文豪ストレイドッグス
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一方その頃花圃はと言うと、動揺しながらクローゼットをひっくり返していた。
芥川の服を乾燥機にかけてはいるものの、乾くまでにもう暫くかかりそうだ。それまでのつなぎの服が必要だろうと、自分の持っている服の中で一番大きなシャツを出し、バスルームの前に置く。
「とりあえずの服を置いとくから、着てね!」
緊張のあまり、声がひっくり返ってしまったのは仕方のないことだろう。
「ああ」と中から声が聞こえたのを確認した花圃は、急いでバスルームから離れた。
少々短くはあったが、芥川自身が細身だと言うこともあり、服はギリギリ着ることができたようだ。下着はさすがに準備ができず、バスタオルで一時しのぎをし、乾燥が終わるのを待つことにした。
風呂上がりに出されたお茶で喉を潤すと、芥川の表情が緩む。それをきっかけにして、花圃は芥川の傷の手当てに動いた。
「最初に見たときは顔が真っ青だったから、心配したんだよ。でももう大丈夫そうね。血も通ってるし、なんかスッキリした顔してる。咳も完全に止まったね」
「風呂で温まって血流が良くなっただけだ。それ以外何の理由もありはしない」
「……何か焦ってない?」
「黙れ」
「感じ悪いなぁ……でもまあ良いや。元気になったみたいだし」
ポン、と軽く怪我の場所を叩き、芥川の顔をしかめさせた花圃は、舌を出して笑いながらバスルームへと向かう。のっそりと中から出てきた猫の体を拭いてミルクを出してやると、猫は「にゃあ」と嬉しそうに鳴いた。
同時に乾燥が終わったとブザーが鳴る。
早速着替えた芥川は、心底ホッとした顔を見せた。
「もう行くの?」
「ああ、世話になったな」
そのまま玄関に向かう芥川を追いかけ、花圃が言う。
「また会えるかな?」
「会う理由がないだろう。僕 がここに来たのは偶然だ」
「そっかぁ……偶然も一つの縁だと思ったんだけどな」
「それは……っ」
悲しげな顔を見せる花圃に、芥川は言葉を詰まらせた。そんな芥川を見て、花圃は慌てて取り繕う。
「ああ、ごめんなさい。龍ちゃんを困らせるつもりはなかったの。ただ、もしまた会えるならと思っただけ」
そう言ってニコリと笑顔を見せた花圃は、「もう怪我しないようにね」の言葉とともに玄関の鍵を開けた。
「じゃあね」と手を振り見送る花圃の脇を通り、玄関を出た芥川の後ろで、ドアがゆっくりと閉まっていく。室内から漏れる光が細くなっていき、消えようとした瞬間ーー。
「羅生門!」
黒い影が走り、ドアを大きく開いた。
驚きで固まる花圃の目に映るのは、ゆっくりとこちらに歩いてくる芥川。
「龍ちゃん……?」
玄関の段差によって、視線の高さが同じになっている花圃の目の前に立ち、芥川は言った。
「確約はできない」
「はい?」
「だが、気が向けばまた来てやってもいい」
「……何よそれ。偉そうな言い方」
苦笑いを見せる花圃に、芥川は顔を近付ける。
「文句があるなら、拒め」
唇が触れる直前、芥川は言ったが、花圃の目は閉じられていた。
それはほんの数秒にも、永遠にも感じられる時間。
熱が遠のき、ゆっくりと目を開けた時にはもう、花圃の前には誰もいない。
だが。
「……また、ね」
そう言った花圃の顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。
余談ではあるが、その数時間後。
ポートマフィアの本拠地に戻った芥川は、ボスである森鴎外にからかわれていた。
「女の子の家に上り込んだ挙句、一緒にお風呂に入っちゃうなんて、感心しないねぇ」
「なっ……僕 はそんな……」
「いやいや良いんだよ。好意をもった若い男女が仲睦まじいのは良いことだからね」
そう言ってニヤニヤと笑いながら唇を指でポンポンと叩いてみせる鴎外に、芥川は冷や汗をかく。
「それは、あの、成り行きで……というか、何故そんな話が……」
「ん〜? 何でだろうねぇ」
心底楽しそうな笑みを浮かべ、ちらりと見た窓の外を長い尻尾が横切ったのだが、どうやら芥川は気付いていないようだ。
ーーでも一番感心しないのは、『あの人』のような気もしますけどねぇ。
