BLEACH(現在13編)
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今年も24日は当たり前のようにやって来た。世の中はクリスマスカラーに染まり、皆が浮足立っている。
そんな中、私はと言うと……。
『ちょー忙しいんですけどっ!』
心で叫びつつも笑顔を崩さず、時には「メリークリスマス!」を爽やかに口にしながら、予約されていたケーキを渡している。
そう、私は現在仕事中。クリスマスイブにプラスして、振替休日と言う恐ろしく人が多くなる事が予想されていた今日は、朝からがっつりとシフトが入っていた。
実際は入れてもらった、が正しいんだけどね。だって――。
『クリスマスなんて大っ嫌い!』
正確には明日がクリスマスだけど、パーティーが開かれるのは大抵が24日。しかも明日が平日となれば、なおさら今日がメインとなる。
『何が良いのよ、クリスマスなんて』
皆さま楽しそうに騒いでますがねえ、クリスマスの本来の意味、忘れてない? 絶対趣旨がずれてるっての!
そんな事を考えながらもきちんと仕事をこなし、ようやく終わりが見え始めた頃――。
「予約していた者っス」
と現れたのは、以前からこの店の常連であり、近所で浦原商店とか言う何の店か分からない不思議な店をやっている浦原さん。不思議と縁があるのか、彼とはよく街中で顔を合わせるため、話す機会も多かった。でも……。
「いつも和装だからイメージがわきませんでした。意外とイベントを大切にする方なんですね」
「やだなぁ。これでもアタシは敬虔なクリスチャンっすよ。まぁ26日になったらとっとと鞍替えしますけどね」
いつも通り軽薄な雰囲気を纏いつつ、のほほんと言う浦原さん。「あ、これ宜しくっス」と差し出された予約票とお金を受け取ると、代わりに準備してあったケーキをショーケースの上に置いた。
「3つありますので、ひっくり返さないように気を付けて下さいね」
「どーも。今夜は結構な人数が集まるので、準備が大変なんスよ」
「そうなんですか。賑やかに過ごされるんですね。楽しんで下さい」
「はいっス」
ではでは~、と下駄をカラコロさせながら去って行く浦原さんの背中を見送り、渡されたお金をしまおうとレジを開ける。と、その時、予約票とお金の間にもう一枚紙が挟まっているのに気付いた。
『今夜、お仕事が終わったらうちに寄って下さい』
そう走り書きされていた紙を慌ててポケットにしまった私は、他の誰にも見られていない事を確認すると小さく嘆息する。
なるほど帰り際、やけに意味深な目でこちらを見たなと思ったら、このメモの事だったわけか。万が一気付かなかったらどうするつもりだったんだか、と呆れはしたけれど、まあどうせ閉店後の予定は無い。
浦原商店に来いって事はパーティーのお誘いだろうし、声をかけられたからには顔を出しておいた方が良いだろうと思った私は、少しでも早く仕事を終わらせるべく、テキパキと作業をこなしていった。
「やぁっと終わったぁ~!」
閉店時間を過ぎ、片付けを終えて店を出たのは22時を回った頃。
「思ってたより遅くなっちゃった。さすがにもうパーティーは終わってるだろうなぁ」
そうは思っていても、一声かけておいた方が良いだろう。こういう時、向こうの電話番号が分からないというのは厄介だった。
「とにかく急がなきゃ」
息を切らせて走るなんて久しぶりだなと思いつつ、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら浦原商店へと急ぐ。でも到着した時にはもう、外から見える窓に光はなくて。
「……そりゃそうだよね……」
