文豪ストレイドッグス
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「こう言う時の王道はベッドに連れて行く事なんだろうけど、さすがにそれはちょっと、ね」
玄関に入り、花圃が目指したのはバスルーム。男を浴室マットに座らせると、シャワーの温度を確認した。
「怪我だけならともかく、雨に濡れてるし泥もついてる。体も冷えてるし、一旦あったまろ」
「おい、ま……っ!」
止める間もなく頭からかけられたシャワーは、少しぬるめの温度に設定されている。文句を言おうとしていた男だったが、シャワーをかけながら自分の服を脱がして行く花圃の必死さが妙に引っかかり、しばらくされるがままになっていた。
「とりあえず傷は足だけのようね。こちらは雨のせいで派手に出血してるように見えてただけか」
実際に傷を見てみると、既に出血は止まりかけている。
「この程度の傷で良かったわ。もうすぐお風呂も沸くから、しっかり温まりなよ。残りの下着は、私が出たら脱いでドアの前に置いてくれる? すぐに洗って乾かしておくから」
ニコリと笑った花圃はシャワーを止め、男の服を抱えてバスルームを出ようとした。
ところがだ。
「くしゅん」
大きなくしゃみをする花圃。
男を助ける事ばかりに夢中になり、自らも雨に濡れていた事を忘れていた花圃の体は、すっかり冷え切っていた。
「うーん、風邪ひいちゃったかな」
もう一つくしゃみをし、ブルリと体を震わせた花圃は、バスルームの取っ手に手をかける。
だが、ドアは開かなかった。
「え……!?」
と声を上げた直後に尻もちをついた事は分かっても、何が起きたのかまでは把握できず、目を瞬かせる花圃。やがて背中から伝わってきた温もりが、現状を気付かせる。
「僕 より貴様の方が冷たくなっているだろうが」
背中から抱き締め、忌々しげに呟く男の声を聞き、花圃は言った。
「ほんとだ。貴方の方が温かいや」
回された腕に手を重ね、男の胸に体を預ける。ゆっくりと顔を上げれば、男と目が合った。
「へえ……そんな優しい目もできるんだね。私の事を信用してくれたの?」
「自惚れるな。僕 のせいで風邪を引かれては迷惑だと思っただけだ」
「ふーん……そっか」
男の言葉に花圃がクスクスと笑えば、男は拗ねたように顔を背ける。その表情を見てますます花圃の笑いが止まらなくなった頃、風呂が沸いた事を伝えるブザーが鳴った。
「沸いたね」
「ああ」
「入ってよ」
「貴様がな」
「貴方の為に沸かしたのよ?」
「今一番冷え切っているのは貴様だ」
「普通はお客様が一番風呂じゃない?」
「僕 は客ではない」
不毛なやりとりが続く中、花圃が提案する。
「だったら……」
数分後。
二人は体勢をそのままに、湯船に浸かっていた。
もちろん、お互い一糸纏わぬ姿で。
「さすがにちょっと狭いね」
「……温まったらさっさと出るぞ」
「何でさっきからそんなに挙動不審なのよ」
「当たり前だ! こんな姿を見られでもしたら……」
「誰に見られるってのよ。見てるのはせいぜいこのにゃんこくらいよ。ねー?」
「にゃあ」
すっかり忘れられていたが、最初から一緒にバスルームに入っていた猫は、タライに入れられた湯にうっとりと浸かっていた。
「そんなわけだから、安心してゆっくりしようよ」
「……」
花圃の言葉に言い返せる言葉が見つからない。
ーー何にせよ、体が温まればこの状況とはおさらばだ。
そう思い、男は諦めてため息をついた。
そんな男の心の内など露知らず、お湯と戯れながら花圃が聞く。
「そういえば、未だ貴方の名前を聞いてなかったわよね。私は花圃よ」
「……芥川」
「下の名前は?」
「そこまで名乗る必要はない」
「良いじゃない。これでも一応命の恩人でしょ?」
「ちっ……龍之介だ」