滅多に見られない部下の動揺を楽しみながら、鴎外は胸の内でそう呟いていたのだが、それはまた別の話ーー。
〜了〜
芥川の服を乾燥機にかけてはいるものの、乾くまでにもう暫くかかりそうだ。それまでのつなぎの服が必要だろうと、自分の持っている服の中で一番大きなシャツを出し、バスルームの前に置く。
「とりあえずの服を置いとくから、着てね!」
緊張のあまり、声がひっくり返ってしまったのは仕方のないことだろう。
「ああ」と中から声が聞こえたのを確認した花圃は、急いでバスルームから離れた。
少々短くはあったが、芥川自身が細身だと言うこともあり、服はギリギリ着ることができたようだ。下着はさすがに準備ができず、バスタオルで一時しのぎをし、乾燥が終わるのを待つことにした。
風呂上がりに出されたお茶で喉を潤すと、芥川の表情が緩む。それをきっかけにして、花圃は芥川の傷の手当てに動いた。
「最初に見たときは顔が真っ青だったから、心配したんだよ。でももう大丈夫そうね。血も通ってるし、なんかスッキリした顔してる。咳も完全に止まったね」
「風呂で温まって血流が良くなっただけだ。それ以外何の理由もありはしない」
「……何か焦ってない?」
「黙れ」
「感じ悪いなぁ……でもまあ良いや。元気になったみたいだし」
ポン、と軽く怪我の場所を叩き、芥川の顔をしかめさせた花圃は、舌を出して笑いながらバスルームへと向かう。のっそりと中から出てきた猫の体を拭いてミルクを出してやると、猫は「にゃあ」と嬉しそうに鳴いた。
同時に乾燥が終わったとブザーが鳴る。
早速着替えた芥川は、心底ホッとした顔を見せた。
「もう行くの?」
「ああ、世話になったな」
そのまま玄関に向かう芥川を追いかけ、花圃が言う。
「また会えるかな?」
「会う理由がないだろう。
「そっかぁ……偶然も一つの縁だと思ったんだけどな」
「それは……っ」
悲しげな顔を見せる花圃に、芥川は言葉を詰まらせた。そんな芥川を見て、花圃は慌てて取り繕う。
「ああ、ごめんなさい。龍ちゃんを困らせるつもりはなかったの。ただ、もしまた会えるならと思っただけ」
そう言ってニコリと笑顔を見せた花圃は、「もう怪我しないようにね」の言葉とともに玄関の鍵を開けた。
「じゃあね」と手を振り見送る花圃の脇を通り、玄関を出た芥川の後ろで、ドアがゆっくりと閉まっていく。室内から漏れる光が細くなっていき、消えようとした瞬間ーー。
「羅生門!」
黒い影が走り、ドアを大きく開いた。
驚きで固まる花圃の目に映るのは、ゆっくりとこちらに歩いてくる芥川。
「龍ちゃん……?」
玄関の段差によって、視線の高さが同じになっている花圃の目の前に立ち、芥川は言った。
「確約はできない」
「はい?」
「だが、気が向けばまた来てやってもいい」
「……何よそれ。偉そうな言い方」
苦笑いを見せる花圃に、芥川は顔を近付ける。
「文句があるなら、拒め」
唇が触れる直前、芥川は言ったが、花圃の目は閉じられていた。
それはほんの数秒にも、永遠にも感じられる時間。
熱が遠のき、ゆっくりと目を開けた時にはもう、花圃の前には誰もいない。
だが。
「……また、ね」
そう言った花圃の顔には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。
余談ではあるが、その数時間後。
ポートマフィアの本拠地に戻った芥川は、ボスである森鴎外にからかわれていた。
「女の子の家に上り込んだ挙句、一緒にお風呂に入っちゃうなんて、感心しないねぇ」
「なっ……
「いやいや良いんだよ。好意をもった若い男女が仲睦まじいのは良いことだからね」
そう言ってニヤニヤと笑いながら唇を指でポンポンと叩いてみせる鴎外に、芥川は冷や汗をかく。
「それは、あの、成り行きで……というか、何故そんな話が……」
「ん〜? 何でだろうねぇ」
心底楽しそうな笑みを浮かべ、ちらりと見た窓の外を長い尻尾が横切ったのだが、どうやら芥川は気付いていないようだ。
ーーでも一番感心しないのは、『あの人』のような気もしますけどねぇ。
滅多に見られない部下の動揺を楽しみながら、鴎外は胸の内でそう呟いていたのだが、それはまた別の話ーー。
〜了〜
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