時の泡沫
「次は……沖田さんですね。どうぞ」
「ほう、お前さんがあの噂の沖田か」
「何ですか? 噂って。嫌だなぁ……」
「別に悪い噂じゃねぇよ。近藤さんがいつも褒めてるからな」
「本当ですか? 嬉しいなぁ」
和やかに会話をしながら診察は続く。
基本的に診察はまず『問診』から入り、既往症や、何か自覚症状が無いかを確認。
次に『触診』で患者の肌に触れ、『望診』で顔色や目、唇、舌などを診る。
そして最後は『聞診』で、聴診器を使って呼吸音を聞いたり、体臭で体調を判断した。ところがその『聞診』で、松本先生に小さな変化があった。今までの診察に比べ、やけに聴診器に耳を当てている時間が長い。しかも、だ。
「おい、山崎。せっかくだからお前も肺の音を聞いておけ」と言われたのだ。
「よろしいのですか?」
「あぁ、今までの手伝う姿を見ていても、お前さんはそれなりにできそうだからな。色々と医術を教えておいてやる。まずは初めに診察の仕方から体に叩き込んでおけ。沖田なら少々何かあっても大丈夫だろうしな」
「いや、ちょっと待って下さいよ。私はお試し患者か何かですか?」
「気にすんな。とりあえず聞いとけ」
「では、失礼します」
有無を言わせず耳を当てる。初めて聞く聴診器越しの肺の音はとても不思議で、人体の神秘を感じた。
「その音、しっかり覚えておけよ」
「はい」
こちらで勝手に話を進められて少々拗ね気味の沖田さんだったが、松本先生はそんな事などおかまいなしに尋ねる。
「沖田、最近咳が出たりはしてねぇか?」
「そう言えば、時々出ますね。大したことはありませんが。軽い風邪かと思ってました」
「そうか……山崎は気付いてたか?」
「……確か二か月くらい前、時々咳をされてましたよね。ここ最近顔を合わせる機会が無かったため、その後の変化は分かりませんが……」
それが何か? と二人で松本先生を見ると、神妙な顔で考え込んでいる。その時ふと、忘れていた記憶が呼び起こされた。
「痰は絡むか?」
「咳と同じで時々、ですね」
「微熱や倦怠感は?」
「う~ん……あまり気にしてませんが、時にはあるかも?」
ドキリと心臓が跳ねる。この問診は……嫌という程聞かされたこの症状は……。
「そうか。とりあえずお前さんは様子見だな。風邪が長引いてるみてぇだし、暫く安静にしておけよ」
「ええ~? 私は元気ですよ?」
「念の為聞くが、食欲、性欲、睡眠欲。全てあるか?」
「もちろん! 有り余る程に!」
「……まずは体を休めろ。以上だ!」
「何なんですか、もう」と不満を言いながら、沖田さんが席を立つ。すると松本先生も徐に立ち上がり、「少し休憩を挟む。残りの隊士は四半刻後にまた来てくれ。山崎、着いて来い!」と強引に診察を辞め、大広間を出て行った。
着いた先は、一時的に準備した松本先生用の部屋。その部屋に入るなり、松本先生は上半身を晒した。
「松本先生?」
突然の事に驚くと、勢いよく投げ渡されたのは聴診器。
「さっきの沖田の肺の音、覚えているな? 俺のと比べてみろ。すぐにだ!」
その剣幕に押され、慌てて耳を当てる。するとその音は……。
「違う……?」
微かではあるが、聞こえてくるのは先ほどとは違う音だった。何度聴き直しても、違いはハッキリと分かる。
「俺は間違いなく健康体だ。……お前さんならこれの意味が分かるんじゃねぇか? さっきの問診で気付いたんだろう」
松本先生の目を見て、不安は確信に変わった。
「労咳、ですか」
「ああ、未だ初期のようだが間違いねぇな。人前では我慢しているようだが、多分隠れて咳も続いてるぜ」
「そ……んな……」
信じたくなかった。沖田さんが労咳だなんて。
あんなに元気そうなのに……どうして!!
「あの苦しみを、沖田さんはこれから味わわなきゃいけないんですか……?」
「お前さんひょっとして……?」
私の言葉の意味に気付いたのだろう。松本先生が、私の顔を覗き込んだ。
「ええ、私も労咳でした」
それは、思い出したく無い過去。何度も血を見て、苦しみ、死を覚悟した。それでも必死に足掻き、私は生き延びたのだ。
――大切な命を踏み台にして。
「そうか……」
何故かポンポンと頭を叩かれる。訝しげに松本先生を見ると、とても困っているような顔をしていた。
「俺は病気や怪我なら何とかできるが、心を癒す方法は知らねぇからな」
「え……?」
「土方!どうせそこにいるんだろ?」
ガラリと開けられた襖の向こうには、その言葉通り副長がいた。あの顔は……怒ってる?