「芥川龍之介かぁ。かっこいい名前だね。じゃあ呼び方は龍ちゃん、かな」
「ちょっと待て。どうしてそうなる!?」
「だって見た目が龍ちゃんって感じだし。私は花圃ちゃんで宜しくね、龍ちゃん」
「いや、僕 は……」
「やつがれは何? 龍ちゃん」
無邪気な笑顔で振り向きざまに名前を呼ばれ、ドキリとする。しかも体を捻った事で、実は今まで何とか視界に入れまいとしていた花圃の胸を、はっきりと見てしまった芥川はーー。
「ひゃぁっ!?」
花圃が悲鳴をあげる。
湯の中でむくむくと膨らみながら固くなっていくソレは、花圃の背中を下からなぞった。
「今の何!?」
驚いた花圃は、たった今何かが触れた背中に手を回す。
「バカ! やめろ……っ!」
慌てて止めようとした芥川だったが、時すでに遅し。
「これ……!」
花圃の手は、屹立した芥川自身を握っていた。
「さ、さっさと放せっ!」
怒鳴りつける芥川の顔は、真っ赤に染まっている。
「ごめんなさいっ!」
同じく真っ赤になりながら手を放した花圃は、勢いよく湯船から飛び出ると、バスルームのドアを開けながら言った。
「わ、私、着替えの準備してくるから……龍ちゃんはゆっくり入っててっ!」
言い終わらぬ内に、バタンと閉められたドアの向こうでジタバタする花圃の姿が、ガラス越しに透けて見える。その様子を見ながらはぁっと大きく息を吐いた芥川は、広くなった湯船に顔の半分まで沈んだ。
ブクブクと浮かぶ泡を見ながら、芥川は思う。
ーーなんでこんな事に……。
つい今しがたまで、腕の中にすっぽりとはまり込んでいた華奢な体。だがその反面、滑らかな肌と柔らかな肉の心地よさは、とてつもなく大きな存在感を持っていた。
「女ごときに翻弄されるとは……僕 は未だ修行が足りぬと言うことか」
視線を下げれば、未だ屹立したままの自身の姿。その脳裏には、特有の曲線を描いた白い肌が映っているだけでなく、あの時直に握られた感触も残っている。
「くそ……っ」
収まらぬ欲に苛立つ芥川だったが、こればかりはどうしようもない。
しばしの間葛藤していたものの、最終的には自らの手で鎮静化させることとなったのだった。
玄関に入り、花圃が目指したのはバスルーム。男を浴室マットに座らせると、シャワーの温度を確認した。
「怪我だけならともかく、雨に濡れてるし泥もついてる。体も冷えてるし、一旦あったまろ」
「おい、ま……っ!」
止める間もなく頭からかけられたシャワーは、少しぬるめの温度に設定されている。文句を言おうとしていた男だったが、シャワーをかけながら自分の服を脱がして行く花圃の必死さが妙に引っかかり、しばらくされるがままになっていた。
「とりあえず傷は足だけのようね。こちらは雨のせいで派手に出血してるように見えてただけか」
実際に傷を見てみると、既に出血は止まりかけている。
「この程度の傷で良かったわ。もうすぐお風呂も沸くから、しっかり温まりなよ。残りの下着は、私が出たら脱いでドアの前に置いてくれる? すぐに洗って乾かしておくから」
ニコリと笑った花圃はシャワーを止め、男の服を抱えてバスルームを出ようとした。
ところがだ。
「くしゅん」
大きなくしゃみをする花圃。
男を助ける事ばかりに夢中になり、自らも雨に濡れていた事を忘れていた花圃の体は、すっかり冷え切っていた。
「うーん、風邪ひいちゃったかな」
もう一つくしゃみをし、ブルリと体を震わせた花圃は、バスルームの取っ手に手をかける。
だが、ドアは開かなかった。
「え……!?」
と声を上げた直後に尻もちをついた事は分かっても、何が起きたのかまでは把握できず、目を瞬かせる花圃。やがて背中から伝わってきた温もりが、現状を気付かせる。
「
背中から抱き締め、忌々しげに呟く男の声を聞き、花圃は言った。
「ほんとだ。貴方の方が温かいや」