いくら何でもこんな時間まで、私を待ってくれているはずはない。
「いつもの閉店時間は8時だもんね。浦原さんも、私がここまで遅いなんて思ってなかっただろうな」
肩で息をしながら呟いた言葉は、誰にも届かずに消えて行った。
「あーあ、何で私、こんなに必死に走ってきたんだろう。クリスマスなんて嫌いなのに……」
息を整えようと、深く深呼吸する。店を出た時から何度も吸い込んでいたはずの冷たい空気が、今は突き刺さるように痛かった。
「やっぱり相性悪いな、クリスマスって」
今更チャイムを鳴らすのも悪いし、と私は踵を返す。そしてトボトボと歩き始めた時ーー。
「おや、上がっていかないんスか?」
「え……?」
声に驚いて振り向くと、そこにはとんでもなく怪しい男が立っていた。サンタ帽に白い髭、でも何故か首から下は作務衣に下駄という、まさに似非サンタの称号がふさわしい出で立ちだ。
「ずっと待ってたんスよ。さすがに若者は帰らせましたけどね」
サンタ仕様の手袋で、ピコピコ手招きをしながら近付いてきた似非サンタな浦原さんに、私はため息を吐くしかなかった。
「別に待っててくれなくても良かったんですよ。しかもそのカッコ……」
「いやぁ、やっぱりクリスマスですし、サンタ姿でお迎えするのが良いかなと思いまして」
「いやもうその姿って、『惨多苦労棄』みたいな漢字を背負ってそうで怖いです」
「え〜、そうですか? 織姫さんには好評だったんですけどねぇ。そういや黒崎さんたちからは、全く触れて貰えなかったので寂しいとは思ってたんスよ」
「それ、触れなかったんじゃなくて、触れたくなかったんじゃ……怖くて」
「酷いこと言いますねぇ。せっかくプレゼントを準備してたってのに」
「プレゼント?」
顔を合わせる度に交わしていたのは、いつだって冗談みたいな会話だったから、パーティーとは言え今日もまた、いつものように他愛ないお喋りをして終わると思っていた。私自身もそれが心地良くて、彼と顔を合わせるのを楽しみにしていたため、余計にそう思い込んでいたのかもしれない。
だから、プレゼントが準備されているなんて夢にも思っていなかった。
「やだ、ごめんなさい。そうですよね……クリスマスはプレゼント交換が付き物だったの忘れてた。私、クリスマスのイベントに参加する事が無いから疎くて……」
お店のお菓子くらい買ってくれば良かったと後悔しても、後の祭り。どうした物かとアワアワしていると、浦原さんが笑いながら言った。
「いえ、そうじゃなくて……はい。お誕生日おめでとうございます」
「……え?」
一瞬、時が止まった。浦原さんは今何と……?
「あれ? 香織さんの誕生日って、24日でしたよね。アタシの記憶違いでしたか?」
「ううん、合ってる……合ってるんですけど、何で知ってるんですか?」
「だって前に言ってたじゃ無いですか。クリスマスは嫌いだって。誕生日がイベントと重なると、皆に忘れられてしまうから、今年もイブは全力で働くって」
「それは……!」
確かに以前、浦原さんの前で愚痴った気がする。でも話が出たのはせいぜい一度きりのはずなのに、そんな会話を覚えていてくれたなんて。
「だから今日は絶対、香織さんのお祝いをしようと決めてたんスよ。まぁ最初はクリスマスパーティーからのスタートでしたけどね」
「ありがとう……ございます……」
胸が熱くなり、言葉に詰まった。何とかお礼だけは言えたけれど、思わずこみ上げそうになった涙を堪えるのに必死で、次の言葉が見つからない。
そんな私に笑いかけながら、浦原さんは言った。
「ほら、せっかくですし、ここで開けてみて下さいよ」
「……はい」
手のひらサイズの小箱の中身は、とても可愛らしいオルゴール。蓋を開くと『恋人がサンタクロース』の曲が流れ、中に入っていたのは……。