「大方俺がこいつを連れ込んだって聞いて、慌てて来たんだろうが、手なんか出しゃしねぇよ」
「違いますよ。報告に来ただけですから」
ムスッとした表情の副長を面白そうに見ていた松本先生だったが、その報告の内容を聞くと、態度が一変した。
「すげぇな、お前さん……」
診察を始めてから一刻程だが、その間に副長は病室を作って病人を一箇所に集め、風呂を整えていたらしい。
「流石に豚を直ぐに用意は出来ませんでしたが、手配はしてあります」
「全部一人でやっちまったってか?」
「兵は拙速を尊ぶと申しますから」
そう言ってニヤリと笑った土方さんに舌を巻いた松本先生は、膝をポンと叩く。
「新選組ってのは、面白い奴が揃ってやがる。気に入った! こうなりゃ徹底的に病人を洗い出して治療してやるぜ。今後も何かあったら頼れ。俺がいない時は、腕の良い弟子をよこしてやるさ」
満面の笑みを浮かべた松本先生が、副長の肩に腕を回す。
「お前さん達の行く末、見せてもらうぜ。だが先ずは今日の診察だ。そろそろ俺は戻るが、ちっとばかし助手に疲れが見えやがる。あんまし時間はやれねぇが、俺を手伝えるまでに回復させてやってくれ。お前さんなら……」
「……」
「……勿論ですよ」
最後は副長の耳元で囁くように言った為聞き取れなかったが、それに答えた副長の顔は誇らしげだった。
「さっさと仕事に戻れよ!」と言い残し、松本先生は部屋を出て行った。
「勢いのある方ですね」
「御典医ってのは、知力体力全てを兼ね備えてなきゃダメなんだろ」
「あの方は有り余ってそうですね」
顔を見合わせくすりと笑う。そのまま私達は、当たり前のように唇を重ねた。
「言いたい事は分かっているな」
「はい」
「……行けるな?」
「勿論です」
先程の話は聞こえていたはずだ。今何も聞こうとしないのは、この人の優しさ。そして、信頼の証。それなら私も期待に応えねばなるまい。
「今夜は外泊許可を与える。それまでは山崎烝として存分に働いて来い」
「承知」
もう一度優しい口付けをすると、副長は私の肩を押して「行け!」と送り出してくれた。
そのまま急いで大広間に戻ると、相変わらずの賑やかさで。殺気立つ松本先生に慌てて駆け寄ると、何事も無かったように再びこき使われる事となった。
全ての隊士を診察した結果は、惨憺たるものだった。隊士百七十数名に対し、病人の数七十名以上。
最も多かったのは感冒(風邪)で、続いて食傷(食あたり)、梅毒の順となり。最も重篤だったのは沖田さんの労咳と、心臓病。
「ここは病の吹き溜まりか!」
この結果には松本先生も流石に呆れ、げんなりした表情で帰っていった。だが次の日以降松本先生は、最も信頼しているという弟子の南部精一を往診に通わせ、自身も暇があれば病人の治療や新たな怪我人の手当てに尽力してくれたのだ。お陰でその後、屯所内で寝込む隊士の数は格段に減ったのである。
ちなみに沖田さんの労咳については、副長の判断により暫くは本人にも伏せることになった。知っているのは松本先生と副長、そして私の三人だけ。出来ればこのまま本人も気付く事無く治って欲しい。それが叶わぬモノとは分かっていても、そう願わずにはいられなかった。
健康診断当日の夜。
副長から外泊許可をもらっていた私は、例の如く隠れ家に来ていた。
布団に体を投げ出し考えるのは、今日一日の出来事だ。
未だ烝さんが生きていた頃、鍼医の助手としては働いていたが、こんなに殺人的な忙しさは経験した事が無く。必死に食らいついていた為、流石にクタクタだ。
そのお陰で松本先生には認められ、「今後は新選組の医者を名乗っちまえ」とお墨付きを頂いた。これは素直に嬉しい。でも……。
「医者……か……」
自らが名乗れば、誰でもなれてしまう医者という職業。だからこそ信用は軽く、責任は重い。
頭に浮かぶのは、労咳の彼。
「今度こそ、助けられる?」
膝を抱え、自分に問いかけた。
「本当に、私に出来る?」
答えは出ない。
だが私は迷ってなどいられない事を知っている。未だ症状の軽い内に動かねば、確実に終焉の時は駆け足で訪れるのだから。
日を追うごとに自由の利かなくなる体。咳が続けば体力は奪われ、肺の痛みを伴う。あの苦しみを知っているからこそ、私は……。
