前が呼んだんだろ? っつーか今までここにいるのが銀さんだって分かってなかったのかよ」
吸い飲み器に追加を注ぎながら呆れたように言う銀時。すると何故か詩織はくしゃりと顔を歪ませた。それは今にも泣き出しそうな表情で、銀時を慌てさせる。
「えェェッ!? そんなに銀さん言い方きつかった? 悪かった、謝るから泣くなよ! 絶対泣くんじゃねーぞ!」
あやすように頭をポンポンと叩きながら必死に諭す。だが詩織の反応は意外なものだった。
ゆるゆると伸ばされた詩織の手が、頭に触れていた銀時の手を掴む。
「詩織……?」
「銀さん……来てくれた……」
そう言って引き寄せた手のひらに、詩織は自らの頬を寄せた。
「嬉しい……」
熱のせいか、火傷しそうに熱い吐息が手のひらを撫でる。小さく何度も頬を擦り付ける詩織の顔には、これまで見たことのない柔らかな笑みが浮かんでいた。
銀時が戸惑いを隠せぬまま様子を伺っていると、安心したのかそのまま眠りに落ちる詩織。未だ苦しげではあったが先程までより呼吸は深いようだ。それでいて銀時の手をしっかりと掴んだまま離さないのは何故なのか。
心が、揺さぶられる。
「いつもは文句ばっか言ってる癖によォ……熱のせいで弱気になっちまったか?」
そっと手を引こうとしても、詩織はそれを許してはくれない。それどころかーー。
「傍にいて……銀さん……」
「……ッ!」
意識のないまま熱い吐息と共に溢れた懇願は、その手だけでなく銀時の心までも掴む。
ーー期待なんざしねェつもりだったが……。
縋りついてくる詩織を愛おしげに見つめながら、銀時は言った。
「例え熱に浮かされただけだったとしても……俺はずっと傍にいてやるよ」
〜了〜
夕日に空が赤く染まる頃。ガチャリとドアを開け、開口一番の台詞がそれだった。
遠慮の欠片も見せずにズカズカと部屋の奥まで入った男、万事屋の坂田銀時は、ベッドの中で苦しげに浅い呼吸を繰り返している詩織の横に座り込む。額に手を当て、その熱さに顔をしかめると、持ってきた袋をガサガサと探った。
中から取り出したのは体温計と冷却シート、経口保水液、吸い飲み器、そして数種類の錠剤だ。
「熱、計るぞ」
答えを待たずに詩織の額に向けた体温計が示した数字は38.6。それを見た銀時はすぐに冷却シートを詩織の額に貼ると、吸い飲み器に経口保水液を入れ、詩織の唇に当てた。
「ったく、こんなになるまで無理してたのかよ」
まずは唇を湿らせる程度に。そして少しずつ口の中を満たし、喉を潤すように流し込んでいく。その甲斐あってか詩織の苦しげな表情は少しだけ和らいだ。
「ゆっくりで良いからしっかり飲め」
「……ん……」
弱々しく返事をする詩織に、眉間にシワを寄せて溜息を吐く。
いつもは有り余る元気で銀時を振り回す詩織がこんなにも弱っている姿を見るのは、この時が初めてだったから。
「ちょーし狂うぜ」
熱で頬を真っ赤にし、未だ一度も目を合わせる事ができていない詩織を見ながら、銀時はぼやいた。
事の起こりは1時間ほど前。万事屋に入った一本の電話だった。
久しぶりの依頼かと胸を躍らせ受話器を取れば、今にも死にそうなか細い声が聞こえてきたのだ。
名乗らずとも声で詩織だとは分かった。だが、何を言っているのかが聞き取りづらく、何とか理解できたのは、高熱で動けないということ。
「何で俺んトコにかけてきたんだか」
詩織の家に向かう途中、最寄りの店で必要な物を買い揃えながら呟く。
お登勢繋がりで口喧嘩できる程度の仲ではあったが、お互い素直になれるほど距離を詰めるには至っていない。銀時自身秘めた思いはあっても、それを口にする勇気は持ち合わせていなかった。
「珍しいこともあるもんだな」
と憎たらしい物言いで部屋に入ったのは、いつも通りの関係を強調するため。詩織に警戒心を持たせず、かつ自分にも言い聞かせたかったからだ。
ーー期待はするな、と。
実際は期待も何もそんな余裕など無かったけれど。思っていた以上に苦しそうな詩織を見て、何とかしてやらねばという気持ちが邪念を忘れさせていた。
吸い飲み器が三度空になった頃、詩織の目がようやくうっすらと開く。未だ意識ははっきりとはしていないのだろう。ぼんやりと左右を眺め、最後に銀時へと視線を向けた。
「ぎん……さ……ど……して……」
「どうしてって、お前が呼んだんだろ? っつーか今までここにいるのが銀さんだって分かってなかったのかよ」
吸い飲み器に追加を注ぎながら呆れたように言う銀時。すると何故か詩織はくしゃりと顔を歪ませた。それは今にも泣き出しそうな表情で、銀時を慌てさせる。
「えェェッ!? そんなに銀さん言い方きつかった? 悪かった、謝るから泣くなよ! 絶対泣くんじゃねーぞ!」
あやすように頭をポンポンと叩きながら必死に諭す。だが詩織の反応は意外なものだった。
ゆるゆると伸ばされた詩織の手が、頭に触れていた銀時の手を掴む。
「詩織……?」
「銀さん……来てくれた……」
そう言って引き寄せた手のひらに、詩織は自らの頬を寄せた。
「嬉しい……」
熱のせいか、火傷しそうに熱い吐息が手のひらを撫でる。小さく何度も頬を擦り付ける詩織の顔には、これまで見たことのない柔らかな笑みが浮かんでいた。
銀時が戸惑いを隠せぬまま様子を伺っていると、安心したのかそのまま眠りに落ちる詩織。未だ苦しげではあったが先程までより呼吸は深いようだ。それでいて銀時の手をしっかりと掴んだまま離さないのは何故なのか。
心が、揺さぶられる。
「いつもは文句ばっか言ってる癖によォ……熱のせいで弱気になっちまったか?」
そっと手を引こうとしても、詩織はそれを許してはくれない。それどころかーー。
「傍にいて……銀さん……」
「……ッ!」
意識のないまま熱い吐息と共に溢れた懇願は、その手だけでなく銀時の心までも掴む。
ーー期待なんざしねェつもりだったが……。
縋りついてくる詩織を愛おしげに見つめながら、銀時は言った。
「例え熱に浮かされただけだったとしても……俺はずっと傍にいてやるよ」
〜了〜
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