幽遊白書(現在1編)
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【 exchange presents 】(南野秀一)
街全体がクリスマスカラーに染まっている十二月下旬のある日。ウキウキと書店へと立ち寄った私は、絵本コーナーに見覚えのある人物を見つけた。
「あれって、南野君だよね?」
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。加えて誰にでも優しいという、まるで漫画の主人公のようにパーフェクトなクラスメイト。もちろん彼に憧れている女生徒は数知れずだが、未だかつて彼のOKをもらった者はいないらしい。
そもそも彼に声をかける事からして、ハードルが高いのだ。私自身もクラスメイトではありながら、同じ役員にならなかったら会話などほとんど出来なかっただろう。実はちょっぴり彼に興味のある私にとって、偶然同じ役員になれた事は幸運だった。ただしそのお陰で、女子の嫉妬の対象にはなっていたりするのだが。
念のため、彼の隠れファンが周りにいないかを見回してみる。十分に確認が出来た所で私は彼に声をかけた。
「よっ、南野君。こんなトコで会うなんて奇遇だね」
「北島か。相変わらず元気な奴だな」
「何よその言い草は。それよか、こんなトコに南野君がいるなんてびっくりだよ。絵本に興味あったりするの?」
「まぁ、ね」
「へぇ~、私と一緒じゃん。特に今の時期はクリスマス絵本がたくさんあるから、目の保養だよねぇ。毎年お小遣いと相談して、どれを買うかですっごく悩むんだ」
早速目の前にある新しい絵本を手に取る。平積みで並ぶのはこの時期しかない為、できるだけたくさんの絵本を吟味しておこうと次々ページをめくっていった。
「北島は本当に絵本が好きなんだな」
その姿を、呆れたような顔で見ている南野君。そんな風に見られているのはちょっぴり恥ずかしかったけど、私は手を止めずに答えた。
「お母さんが読み聞かせをしてくれてた影響かな。小さい頃からずっと好きなのよ。特にこういうイベント物がね。あ~もうやっぱり欲しいのがたくさんあるなぁ。コレとコレは要チェックや! でも両方はさすがに懐にキツイ……」
魅力的な本は、得てして高価なものだ。私は両手の中の本を何度も見比べ、悩み、そしてようやく一冊に心を決めた。
「よし、こっち! 今年の絵本はこれに決めるぞっと」
名残惜しい気持ちと戦いながら、諦めた本を棚に戻す。ところがその本は、すぐにまた棚から離れてしまった。
「南野君?」
手に取った人物が南野君と分かり、視線を向ける。その南野君はと言うと、片手で本を持ちながら、もう片方の手で口を押えて必死に笑いをこらえていた。
「ちょっとぉ、何でそんなに笑ってるわけ?」
「ああ、ごめん。君が必死に悩んでる姿があまりに可愛くて」
「か、かわ!?」
思いがけない言葉が帰ってきてあたふたする私を見て、更に肩の震えが大きくなる南野君。
「もう、か……らかわないでよ!」
恥ずかしさに大声で怒ろうとしたものの、ここが書店内という事を思い出して慌てて小声になった私に、これ以上我慢が出来なくなったのだろう。ブフッと吹き出してしまった南野君は、いつも学校で見ている大人びた姿とは全く違うように感じられた。
「ほんとごめん。でもやっぱり北島は可愛いよ」
「だからそういうのは……」
「まぁそういう事で、この絵本は俺からプレゼントするから」
「……はぁ?」
いきなりの発言が、間抜けな声を出させる。この脈絡のない会話の流れは何なんだ? 南野君らしからぬ展開だよね?
