文豪ストレイドッグス
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その日は朝から雨だった。
「だるいけど……行かなきゃね」
棚から缶詰とペットボトルを取り出し、器と一緒にビニール袋に入れる。傘を差して向かった先は、アパートの隣にある空き地だ。
「にゃんにゃんにゃんこ、でってお〜いで〜」
花圃が呼んでいるのは、ここ最近毎日餌をやっている野良猫。いつも通り草むらの前にしゃがみこんだ花圃は、持って来た器を取り出して地面に置くと、缶詰の中身を入れた。
「ご飯だぞ〜。出てこないと片付けちゃうからね」
器をコンコンと叩いて音を鳴らしながら、猫が出てくるのを待っているとーー。
「にゃあ」
声が聞こえたのは、後ろからだった。
「あれ? お散歩でもしてた?」
いつも草むらに隠れている子にしては珍しいなと思いながら、花圃がゆっくりと振り向いた時。
「どうしたのっ!?」
傘を投げ出し、叫んだ理由はただ一つ。猫の口の周りに付いていた、赤い液体のせいだ。
慌てて駆け寄り抱き上げてはみたものの、どこにも傷は見当たらない。
「単に赤い実か何かを食べたのかなぁ」
餌をやり続けていた事で、すっかり慣れている猫の背を撫でながら、とりあえず安堵する。
だが猫の方は、落ち着いてはいなかった。
「にゃあ」
花圃の顔を見てひと鳴きすると、花圃の手から抜け出し、先程来た方向へと歩いていく。
「どうしたの? ご飯は……」
「にゃあ」
振り向いて再び鳴いた猫は、しばらくじっと花圃の目を見つめていた。
「もしかして、付いてこいって事?」
「にゃあ」
もう一度鳴いた猫は、トコトコと歩き出す。
言葉は通じないものの、この解釈は間違っていないと何故か確信できた花圃は、傘を拾うと急いで猫の後を追った。
「……原因はこれか……」
猫を追いかけてたどり着いたのは、花圃のアパートの裏手にある倉庫。その横にある壁との隙間に、猫は花圃を招き寄せた。
「警察に連絡すべき案件だよね、やっぱり」
そこに座り込んでいたのは、俯いて苦しげに咳をしている一人の男。上目遣いに花圃を睨みつけてはいるが、その息苦しさから体の自由が利かないようだ。
「それって喘息? 怪我もしてるようだし……」
吹き込む雨のせいで大きくなった、足元にできた赤い水たまりの元凶は、男の足の傷らしい。その証拠に、猫が男の足に鼻先を付けると、猫の鼻頭からジワジワと赤いシミが広がっていった。
「救急車、呼ぼうか?」
さすがに放っておくことはできず、ポケットからスマホを取り出す。119にかけようと液晶に触れた次の瞬間、花圃は信じられない物を見た。
「……っ!」
男の背から突如現れた黒い影が、花圃のスマホを跳ね飛ばしたのだ。ギリギリ地面に落ちる直前にスマホは受け止めたが、まるで悪魔のような顔をした影は、しゃがみこんだ花圃に狙いを定めていた。
それは、常識で考えればありえない事。だが目の前には、確かに異質な存在がある。
「これ……生き物?」
半ば放心状態の花圃は、男と影を交互に見る。そしてあろう事か、目の前の影を指で突いた。
「痛っ……!」
花圃の指先にプックリと浮かび上がる赤。それは大きく膨らんでいき、自らの重みでゆっくりと地面に落ちて行く。
しばし傷を見つめていた花圃は、その指をゆっくりと口に含んだ。血の味に顔をしかめはしたものの、鼻を抜ける鉄のような臭いが、花圃の次の行動を後押しする。
「要するに、表沙汰にはしたくないって事よね。だったらうちに来る? 幸い私の部屋はこのアパートの2階だから、人目にもつかないよ」
「……正気か?」
肩で息をしながら顔を上げた男は、呆れたように言った。
「見知らぬ男を部屋に連れ込むなど、正気の沙汰とは思えぬ。僕 が本気になれば、貴様など一瞬で殺せるぞ」
「そうかも知れないけど、だったらもうとっくに私は殺されてるんじゃない?」
「……」
「それに、その猫が傷口に触れたにも関わらず、跳ね除けることをしなかった。猫も貴方を警戒するどころか、私をここまで連れてくるくらいだし、根っからの悪人じゃないんだろうなってね。まあ顔は……悪人ヅラしてるけど」
「殺すぞ」
強い口調で脅しをかけたつもりだったのかもしれないが、血の気の引いた顔はもう、体力の限界だと言うことを如実に表していた。
「私を殺す前に、自分が死にそうじゃない。とりあえず上に行こう。この人の事を教えてくれたご褒美に、今日だけは特別、にゃんこもご招待してあげよう」
「にゃあ」
そう言った花圃は男の返事を待たず、腕を自らの肩にかける。
「せーの……っ」