「これ……!」
「結構悩んだんスよ。貴女に似合いそうなデザインがなかなか見つからなくて」
それは、シンプルだけど上品なペンダントだった。
「本当は指輪なんかも考えたんですけどね。お店では外してしまうでしょうし、イヤリングはあまり付けないでしょう? ペンダントならよく付けてる姿を見てましたからね」
「このデザイン、凄く好きです。嬉しい……! 大切にしますね」
「それじゃ早速、アタシが付けてあげますよ」
「え? あ、そんな事……」
スイ、と手袋を外した浦原さんは、ペンダントを手に取ると私の首に手を回す。突然の至近距離に思わず下を向いた私は、固まったまま動けなくなった。
私の緊張には気付かないのか、チェーンを止めてくれた浦原さんは「できましたよ、ちょっと上を向いてみて下さい」と無邪気に言ってくる。心臓が飛び出しそうになりながらも、意を決してゆっくりと顔を上げるとーー。
「……っ!」
焦点が、合わない。それでも頬にかかる吐息は、目の前にあるのが何かをはっきりと伝えてくる。いつの間にかサンタの髭が取り外されていた事にも気付かず、私は息を飲んだ。
「こういう時は、目を閉じるもんっスよ」
「うら……」
重ねられた唇が乾いてカサついていた事で、浦原さんも緊張している事に気付いた私は、少しだけ肩の力が抜けた。
小さく啄ばむように何度も触れ、角度を変えていく内に潤っていく唇から「好きですよ」の囁きと共に新たな感触が顔を出す。最初は躊躇いがちに、でも確実に私の口内を探り始めた頃には、私も目を閉じ浦原さんを受け入れていた。
やがてゆっくりと唇を離し、お互いの目を見つめ合えば、優しい眼差しが向けられる。
「生まれてきてくれてありがとうございます。香織さんをアタシの為にこの世に贈り出してくれたクリスマスに、感謝しなきゃダメっスね」
そう言った浦原さんの顔が本当に嬉しそうで、何だか照れ臭かった。
「正確にはクリスマスイブですよ」
素直に言葉を受け取れば良いのにくすぐったくて、意地悪な訂正を入れる。でも浦原さんが気にする事は無い。
「って事は、香織さんはイブで、アタシはさしずめアダムですかね」
「それって話が変わってきてません?」
「アダムとイブって、ロマンチックじゃないですか。お互い相手が唯一無二の存在なんスよ。……うん、なんかいいっス」
ニッと笑った浦原さんは、私の頬にそっと手をかけた。
「そんな唯一のパートナーであるイブの誕生日に、アダムがクリスマスプレゼントを欲しがるってのは……やっぱダメっスかね」
先程までとは違う切ない眼差し。そこにどんな意味が込められているか、気付かないフリなんてできない。
だから私は、頬に触れている浦原さんの手に自分の手を重ねると、彼を真っ直ぐに見つめながら万感の想いを込めて言った。
「ダメなんかじゃ無い。私も……浦原さんが好きです」
〜了〜
そんな中、私はと言うと……。
『ちょー忙しいんですけどっ!』
心で叫びつつも笑顔を崩さず、時には「メリークリスマス!」を爽やかに口にしながら、予約されていたケーキを渡している。
そう、私は現在仕事中。クリスマスイブにプラスして、振替休日と言う恐ろしく人が多くなる事が予想されていた今日は、朝からがっつりとシフトが入っていた。
実際は入れてもらった、が正しいんだけどね。だって――。
『クリスマスなんて大っ嫌い!』
正確には明日がクリスマスだけど、パーティーが開かれるのは大抵が24日。しかも明日が平日となれば、なおさら今日がメインとなる。
『何が良いのよ、クリスマスなんて』
皆さま楽しそうに騒いでますがねえ、クリスマスの本来の意味、忘れてない? 絶対趣旨がずれてるっての!
