BLEACH(現在13編)
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【幸せを持ち越して(浦原)】
楽しいクリスマスが終わると、一気に町は年越しムードへと変わる。やれ大掃除だ、やれ買い物だと人々が右往左往する中、浦原商店も又、忙しない年末を迎えていた。
「はい、みんなちゃっちゃと働く! 今年の汚れは今年の内に、よ!」
「この寒い中、香織さんはほんと元気っすねぇ。アタシなんてもう体が固まっちゃって」
「それは喜助さんの気合いが足りてないからでしょ。ほら、次はあそこをお願いね」
指示を出しながら、誰よりも一生懸命働いている香織の額には、この寒い中だというのに汗が光っている。浦原の本音としては正直掃除なんて怠かったが、さすがにこの状況でサボるわけにはいかないと思ったのだろう。
「分かりましたよ。ほんと香織さんは人使いが荒いですねぇ」
なんて軽い憎まれ口を叩きながらも素直に応じ、順調に掃除を終わらせていった。
そして夜になり、従業員たちも寝静まった頃。とある部屋からは、小さな悲鳴が漏れ聞こえていた。
「……っ、痛……っ喜助さ……もっと優し……ぁっ!」
「これでも随分優しくしてるんスよ。我慢して下さいって」
悲鳴と共に聞こえてくるこのいかがわしい会話は、部屋の外にもはっきりと聞こえている事だろう。
「無理……も、やだ……ぁっ」
「あれだけ昼間にアタシをこき使ってたってのに、夜になるとダメなんスね」
「だって、こんな事にな……るなんて……やぁっ!」
何度も聞こえてくる香織の苦しげな声。だが誰一人止めにも来なければ、突っ込みを入れに来る事も無いのは何故なのか。隣の部屋からは規則正しい寝息すら聞こえてくるあたり、皆諦めてしまっているのかもしれない。
「も……これ以上は、私……っ」
「我慢して下さいよ。あと少しですから」
「いっ……たぁっ! もう良いから! 十分マッサージしてもらったから、あとは湿布だけで良いってば!」
「そんなに怒る事無いじゃないですか。大掃除に一生懸命になり過ぎて、全身筋肉痛になったのは自業自得でしょう?」
「だってぇ……」
浦原の手が香織の背中から離れ、ようやく解放されたと大きく息を吐く香織。うつ伏せの体勢からゆっくりと仰向けになった香織は、ただそれだけの動作でも顔を顰める程の筋肉痛に襲われているようだ。
「大体このマッサージだって、香織さんがやってくれと言うから始めた事でしょう? まあアタシとしては断る理由なんて無いんですけどね。合法的に触りまくれるわけですから」
「最後の部分、訴えるぞ!」
「どーぞどーぞ。どうせ訴えられるなら、今の内に心置きなく触っておきますから」
「ぎゃーっ! 嘘ですごめんなさ~……痛っ」
悪い笑顔でふくらはぎを握られ、悲鳴を上げる香織。どこからどうみても仲の良いカップルがじゃれ合う姿はもうお腹一杯なのか、これだけ騒いでいても誰一人部屋にやって来ることは無かった。
「全くもう、アナタって人は」
そのまま浦原の手は、持ち上げたふくらはぎを優しくさすり始める。痛すぎず心地良い刺激が、大げさな泣き真似をしていた香織の表情をやわらげれば、浦原の頬も緩んだ。
「……こういうのって、良いッスね」
「へ? 何よいきなり」
突然の優しい声に驚いた香織が、不思議そうに聞く。もちろん足は浦原に預けたままで。
「だって、これ以上なく平和じゃないですか。バカみたいにじゃれ合ってはしゃいで、こんな風にお互い気を許して」
「……喜助さん?」
優しい笑顔を見せながらもどこか遠い目をしている浦原に、香織の心がざわりと揺れる。だがその不安を打ち消そうと、香織は言った。
