呪縛(白夜叉)
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ここ数日、何故か白夜叉が私の周りに張り付くようになった。
いつだってただその場の勢いに任せて天人たちを斬り倒していってるだけなのに、戦いが一段落する度に一定の距離を保ちながら、鬼の形相で私を睨むのだ。
そして今もまた、白夜叉は私を睨んでいる。
さすがにこう毎日睨まれていれば、仲間であっても不愉快だ。私は思い切って白夜叉に訊ねることにした。
「何で睨むんだ?」
未だ息の整わぬ白夜叉に歩み寄り、言う。周りに敵がいないことを確認し、懐から救急セットを取り出すと、白夜叉の腕にある刀傷を指差した。
「手当が終わるまでに、理由を話せ」
有無を言わせず腕を掴み、消毒液をかける。痛みで一瞬体をこわばらせたのが分かったが、気付かぬふりで処置を続けた。
「睨む理由は?」
何も言わない白夜叉にもう一度訊ねる。すると返ってきたのは溜息だった。
「……何だよその溜息は」
「マジで分かんねーのか?」
「分からないから訊いてる」
傷口を押さえるテープを貼り、包帯を巻く。あっさりと手当を終えた私は、まっすぐに白夜叉を見た。
「あんたに睨まれる理由なんて無いはずだけど」
「いーや、あるね」
今度は即答。一体この男は何が言いたいのだろう。
「理由は何だ?」
「心当たりねーのかよ」
「あれば訊ねたりしない」
「胸に手を当ててみろよ」
「バカバカしい」
身にならない押し問答の繰り返しなど、無駄なだけだ。
答えないのなら気にせず関わらなければ良い。そう思った私は、未だ向けられている睨みを受け流してその場を立ち去ろうとした。
ところがだ。
「待てよ」
白夜叉の手が私の腕を掴む。その力はとても強く、振り解けなかった。
「離せ」
「理由」
「は?」
「聞かせてやるから待てよ」
「……分かった」
言われた通り立ち止まると、握っていた手の力も緩む。見れば白夜叉の眉間には、深いシワが出来ていた。
「それで、理由は?」
「一つは、お前の戦い方。生きるためでも護るためでもなく、ただ死ぬまで戦うってだけの機械みてーじゃねェか。わざわざ危険な場所に真っ先に突っ込んで行きやがって、命は一つしかねーってのが分かってんのかよ」
「私はただ戦えという命令に従っているだけ。それの何が悪い?」
「悪ィに決まってんだろ!」
「何故? 兵は『戦場で死ぬが本望』のはず」
「死んだら何も残らねェだろうが!」
相変わらず私を睨みつけている白夜叉。だがその表情はいつもと少し違って見えた。
「私が死ねば、些少ながらも戦力が落ちると言いたいのか? でも他にいくらだって人はーー」
「お前が生きてなきゃ、意味がねーんだよ!」
そう叫んだ白夜叉は突然、私を抱き寄せる。腕を掴んだ時よりも強い力で私を抱きしめながら、白夜叉は言った。
「お前を睨んでたもう一つの理由。それは危なっかしいお前を護らなきゃいけねェって気概だよ……詩織」
詩織、と呼ばれ、思わず息を呑む。
戦場に出ることを決めた時、女としての自分と共に捨ててきたはずのその名は、白夜叉に優しく紡がれて私の胸を締め付けた。
「その名で呼ぶな……」
「嫌だね。詩織はお前の名だ」
「呼ぶなと言ってる!」
「詩織」
「呼ばないで……っ!」
「詩織」
「もう止めて……お願いだから……」
「愛してるんだ、詩織を」
「……っ!?」
「頼むから……生きてくれ」
そう言った白夜叉は抱きしめていた腕を離すと、切なげに私を見つめた。
「詩織に死なれたら、俺が困るんだよ」
「白夜叉……」
まっすぐにぶつかった視線に嘘偽りは感じられない。
だからこそ、思った。
ーー私はもうきっと戦えない
と。
取り戻してしまった名前と、白夜叉の想いが私を呪縛するから。
「だったら私は生きて……何をすれば良いの?」
戸惑いの中、訊ねる。そんな私に白夜叉は言った。