そんな事を考えながらもきちんと仕事をこなし、ようやく終わりが見え始めた頃――。
「予約していた者っス」
と現れたのは、以前からこの店の常連であり、近所で浦原商店とか言う何の店か分からない不思議な店をやっている浦原さん。不思議と縁があるのか、彼とはよく街中で顔を合わせるため、話す機会も多かった。でも……。
「いつも和装だからイメージがわきませんでした。意外とイベントを大切にする方なんですね」
「やだなぁ。これでもアタシは敬虔なクリスチャンっすよ。まぁ26日になったらとっとと鞍替えしますけどね」
いつも通り軽薄な雰囲気を纏いつつ、のほほんと言う浦原さん。「あ、これ宜しくっス」と差し出された予約票とお金を受け取ると、代わりに準備してあったケーキをショーケースの上に置いた。
「3つありますので、ひっくり返さないように気を付けて下さいね」
「どーも。今夜は結構な人数が集まるので、準備が大変なんスよ」
「そうなんですか。賑やかに過ごされるんですね。楽しんで下さい」
「はいっス」
ではでは~、と下駄をカラコロさせながら去って行く浦原さんの背中を見送り、渡されたお金をしまおうとレジを開ける。と、その時、予約票とお金の間にもう一枚紙が挟まっているのに気付いた。
『今夜、お仕事が終わったらうちに寄って下さい』
そう走り書きされていた紙を慌ててポケットにしまった私は、他の誰にも見られていない事を確認すると小さく嘆息する。
なるほど帰り際、やけに意味深な目でこちらを見たなと思ったら、このメモの事だったわけか。万が一気付かなかったらどうするつもりだったんだか、と呆れはしたけれど、まあどうせ閉店後の予定は無い。
浦原商店に来いって事はパーティーのお誘いだろうし、声をかけられたからには顔を出しておいた方が良いだろうと思った私は、少しでも早く仕事を終わらせるべく、テキパキと作業をこなしていった。
「やぁっと終わったぁ~!」
閉店時間を過ぎ、片付けを終えて店を出たのは22時を回った頃。
「思ってたより遅くなっちゃった。さすがにもうパーティーは終わってるだろうなぁ」
そうは思っていても、一声かけておいた方が良いだろう。こういう時、向こうの電話番号が分からないというのは厄介だった。
「とにかく急がなきゃ」
息を切らせて走るなんて久しぶりだなと思いつつ、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら浦原商店へと急ぐ。でも到着した時にはもう、外から見える窓に光はなくて。
「……そりゃそうだよね……」
いくら何でもこんな時間まで、私を待ってくれているはずはない。
「いつもの閉店時間は8時だもんね。浦原さんも、私がここまで遅いなんて思ってなかっただろうな」
肩で息をしながら呟いた言葉は、誰にも届かずに消えて行った。
「あーあ、何で私、こんなに必死に走ってきたんだろう。クリスマスなんて嫌いなのに……」
息を整えようと、深く深呼吸する。店を出た時から何度も吸い込んでいたはずの冷たい空気が、今は突き刺さるように痛かった。
「やっぱり相性悪いな、クリスマスって」
今更チャイムを鳴らすのも悪いし、と私は踵を返す。そしてトボトボと歩き始めた時ーー。
「おや、上がっていかないんスか?」
「え……?」
声に驚いて振り向くと、そこにはとんでもなく怪しい男が立っていた。サンタ帽に白い髭、でも何故か首から下は作務衣に下駄という、まさに似非サンタの称号がふさわしい出で立ちだ。
「ずっと待ってたんスよ。さすがに若者は帰らせましたけどね」
サンタ仕様の手袋で、ピコピコ手招きをしながら近付いてきた似非サンタな浦原さんに、私はため息を吐くしかなかった。
「別に待っててくれなくても良かったんですよ。しかもそのカッコ……」
「いやぁ、やっぱりクリスマスですし、サンタ姿でお迎えするのが良いかなと思いまして」
「いやもうその姿って、『惨多苦労棄』みたいな漢字を背負ってそうで怖いです」
「え〜、そうですか? 織姫さんには好評だったんですけどねぇ。そういや黒崎さんたちからは、全く触れて貰えなかったので寂しいとは思ってたんスよ」
「それ、触れなかったんじゃなくて、触れたくなかったんじゃ……怖くて」
「酷いこと言いますねぇ。せっかくプレゼントを準備してたってのに」
「プレゼント?」
顔を合わせる度に交わしていたのは、いつだって冗談みたいな会話だったから、パーティーとは言え今日もまた、いつものように他愛ないお喋りをして終わると思っていた。私自身もそれが心地良くて、彼と顔を合わせるのを楽しみにしていたため、余計にそう思い込んでいたのかもしれない。
だから、プレゼントが準備されているなんて夢にも思っていなかった。
「やだ、ごめんなさい。そうですよね……クリスマスはプレゼント交換が付き物だったの忘れてた。私、クリスマスのイベントに参加する事が無いから疎くて……」
お店のお菓子くらい買ってくれば良かったと後悔しても、後の祭り。どうした物かとアワアワしていると、浦原さんが笑いながら言った。
「いえ、そうじゃなくて……はい。お誕生日おめでとうございます」
「……え?」
一瞬、時が止まった。浦原さんは今何と……?