「抗ってみよう。できる限り」
その日から私は、日記を付ける事にした。内容は、沖田さんについての病状や、『私達』に行われた労咳の治療法を思い出せる限り書き写していく。私がいない時に変化があっても、誰かしらが対処出来るように。
ついでにもう一冊、隊内の出来事や覚え書きの物も作っておくとしよう。
『取調日記』としておけば、何かしらの役には立つかもしれない。そんな事を考えながら、私は筆を取るのだった。
「ほう、お前さんがあの噂の沖田か」
「何ですか? 噂って。嫌だなぁ……」
「別に悪い噂じゃねぇよ。近藤さんがいつも褒めてるからな」
「本当ですか? 嬉しいなぁ」
和やかに会話をしながら診察は続く。
基本的に診察はまず『問診』から入り、既往症や、何か自覚症状が無いかを確認。
次に『触診』で患者の肌に触れ、『望診』で顔色や目、唇、舌などを診る。
そして最後は『聞診』で、聴診器を使って呼吸音を聞いたり、体臭で体調を判断した。ところがその『聞診』で、松本先生に小さな変化があった。今までの診察に比べ、やけに聴診器に耳を当てている時間が長い。しかも、だ。
「おい、山崎。せっかくだからお前も肺の音を聞いておけ」と言われたのだ。
「よろしいのですか?」
「あぁ、今までの手伝う姿を見ていても、お前さんはそれなりにできそうだからな。色々と医術を教えておいてやる。まずは初めに診察の仕方から体に叩き込んでおけ。沖田なら少々何かあっても大丈夫だろうしな」
「いや、ちょっと待って下さいよ。私はお試し患者か何かですか?」
「気にすんな。とりあえず聞いとけ」
「では、失礼します」
有無を言わせず耳を当てる。初めて聞く聴診器越しの肺の音はとても不思議で、人体の神秘を感じた。
「その音、しっかり覚えておけよ」
「はい」
こちらで勝手に話を進められて少々拗ね気味の沖田さんだったが、松本先生はそんな事などおかまいなしに尋ねる。
「沖田、最近咳が出たりはしてねぇか?」
「そう言えば、時々出ますね。大したことはありませんが。軽い風邪かと思ってました」
「そうか……山崎は気付いてたか?」
「……確か二か月くらい前、時々咳をされてましたよね。ここ最近顔を合わせる機会が無かったため、その後の変化は分かりませんが……」
それが何か? と二人で松本先生を見ると、神妙な顔で考え込んでいる。その時ふと、忘れていた記憶が呼び起こされた。
「痰は絡むか?」
「咳と同じで時々、ですね」
「微熱や倦怠感は?」
「う~ん……あまり気にしてませんが、時にはあるかも?」
ドキリと心臓が跳ねる。この問診は……嫌という程聞かされたこの症状は……。
「そうか。とりあえずお前さんは様子見だな。風邪が長引いてるみてぇだし、暫く安静にしておけよ」
「ええ~? 私は元気ですよ?」
「念の為聞くが、食欲、性欲、睡眠欲。全てあるか?」
「もちろん! 有り余る程に!」
「……まずは体を休めろ。以上だ!」
「何なんですか、もう」と不満を言いながら、沖田さんが席を立つ。すると松本先生も徐に立ち上がり、「少し休憩を挟む。残りの隊士は四半刻後にまた来てくれ。山崎、着いて来い!」と強引に診察を辞め、大広間を出て行った。
着いた先は、一時的に準備した松本先生用の部屋。その部屋に入るなり、松本先生は上半身を晒した。
「松本先生?」
突然の事に驚くと、勢いよく投げ渡されたのは聴診器。
「さっきの沖田の肺の音、覚えているな? 俺のと比べてみろ。すぐにだ!」
その剣幕に押され、慌てて耳を当てる。するとその音は……。
「違う……?」
微かではあるが、聞こえてくるのは先ほどとは違う音だった。何度聴き直しても、違いはハッキリと分かる。
「俺は間違いなく健康体だ。……お前さんならこれの意味が分かるんじゃねぇか? さっきの問診で気付いたんだろう」
松本先生の目を見て、不安は確信に変わった。
「労咳、ですか」
「ああ、未だ初期のようだが間違いねぇな。人前では我慢しているようだが、多分隠れて咳も続いてるぜ」
「そ……んな……」
信じたくなかった。沖田さんが労咳だなんて。
あんなに元気そうなのに……どうして!!