渾身の力で男と一緒に立ち上がると、よろめきながらも何とか男を部屋まで連れて行った。
「だるいけど……行かなきゃね」
棚から缶詰とペットボトルを取り出し、器と一緒にビニール袋に入れる。傘を差して向かった先は、アパートの隣にある空き地だ。
「にゃんにゃんにゃんこ、でってお〜いで〜」
花圃が呼んでいるのは、ここ最近毎日餌をやっている野良猫。いつも通り草むらの前にしゃがみこんだ花圃は、持って来た器を取り出して地面に置くと、缶詰の中身を入れた。
「ご飯だぞ〜。出てこないと片付けちゃうからね」
器をコンコンと叩いて音を鳴らしながら、猫が出てくるのを待っているとーー。
「にゃあ」
声が聞こえたのは、後ろからだった。
「あれ? お散歩でもしてた?」
いつも草むらに隠れている子にしては珍しいなと思いながら、花圃がゆっくりと振り向いた時。
「どうしたのっ!?」
傘を投げ出し、叫んだ理由はただ一つ。猫の口の周りに付いていた、赤い液体のせいだ。
慌てて駆け寄り抱き上げてはみたものの、どこにも傷は見当たらない。
「単に赤い実か何かを食べたのかなぁ」
餌をやり続けていた事で、すっかり慣れている猫の背を撫でながら、とりあえず安堵する。
だが猫の方は、落ち着いてはいなかった。
「にゃあ」
花圃の顔を見てひと鳴きすると、花圃の手から抜け出し、先程来た方向へと歩いていく。
「どうしたの? ご飯は……」
「にゃあ」
振り向いて再び鳴いた猫は、しばらくじっと花圃の目を見つめていた。
「もしかして、付いてこいって事?」
「にゃあ」
もう一度鳴いた猫は、トコトコと歩き出す。
言葉は通じないものの、この解釈は間違っていないと何故か確信できた花圃は、傘を拾うと急いで猫の後を追った。
「……原因はこれか……」
猫を追いかけてたどり着いたのは、花圃のアパートの裏手にある倉庫。その横にある壁との隙間に、猫は花圃を招き寄せた。
「警察に連絡すべき案件だよね、やっぱり」
そこに座り込んでいたのは、俯いて苦しげに咳をしている一人の男。上目遣いに花圃を睨みつけてはいるが、その息苦しさから体の自由が利かないようだ。
「それって喘息? 怪我もしてるようだし……」
吹き込む雨のせいで大きくなった、足元にできた赤い水たまりの元凶は、男の足の傷らしい。その証拠に、猫が男の足に鼻先を付けると、猫の鼻頭からジワジワと赤いシミが広がっていった。
「救急車、呼ぼうか?」
さすがに放っておくことはできず、ポケットからスマホを取り出す。119にかけようと液晶に触れた次の瞬間、花圃は信じられない物を見た。
「……っ!」
男の背から突如現れた黒い影が、花圃のスマホを跳ね飛ばしたのだ。ギリギリ地面に落ちる直前にスマホは受け止めたが、まるで悪魔のような顔をした影は、しゃがみこんだ花圃に狙いを定めていた。
それは、常識で考えればありえない事。だが目の前には、確かに異質な存在がある。
「これ……生き物?」
半ば放心状態の花圃は、男と影を交互に見る。そしてあろう事か、目の前の影を指で突いた。
「痛っ……!」
花圃の指先にプックリと浮かび上がる赤。それは大きく膨らんでいき、自らの重みでゆっくりと地面に落ちて行く。
しばし傷を見つめていた花圃は、その指をゆっくりと口に含んだ。血の味に顔をしかめはしたものの、鼻を抜ける鉄のような臭いが、花圃の次の行動を後押しする。
「要するに、表沙汰にはしたくないって事よね。だったらうちに来る? 幸い私の部屋はこのアパートの2階だから、人目にもつかないよ」
「……正気か?」
肩で息をしながら顔を上げた男は、呆れたように言った。
「見知らぬ男を部屋に連れ込むなど、正気の沙汰とは思えぬ。
「そうかも知れないけど、だったらもうとっくに私は殺されてるんじゃない?」
「……」
「それに、その猫が傷口に触れたにも関わらず、跳ね除けることをしなかった。猫も貴方を警戒するどころか、私をここまで連れてくるくらいだし、根っからの悪人じゃないんだろうなってね。まあ顔は……悪人ヅラしてるけど」
「殺すぞ」
強い口調で脅しをかけたつもりだったのかもしれないが、血の気の引いた顔はもう、体力の限界だと言うことを如実に表していた。
「私を殺す前に、自分が死にそうじゃない。とりあえず上に行こう。この人の事を教えてくれたご褒美に、今日だけは特別、にゃんこもご招待してあげよう」
「にゃあ」
そう言った花圃は男の返事を待たず、腕を自らの肩にかける。
「せーの……っ」
渾身の力で男と一緒に立ち上がると、よろめきながらも何とか男を部屋まで連れて行った。
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