「あれ? 香織さんの誕生日って、24日でしたよね。アタシの記憶違いでしたか?」
「ううん、合ってる……合ってるんですけど、何で知ってるんですか?」
「だって前に言ってたじゃ無いですか。クリスマスは嫌いだって。誕生日がイベントと重なると、皆に忘れられてしまうから、今年もイブは全力で働くって」
「それは……!」
確かに以前、浦原さんの前で愚痴った気がする。でも話が出たのはせいぜい一度きりのはずなのに、そんな会話を覚えていてくれたなんて。
「だから今日は絶対、香織さんのお祝いをしようと決めてたんスよ。まぁ最初はクリスマスパーティーからのスタートでしたけどね」
「ありがとう……ございます……」
胸が熱くなり、言葉に詰まった。何とかお礼だけは言えたけれど、思わずこみ上げそうになった涙を堪えるのに必死で、次の言葉が見つからない。
そんな私に笑いかけながら、浦原さんは言った。
「ほら、せっかくですし、ここで開けてみて下さいよ」
「……はい」
手のひらサイズの小箱の中身は、とても可愛らしいオルゴール。蓋を開くと『恋人がサンタクロース』の曲が流れ、中に入っていたのは……。
「これ……!」
「結構悩んだんスよ。貴女に似合いそうなデザインがなかなか見つからなくて」
それは、シンプルだけど上品なペンダントだった。
「本当は指輪なんかも考えたんですけどね。お店では外してしまうでしょうし、イヤリングはあまり付けないでしょう? ペンダントならよく付けてる姿を見てましたからね」
「このデザイン、凄く好きです。嬉しい……! 大切にしますね」
「それじゃ早速、アタシが付けてあげますよ」
「え? あ、そんな事……」
スイ、と手袋を外した浦原さんは、ペンダントを手に取ると私の首に手を回す。突然の至近距離に思わず下を向いた私は、固まったまま動けなくなった。
私の緊張には気付かないのか、チェーンを止めてくれた浦原さんは「できましたよ、ちょっと上を向いてみて下さい」と無邪気に言ってくる。心臓が飛び出しそうになりながらも、意を決してゆっくりと顔を上げるとーー。
「……っ!」
焦点が、合わない。それでも頬にかかる吐息は、目の前にあるのが何かをはっきりと伝えてくる。いつの間にかサンタの髭が取り外されていた事にも気付かず、私は息を飲んだ。
「こういう時は、目を閉じるもんっスよ」
「うら……」
重ねられた唇が乾いてカサついていた事で、浦原さんも緊張している事に気付いた私は、少しだけ肩の力が抜けた。
小さく啄ばむように何度も触れ、角度を変えていく内に潤っていく唇から「好きですよ」の囁きと共に新たな感触が顔を出す。最初は躊躇いがちに、でも確実に私の口内を探り始めた頃には、私も目を閉じ浦原さんを受け入れていた。
やがてゆっくりと唇を離し、お互いの目を見つめ合えば、優しい眼差しが向けられる。
「生まれてきてくれてありがとうございます。香織さんをアタシの為にこの世に贈り出してくれたクリスマスに、感謝しなきゃダメっスね」
そう言った浦原さんの顔が本当に嬉しそうで、何だか照れ臭かった。
「正確にはクリスマスイブですよ」
素直に言葉を受け取れば良いのにくすぐったくて、意地悪な訂正を入れる。でも浦原さんが気にする事は無い。
「って事は、香織さんはイブで、アタシはさしずめアダムですかね」
「それって話が変わってきてません?」
「アダムとイブって、ロマンチックじゃないですか。お互い相手が唯一無二の存在なんスよ。……うん、なんかいいっス」
ニッと笑った浦原さんは、私の頬にそっと手をかけた。
「そんな唯一のパートナーであるイブの誕生日に、アダムがクリスマスプレゼントを欲しがるってのは……やっぱダメっスかね」
先程までとは違う切ない眼差し。そこにどんな意味が込められているか、気付かないフリなんてできない。
だから私は、頬に触れている浦原さんの手に自分の手を重ねると、彼を真っ直ぐに見つめながら万感の想いを込めて言った。
「ダメなんかじゃ無い。私も……浦原さんが好きです」
〜了〜