回された腕に手を重ね、男の胸に体を預ける。ゆっくりと顔を上げれば、男と目が合った。
「へえ……そんな優しい目もできるんだね。私の事を信用してくれたの?」
「自惚れるな。
「ふーん……そっか」
男の言葉に花圃がクスクスと笑えば、男は拗ねたように顔を背ける。その表情を見てますます花圃の笑いが止まらなくなった頃、風呂が沸いた事を伝えるブザーが鳴った。
「沸いたね」
「ああ」
「入ってよ」
「貴様がな」
「貴方の為に沸かしたのよ?」
「今一番冷え切っているのは貴様だ」
「普通はお客様が一番風呂じゃない?」
「
不毛なやりとりが続く中、花圃が提案する。
「だったら……」
数分後。
二人は体勢をそのままに、湯船に浸かっていた。
もちろん、お互い一糸纏わぬ姿で。
「さすがにちょっと狭いね」
「……温まったらさっさと出るぞ」
「何でさっきからそんなに挙動不審なのよ」
「当たり前だ! こんな姿を見られでもしたら……」
「誰に見られるってのよ。見てるのはせいぜいこのにゃんこくらいよ。ねー?」
「にゃあ」
すっかり忘れられていたが、最初から一緒にバスルームに入っていた猫は、タライに入れられた湯にうっとりと浸かっていた。
「そんなわけだから、安心してゆっくりしようよ」
「……」
花圃の言葉に言い返せる言葉が見つからない。
ーー何にせよ、体が温まればこの状況とはおさらばだ。
そう思い、男は諦めてため息をついた。
そんな男の心の内など露知らず、お湯と戯れながら花圃が聞く。
「そういえば、未だ貴方の名前を聞いてなかったわよね。私は花圃よ」
「……芥川」
「下の名前は?」
「そこまで名乗る必要はない」
「良いじゃない。これでも一応命の恩人でしょ?」
「ちっ……龍之介だ」
「芥川龍之介かぁ。かっこいい名前だね。じゃあ呼び方は龍ちゃん、かな」
「ちょっと待て。どうしてそうなる!?」
「だって見た目が龍ちゃんって感じだし。私は花圃ちゃんで宜しくね、龍ちゃん」
「いや、
「やつがれは何? 龍ちゃん」
無邪気な笑顔で振り向きざまに名前を呼ばれ、ドキリとする。しかも体を捻った事で、実は今まで何とか視界に入れまいとしていた花圃の胸を、はっきりと見てしまった芥川はーー。
「ひゃぁっ!?」
花圃が悲鳴をあげる。
湯の中でむくむくと膨らみながら固くなっていくソレは、花圃の背中を下からなぞった。
「今の何!?」
驚いた花圃は、たった今何かが触れた背中に手を回す。
「バカ! やめろ……っ!」
慌てて止めようとした芥川だったが、時すでに遅し。
「これ……!」
花圃の手は、屹立した芥川自身を握っていた。
「さ、さっさと放せっ!」
怒鳴りつける芥川の顔は、真っ赤に染まっている。
「ごめんなさいっ!」
同じく真っ赤になりながら手を放した花圃は、勢いよく湯船から飛び出ると、バスルームのドアを開けながら言った。
「わ、私、着替えの準備してくるから……龍ちゃんはゆっくり入っててっ!」
言い終わらぬ内に、バタンと閉められたドアの向こうでジタバタする花圃の姿が、ガラス越しに透けて見える。その様子を見ながらはぁっと大きく息を吐いた芥川は、広くなった湯船に顔の半分まで沈んだ。
ブクブクと浮かぶ泡を見ながら、芥川は思う。
ーーなんでこんな事に……。
つい今しがたまで、腕の中にすっぽりとはまり込んでいた華奢な体。だがその反面、滑らかな肌と柔らかな肉の心地よさは、とてつもなく大きな存在感を持っていた。
「女ごときに翻弄されるとは……
視線を下げれば、未だ屹立したままの自身の姿。その脳裏には、特有の曲線を描いた白い肌が映っているだけでなく、あの時直に握られた感触も残っている。
「くそ……っ」
収まらぬ欲に苛立つ芥川だったが、こればかりはどうしようもない。
しばしの間葛藤していたものの、最終的には自らの手で鎮静化させることとなったのだった。