「そんな風に思えるのは、今が幸せだからでしょ? って事は、今年は良い年だったわけだ。その幸せを来年にも持ち越して、新たな年でも一緒に平和を満喫しよう」
「ね?」と同意を求めるようにピコピコ足のつま先を動かせば、「イテテ」と顔を顰める香織。その間抜けさに思わず浦原は吹き出してしまう。
「やれやれ。どんなに良い事を言っても決まらないのが香織さんなんっスかね」
「どういう事よ、それは」
「さて、言葉の意味そのままっスよ」
そう言った浦原はそっと香織の足を下ろして膝立ちになると、被ったままだった帽子を脱いだ。そしてゆっくり移動すると香織に覆いかぶさり、いわゆる床ドンの体勢となる。
「香織さん」
「な、何?」
浦原が珍しく真剣な顔で見つめてくるため、香織の体に緊張が走った。だがすぐにその事に気付いた浦原が笑みを見せれば、香織の体から力が抜ける。こうした自分の一挙手一投足が、どれだけ香織に影響を与えるのかを目の当たりにするのもまた、浦原の幸せだという事を香織は気付いているのだろうか。
「今年はアナタのお陰で、幸せに過ごせましたよ。ありがとうございました」
「や、やだ、改まって言わないでよ。ついでに言うと、未だ今日は30日。今年はあと一日残ってるからね」
「明日は年越しそばやら初詣に出かけるやらでバタバタしそうじゃないですか。絶対邪魔も入りそうですし。だから今言っておきたいんスよ」
「そっか……って邪魔って何? まあいっか。うん、私も幸せだったよ。ありがと」
「来年もアタシの側にいて下さいね」
「もちろん、言わずもがなよ」
他に答えがあるはずないでしょとばかりに笑顔を見せる香織。そこに浦原の影が重なれば会話は途切れ――。
2018年が終わるまであとわずか。
その短い時間も、新たに迎える長い時間も、二人が幸せを感じ続けられる事に間違いはなさそうだ。
~了~
楽しいクリスマスが終わると、一気に町は年越しムードへと変わる。やれ大掃除だ、やれ買い物だと人々が右往左往する中、浦原商店も又、忙しない年末を迎えていた。
「はい、みんなちゃっちゃと働く! 今年の汚れは今年の内に、よ!」
「この寒い中、香織さんはほんと元気っすねぇ。アタシなんてもう体が固まっちゃって」
「それは喜助さんの気合いが足りてないからでしょ。ほら、次はあそこをお願いね」
指示を出しながら、誰よりも一生懸命働いている香織の額には、この寒い中だというのに汗が光っている。浦原の本音としては正直掃除なんて怠かったが、さすがにこの状況でサボるわけにはいかないと思ったのだろう。
「分かりましたよ。ほんと香織さんは人使いが荒いですねぇ」
なんて軽い憎まれ口を叩きながらも素直に応じ、順調に掃除を終わらせていった。
そして夜になり、従業員たちも寝静まった頃。とある部屋からは、小さな悲鳴が漏れ聞こえていた。
「……っ、痛……っ喜助さ……もっと優し……ぁっ!」
「これでも随分優しくしてるんスよ。我慢して下さいって」
悲鳴と共に聞こえてくるこのいかがわしい会話は、部屋の外にもはっきりと聞こえている事だろう。
「無理……も、やだ……ぁっ」
「あれだけ昼間にアタシをこき使ってたってのに、夜になるとダメなんスね」
「だって、こんな事にな……るなんて……やぁっ!」
何度も聞こえてくる香織の苦しげな声。だが誰一人止めにも来なければ、突っ込みを入れに来る事も無いのは何故なのか。隣の部屋からは規則正しい寝息すら聞こえてくるあたり、皆諦めてしまっているのかもしれない。
「も……これ以上は、私……っ」
「我慢して下さいよ。あと少しですから」