「え~っと……何を仰っておいでにあらしゃりますんで?」
「北島、ちょっと落ち着いて日本語話そうか」
「いや、そっくり南野君にお返しするわそのセリフ。どこをどうしたら、南野君から私が絵本をもらう流れになるのよ」
「だって、クリスマスだろ?」
「そりゃそうだけど……じゃあ南野君はサンタって事? ごめん、私に南野ワールドは理解不能だわ」
こんなに会話の噛み合わない事は初めてで、私の頭は混乱しっぱなしだ。そんな私の戸惑いを他所に、彼は少しだけ困った顔をしながら言った。
「理解不能、か。未だ北島は子供だからな」
「何よそれ。私が子供だったら、南野君だって子供でしょ」
「まあ確かにそうなんだけどね。それじゃあもっと具体的に言おうか。俺は北島とクリスマスプレゼントの交換をしたい。俺からはこの絵本。北島からは、二十四日という日」
「……え? 私にそんな時間を与える力なんて無いよ?」
「天然だから凄いよな、北島は。そうじゃなくて二十四日の日を、俺の為に空けておいて欲しいって事」
「それって……!」
「ようやく気付いてくれた?」
言いたい事がやっと伝わった事にホッとしたのか、小さくため息を吐く。逆に私は驚きで息を飲んでいたのだが。
「そんな素振り、今まで一度も見せた事なんて……」
「君が気付いてなかっただけだよ。大体俺が君以外の女生徒と、こんなに気安く喋ってる姿を見た事があった?」
「そういや、無いです」
「役員決めのクジが、毎回必ず俺と一緒になる事に疑問を持たなかった?」
「え? まさか南野君が何か細工をしてたの?」
「俺が絵本コーナーにいる事を、不思議に思わなかった?」
「単純に、興味があるのかと……ってまさか……」
「最初から、北島に贈る本を見に来てたんだよ。絵本好きな事は聞いてただろ?」
そう言った南野君は、私の手の中の本をそっと抜き取ると、二冊を重ねてレジへと歩き出した。
「あ、ちょっと南野君、それは……」
「これも俺が買うよ。その代わり、二十四日はちゃんと空けておくように。初デートなんだからオシャレして来いよ」
「でも……」
一日空ける事くらいはどうって事も無いけれど、さすがに物と交換というのはちょっと……。それを伝えようと私が口を開けた時、南野君が背中越しに言った。
「物で釣るってわけじゃないけどね。好きな物をもらった記憶って、忘れられないだろう? しかもそれがずっと取っておける物なら尚更。――そういう事だよ」
その言葉にどれほど深い想いが込められているのか。肩越しに見えた南野君の頬が少し赤らんでいた事に気付き、鈍い私でもすぐにそれを理解できた。
「……ん、分かった。遠慮なくもらっとくね。ありがと」
南野君の横に駆け寄り、見上げながら言う。
私の答えに満足したのか、南野君はとても嬉しそうな笑顔を私に返してくれたのだった。
~了~
街全体がクリスマスカラーに染まっている十二月下旬のある日。ウキウキと書店へと立ち寄った私は、絵本コーナーに見覚えのある人物を見つけた。
「あれって、南野君だよね?」
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。加えて誰にでも優しいという、まるで漫画の主人公のようにパーフェクトなクラスメイト。もちろん彼に憧れている女生徒は数知れずだが、未だかつて彼のOKをもらった者はいないらしい。
そもそも彼に声をかける事からして、ハードルが高いのだ。私自身もクラスメイトではありながら、同じ役員にならなかったら会話などほとんど出来なかっただろう。実はちょっぴり彼に興味のある私にとって、偶然同じ役員になれた事は幸運だった。ただしそのお陰で、女子の嫉妬の対象にはなっていたりするのだが。
念のため、彼の隠れファンが周りにいないかを見回してみる。十分に確認が出来た所で私は彼に声をかけた。
「よっ、南野君。こんなトコで会うなんて奇遇だね」
「北島か。相変わらず元気な奴だな」
「何よその言い草は。それよか、こんなトコに南野君がいるなんてびっくりだよ。絵本に興味あったりするの?」
「まぁ、ね」
「へぇ~、私と一緒じゃん。特に今の時期はクリスマス絵本がたくさんあるから、目の保養だよねぇ。毎年お小遣いと相談して、どれを買うかですっごく悩むんだ」
早速目の前にある新しい絵本を手に取る。平積みで並ぶのはこの時期しかない為、できるだけたくさんの絵本を吟味しておこうと次々ページをめくっていった。
「北島は本当に絵本が好きなんだな」
その姿を、呆れたような顔で見ている南野君。そんな風に見られているのはちょっぴり恥ずかしかったけど、私は手を止めずに答えた。
