永劫の間で(九尾銀時)
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それは銀時が、ようやく詩織に会いに行けると山で心躍らせていた頃。
里での暮らしは大切だが、やはり銀時に会えない寂しさが募っていたのだろう。詩織もまた、そろそろ山に行けないだろうかと考えていた。
いつ顔を合わせることになっても良いよう、別れ際に土産として渡された簪を常に身に付け、暇があれば銀時の口に合いそうな菓子作りに勤しむ。誰に語ることもないが、いつでも心には銀時がいた。
そんなある日、詩織の目の前に突如一匹の妖怪が現れる。
「ふん……九尾ともあろう者が、こんなひ弱な人間に骨抜きにされるとは情けない。だがお陰で弱みを握ることができるという物。九尾を殺した暁には、絶好の好機を与えてくれた礼として、お前も後を追わせてやろう」
そう一息に言った妖怪は、訳の分からぬまま恐怖で固まる詩織を小脇に抱えた。不幸な事に今は夜。周辺には誰もおらず、助けに来る者もいない。妖怪もまたそれを分かっているのか、詩織を抱えたまま悠々と山に向かって歩き出した。
しばし呆然としていた詩織だったが、ようやく自分の状況を理解できた時にはもう里の外れ。このままではいけないと「放して!」と叫びながら暴れたものの、妖怪は詩織にチラリと一瞥をくれるだけだった。
「人間風情が暴れたところでびくともせぬわ。無駄な事はせず、これから死にゆく九尾のために念仏でも唱えてろ。なァに、お前の念仏は俺が唱えてやるよ。祝杯をあげながらなァ」
高笑いで歩き続ける妖怪の頭の中は、銀時を殺し名を揚げた自分が見えているのだろう。このままでは自分のせいで、銀時が本当に命を落としてしまうかもしれない。一歩一歩着実に山を目指して歩く妖怪に恐怖しながらも、詩織は思った。
ーー銀さんの足枷になるなんて嫌。何とかしなきゃ……!
必死にもがき続けてはいたが、詩織の体はもう体力の限界だ。かくなる上はと手を伸ばしたのは、自らの髪を束ねていた一本の簪。銀時からもらった何よりも大切な簪を握りしめた詩織は、一瞬躊躇いを見せながらも思い切りその手を振り下ろした。
「グァァァッ!」
詩織を抱えていた腕に深く突き刺さった簪は、妖怪に悲鳴を上げさせる。
「キサマ、人間の分際でよくも……ッ!」
「きゃあぁぁっ!」
痛みと怒りで激昂した妖怪は、思い切り詩織を殴り飛ばした。
吹っ飛んだ詩織の体は地面に叩きつけられ、致命傷となる。思わず咽せた詩織の喉を、大量の血液が通り過ぎていった。
「ゴホッ……ぎ……さん……」
苦しい息の中、大切な者の名を呼ぶ。だが消え入りそうなその声が銀時に届く事はない。
「銀……さ……」
涙が揺らす視界の向こうで、妖怪が簪を抜いて投げ捨てるのが見えた。跳ねながらすぐ側まで転がってきたそれを掴もうと、全身の痛みを堪えて這いずりながら必死に手を伸ばす。
何度も掴み損ねながら、ようやく目の前まで引き寄せた簪は、妖怪の血に染まっていて。
「ごめ……せっか……く銀さ……くれた……のに……」
遠のいていく意識の中、詩織は思った。
ーー銀さんのくれた簪を、こんな風に使いたくなかった。もう一度銀さんに会いたかった。
全身の力が抜けていく。
ーー銀さんと一緒に生きたかった。
「ぎ……」
詩織の口から漏れる細く長い息。それが止まった時にはもう、詩織の瞳は完全に光を失っていて。
その後詩織が銀時の名を紡ぐ事はもう、無かった。
里での暮らしは大切だが、やはり銀時に会えない寂しさが募っていたのだろう。詩織もまた、そろそろ山に行けないだろうかと考えていた。
いつ顔を合わせることになっても良いよう、別れ際に土産として渡された簪を常に身に付け、暇があれば銀時の口に合いそうな菓子作りに勤しむ。誰に語ることもないが、いつでも心には銀時がいた。
そんなある日、詩織の目の前に突如一匹の妖怪が現れる。
「ふん……九尾ともあろう者が、こんなひ弱な人間に骨抜きにされるとは情けない。だがお陰で弱みを握ることができるという物。九尾を殺した暁には、絶好の好機を与えてくれた礼として、お前も後を追わせてやろう」
そう一息に言った妖怪は、訳の分からぬまま恐怖で固まる詩織を小脇に抱えた。不幸な事に今は夜。周辺には誰もおらず、助けに来る者もいない。妖怪もまたそれを分かっているのか、詩織を抱えたまま悠々と山に向かって歩き出した。
しばし呆然としていた詩織だったが、ようやく自分の状況を理解できた時にはもう里の外れ。このままではいけないと「放して!」と叫びながら暴れたものの、妖怪は詩織にチラリと一瞥をくれるだけだった。
「人間風情が暴れたところでびくともせぬわ。無駄な事はせず、これから死にゆく九尾のために念仏でも唱えてろ。なァに、お前の念仏は俺が唱えてやるよ。祝杯をあげながらなァ」
高笑いで歩き続ける妖怪の頭の中は、銀時を殺し名を揚げた自分が見えているのだろう。このままでは自分のせいで、銀時が本当に命を落としてしまうかもしれない。一歩一歩着実に山を目指して歩く妖怪に恐怖しながらも、詩織は思った。
ーー銀さんの足枷になるなんて嫌。何とかしなきゃ……!
必死にもがき続けてはいたが、詩織の体はもう体力の限界だ。かくなる上はと手を伸ばしたのは、自らの髪を束ねていた一本の簪。銀時からもらった何よりも大切な簪を握りしめた詩織は、一瞬躊躇いを見せながらも思い切りその手を振り下ろした。
「グァァァッ!」
詩織を抱えていた腕に深く突き刺さった簪は、妖怪に悲鳴を上げさせる。
「キサマ、人間の分際でよくも……ッ!」
「きゃあぁぁっ!」
痛みと怒りで激昂した妖怪は、思い切り詩織を殴り飛ばした。
吹っ飛んだ詩織の体は地面に叩きつけられ、致命傷となる。思わず咽せた詩織の喉を、大量の血液が通り過ぎていった。
「ゴホッ……ぎ……さん……」
苦しい息の中、大切な者の名を呼ぶ。だが消え入りそうなその声が銀時に届く事はない。
「銀……さ……」
涙が揺らす視界の向こうで、妖怪が簪を抜いて投げ捨てるのが見えた。跳ねながらすぐ側まで転がってきたそれを掴もうと、全身の痛みを堪えて這いずりながら必死に手を伸ばす。
何度も掴み損ねながら、ようやく目の前まで引き寄せた簪は、妖怪の血に染まっていて。
「ごめ……せっか……く銀さ……くれた……のに……」
遠のいていく意識の中、詩織は思った。
ーー銀さんのくれた簪を、こんな風に使いたくなかった。もう一度銀さんに会いたかった。
全身の力が抜けていく。
ーー銀さんと一緒に生きたかった。
「ぎ……」
詩織の口から漏れる細く長い息。それが止まった時にはもう、詩織の瞳は完全に光を失っていて。
その後詩織が銀時の名を紡ぐ事はもう、無かった。