「いっ……たぁっ! もう良いから! 十分マッサージしてもらったから、あとは湿布だけで良いってば!」
「そんなに怒る事無いじゃないですか。大掃除に一生懸命になり過ぎて、全身筋肉痛になったのは自業自得でしょう?」
「だってぇ……」
浦原の手が香織の背中から離れ、ようやく解放されたと大きく息を吐く香織。うつ伏せの体勢からゆっくりと仰向けになった香織は、ただそれだけの動作でも顔を顰める程の筋肉痛に襲われているようだ。
「大体このマッサージだって、香織さんがやってくれと言うから始めた事でしょう? まあアタシとしては断る理由なんて無いんですけどね。合法的に触りまくれるわけですから」
「最後の部分、訴えるぞ!」
「どーぞどーぞ。どうせ訴えられるなら、今の内に心置きなく触っておきますから」
「ぎゃーっ! 嘘ですごめんなさ~……痛っ」
悪い笑顔でふくらはぎを握られ、悲鳴を上げる香織。どこからどうみても仲の良いカップルがじゃれ合う姿はもうお腹一杯なのか、これだけ騒いでいても誰一人部屋にやって来ることは無かった。
「全くもう、アナタって人は」
そのまま浦原の手は、持ち上げたふくらはぎを優しくさすり始める。痛すぎず心地良い刺激が、大げさな泣き真似をしていた香織の表情をやわらげれば、浦原の頬も緩んだ。
「……こういうのって、良いッスね」
「へ? 何よいきなり」
突然の優しい声に驚いた香織が、不思議そうに聞く。もちろん足は浦原に預けたままで。
「だって、これ以上なく平和じゃないですか。バカみたいにじゃれ合ってはしゃいで、こんな風にお互い気を許して」
「……喜助さん?」
優しい笑顔を見せながらもどこか遠い目をしている浦原に、香織の心がざわりと揺れる。だがその不安を打ち消そうと、香織は言った。
「そんな風に思えるのは、今が幸せだからでしょ? って事は、今年は良い年だったわけだ。その幸せを来年にも持ち越して、新たな年でも一緒に平和を満喫しよう」
「ね?」と同意を求めるようにピコピコ足のつま先を動かせば、「イテテ」と顔を顰める香織。その間抜けさに思わず浦原は吹き出してしまう。
「やれやれ。どんなに良い事を言っても決まらないのが香織さんなんっスかね」
「どういう事よ、それは」
「さて、言葉の意味そのままっスよ」
そう言った浦原はそっと香織の足を下ろして膝立ちになると、被ったままだった帽子を脱いだ。そしてゆっくり移動すると香織に覆いかぶさり、いわゆる床ドンの体勢となる。
「香織さん」
「な、何?」
浦原が珍しく真剣な顔で見つめてくるため、香織の体に緊張が走った。だがすぐにその事に気付いた浦原が笑みを見せれば、香織の体から力が抜ける。こうした自分の一挙手一投足が、どれだけ香織に影響を与えるのかを目の当たりにするのもまた、浦原の幸せだという事を香織は気付いているのだろうか。
「今年はアナタのお陰で、幸せに過ごせましたよ。ありがとうございました」
「や、やだ、改まって言わないでよ。ついでに言うと、未だ今日は30日。今年はあと一日残ってるからね」
「明日は年越しそばやら初詣に出かけるやらでバタバタしそうじゃないですか。絶対邪魔も入りそうですし。だから今言っておきたいんスよ」
「そっか……って邪魔って何? まあいっか。うん、私も幸せだったよ。ありがと」
「来年もアタシの側にいて下さいね」
「もちろん、言わずもがなよ」
他に答えがあるはずないでしょとばかりに笑顔を見せる香織。そこに浦原の影が重なれば会話は途切れ――。
2018年が終わるまであとわずか。
その短い時間も、新たに迎える長い時間も、二人が幸せを感じ続けられる事に間違いはなさそうだ。
~了~