「お母さんが読み聞かせをしてくれてた影響かな。小さい頃からずっと好きなのよ。特にこういうイベント物がね。あ~もうやっぱり欲しいのがたくさんあるなぁ。コレとコレは要チェックや! でも両方はさすがに懐にキツイ……」
魅力的な本は、得てして高価なものだ。私は両手の中の本を何度も見比べ、悩み、そしてようやく一冊に心を決めた。
「よし、こっち! 今年の絵本はこれに決めるぞっと」
名残惜しい気持ちと戦いながら、諦めた本を棚に戻す。ところがその本は、すぐにまた棚から離れてしまった。
「南野君?」
手に取った人物が南野君と分かり、視線を向ける。その南野君はと言うと、片手で本を持ちながら、もう片方の手で口を押えて必死に笑いをこらえていた。
「ちょっとぉ、何でそんなに笑ってるわけ?」
「ああ、ごめん。君が必死に悩んでる姿があまりに可愛くて」
「か、かわ!?」
思いがけない言葉が帰ってきてあたふたする私を見て、更に肩の震えが大きくなる南野君。
「もう、か……らかわないでよ!」
恥ずかしさに大声で怒ろうとしたものの、ここが書店内という事を思い出して慌てて小声になった私に、これ以上我慢が出来なくなったのだろう。ブフッと吹き出してしまった南野君は、いつも学校で見ている大人びた姿とは全く違うように感じられた。
「ほんとごめん。でもやっぱり北島は可愛いよ」
「だからそういうのは……」
「まぁそういう事で、この絵本は俺からプレゼントするから」
「……はぁ?」
いきなりの発言が、間抜けな声を出させる。この脈絡のない会話の流れは何なんだ? 南野君らしからぬ展開だよね?
「え~っと……何を仰っておいでにあらしゃりますんで?」
「北島、ちょっと落ち着いて日本語話そうか」
「いや、そっくり南野君にお返しするわそのセリフ。どこをどうしたら、南野君から私が絵本をもらう流れになるのよ」
「だって、クリスマスだろ?」
「そりゃそうだけど……じゃあ南野君はサンタって事? ごめん、私に南野ワールドは理解不能だわ」
こんなに会話の噛み合わない事は初めてで、私の頭は混乱しっぱなしだ。そんな私の戸惑いを他所に、彼は少しだけ困った顔をしながら言った。
「理解不能、か。未だ北島は子供だからな」
「何よそれ。私が子供だったら、南野君だって子供でしょ」
「まあ確かにそうなんだけどね。それじゃあもっと具体的に言おうか。俺は北島とクリスマスプレゼントの交換をしたい。俺からはこの絵本。北島からは、二十四日という日」
「……え? 私にそんな時間を与える力なんて無いよ?」
「天然だから凄いよな、北島は。そうじゃなくて二十四日の日を、俺の為に空けておいて欲しいって事」
「それって……!」
「ようやく気付いてくれた?」
言いたい事がやっと伝わった事にホッとしたのか、小さくため息を吐く。逆に私は驚きで息を飲んでいたのだが。
「そんな素振り、今まで一度も見せた事なんて……」
「君が気付いてなかっただけだよ。大体俺が君以外の女生徒と、こんなに気安く喋ってる姿を見た事があった?」
「そういや、無いです」
「役員決めのクジが、毎回必ず俺と一緒になる事に疑問を持たなかった?」
「え? まさか南野君が何か細工をしてたの?」
「俺が絵本コーナーにいる事を、不思議に思わなかった?」
「単純に、興味があるのかと……ってまさか……」
「最初から、北島に贈る本を見に来てたんだよ。絵本好きな事は聞いてただろ?」
そう言った南野君は、私の手の中の本をそっと抜き取ると、二冊を重ねてレジへと歩き出した。
「あ、ちょっと南野君、それは……」
「これも俺が買うよ。その代わり、二十四日はちゃんと空けておくように。初デートなんだからオシャレして来いよ」
「でも……」
一日空ける事くらいはどうって事も無いけれど、さすがに物と交換というのはちょっと……。それを伝えようと私が口を開けた時、南野君が背中越しに言った。
「物で釣るってわけじゃないけどね。好きな物をもらった記憶って、忘れられないだろう? しかもそれがずっと取っておける物なら尚更。――そういう事だよ」
その言葉にどれほど深い想いが込められているのか。肩越しに見えた南野君の頬が少し赤らんでいた事に気付き、鈍い私でもすぐにそれを理解できた。
「……ん、分かった。遠慮なくもらっとくね。ありがと」
南野君の横に駆け寄り、見上げながら言う。
私の答えに満足したのか、南野君はとても嬉しそうな笑顔を私に返してくれたのだった。
~了~
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