「決まってんだろ。笑顔で俺の帰りを待っててくれりゃいーの」
〜了〜
いつだってただその場の勢いに任せて天人たちを斬り倒していってるだけなのに、戦いが一段落する度に一定の距離を保ちながら、鬼の形相で私を睨むのだ。
そして今もまた、白夜叉は私を睨んでいる。
さすがにこう毎日睨まれていれば、仲間であっても不愉快だ。私は思い切って白夜叉に訊ねることにした。
「何で睨むんだ?」
未だ息の整わぬ白夜叉に歩み寄り、言う。周りに敵がいないことを確認し、懐から救急セットを取り出すと、白夜叉の腕にある刀傷を指差した。
「手当が終わるまでに、理由を話せ」
有無を言わせず腕を掴み、消毒液をかける。痛みで一瞬体をこわばらせたのが分かったが、気付かぬふりで処置を続けた。
「睨む理由は?」
何も言わない白夜叉にもう一度訊ねる。すると返ってきたのは溜息だった。
「……何だよその溜息は」
「マジで分かんねーのか?」
「分からないから訊いてる」
傷口を押さえるテープを貼り、包帯を巻く。あっさりと手当を終えた私は、まっすぐに白夜叉を見た。
「あんたに睨まれる理由なんて無いはずだけど」
「いーや、あるね」
今度は即答。一体この男は何が言いたいのだろう。
「理由は何だ?」
「心当たりねーのかよ」
「あれば訊ねたりしない」
「胸に手を当ててみろよ」
「バカバカしい」
身にならない押し問答の繰り返しなど、無駄なだけだ。
答えないのなら気にせず関わらなければ良い。そう思った私は、未だ向けられている睨みを受け流してその場を立ち去ろうとした。
ところがだ。
「待てよ」
白夜叉の手が私の腕を掴む。その力はとても強く、振り解けなかった。
「離せ」
「理由」
「は?」
「聞かせてやるから待てよ」
「……分かった」
言われた通り立ち止まると、握っていた手の力も緩む。見れば白夜叉の眉間には、深いシワが出来ていた。
「それで、理由は?」
「一つは、お前の戦い方。生きるためでも護るためでもなく、ただ死ぬまで戦うってだけの機械みてーじゃねェか。わざわざ危険な場所に真っ先に突っ込んで行きやがって、命は一つしかねーってのが分かってんのかよ」
「私はただ戦えという命令に従っているだけ。それの何が悪い?」
「悪ィに決まってんだろ!」
「何故? 兵は『戦場で死ぬが本望』のはず」
「死んだら何も残らねェだろうが!」
相変わらず私を睨みつけている白夜叉。だがその表情はいつもと少し違って見えた。
「私が死ねば、些少ながらも戦力が落ちると言いたいのか? でも他にいくらだって人はーー」
「お前が生きてなきゃ、意味がねーんだよ!」
そう叫んだ白夜叉は突然、私を抱き寄せる。腕を掴んだ時よりも強い力で私を抱きしめながら、白夜叉は言った。
「お前を睨んでたもう一つの理由。それは危なっかしいお前を護らなきゃいけねェって気概だよ……詩織」
詩織、と呼ばれ、思わず息を呑む。
戦場に出ることを決めた時、女としての自分と共に捨ててきたはずのその名は、白夜叉に優しく紡がれて私の胸を締め付けた。
「その名で呼ぶな……」
「嫌だね。詩織はお前の名だ」
「呼ぶなと言ってる!」
「詩織」
「呼ばないで……っ!」
「詩織」
「もう止めて……お願いだから……」
「愛してるんだ、詩織を」
「……っ!?」
「頼むから……生きてくれ」
そう言った白夜叉は抱きしめていた腕を離すと、切なげに私を見つめた。
「詩織に死なれたら、俺が困るんだよ」
「白夜叉……」
まっすぐにぶつかった視線に嘘偽りは感じられない。
だからこそ、思った。
ーー私はもうきっと戦えない
と。
取り戻してしまった名前と、白夜叉の想いが私を呪縛するから。
「だったら私は生きて……何をすれば良いの?」
戸惑いの中、訊ねる。そんな私に白夜叉は言った。
「決まってんだろ。笑顔で俺の帰りを待っててくれりゃいーの」
〜了〜
1/1ページ