「あの苦しみを、沖田さんはこれから味わわなきゃいけないんですか……?」
「お前さんひょっとして……?」
私の言葉の意味に気付いたのだろう。松本先生が、私の顔を覗き込んだ。
「ええ、私も労咳でした」
それは、思い出したく無い過去。何度も血を見て、苦しみ、死を覚悟した。それでも必死に足掻き、私は生き延びたのだ。
――大切な命を踏み台にして。
「そうか……」
何故かポンポンと頭を叩かれる。訝しげに松本先生を見ると、とても困っているような顔をしていた。
「俺は病気や怪我なら何とかできるが、心を癒す方法は知らねぇからな」
「え……?」
「土方!どうせそこにいるんだろ?」
ガラリと開けられた襖の向こうには、その言葉通り副長がいた。あの顔は……怒ってる?
「大方俺がこいつを連れ込んだって聞いて、慌てて来たんだろうが、手なんか出しゃしねぇよ」
「違いますよ。報告に来ただけですから」
ムスッとした表情の副長を面白そうに見ていた松本先生だったが、その報告の内容を聞くと、態度が一変した。
「すげぇな、お前さん……」
診察を始めてから一刻程だが、その間に副長は病室を作って病人を一箇所に集め、風呂を整えていたらしい。
「流石に豚を直ぐに用意は出来ませんでしたが、手配はしてあります」
「全部一人でやっちまったってか?」
「兵は拙速を尊ぶと申しますから」
そう言ってニヤリと笑った土方さんに舌を巻いた松本先生は、膝をポンと叩く。
「新選組ってのは、面白い奴が揃ってやがる。気に入った! こうなりゃ徹底的に病人を洗い出して治療してやるぜ。今後も何かあったら頼れ。俺がいない時は、腕の良い弟子をよこしてやるさ」
満面の笑みを浮かべた松本先生が、副長の肩に腕を回す。
「お前さん達の行く末、見せてもらうぜ。だが先ずは今日の診察だ。そろそろ俺は戻るが、ちっとばかし助手に疲れが見えやがる。あんまし時間はやれねぇが、俺を手伝えるまでに回復させてやってくれ。お前さんなら……」
「……」
「……勿論ですよ」
最後は副長の耳元で囁くように言った為聞き取れなかったが、それに答えた副長の顔は誇らしげだった。
「さっさと仕事に戻れよ!」と言い残し、松本先生は部屋を出て行った。
「勢いのある方ですね」
「御典医ってのは、知力体力全てを兼ね備えてなきゃダメなんだろ」
「あの方は有り余ってそうですね」
顔を見合わせくすりと笑う。そのまま私達は、当たり前のように唇を重ねた。
「言いたい事は分かっているな」
「はい」
「……行けるな?」
「勿論です」
先程の話は聞こえていたはずだ。今何も聞こうとしないのは、この人の優しさ。そして、信頼の証。それなら私も期待に応えねばなるまい。
「今夜は外泊許可を与える。それまでは山崎烝として存分に働いて来い」
「承知」
もう一度優しい口付けをすると、副長は私の肩を押して「行け!」と送り出してくれた。
そのまま急いで大広間に戻ると、相変わらずの賑やかさで。殺気立つ松本先生に慌てて駆け寄ると、何事も無かったように再びこき使われる事となった。
全ての隊士を診察した結果は、惨憺たるものだった。隊士百七十数名に対し、病人の数七十名以上。
最も多かったのは感冒(風邪)で、続いて食傷(食あたり)、梅毒の順となり。最も重篤だったのは沖田さんの労咳と、心臓病。
「ここは病の吹き溜まりか!」
この結果には松本先生も流石に呆れ、げんなりした表情で帰っていった。だが次の日以降松本先生は、最も信頼しているという弟子の南部精一を往診に通わせ、自身も暇があれば病人の治療や新たな怪我人の手当てに尽力してくれたのだ。お陰でその後、屯所内で寝込む隊士の数は格段に減ったのである。
ちなみに沖田さんの労咳については、副長の判断により暫くは本人にも伏せることになった。知っているのは松本先生と副長、そして私の三人だけ。出来ればこのまま本人も気付く事無く治って欲しい。それが叶わぬモノとは分かっていても、そう願わずにはいられなかった。
健康診断当日の夜。
副長から外泊許可をもらっていた私は、例の如く隠れ家に来ていた。
布団に体を投げ出し考えるのは、今日一日の出来事だ。
未だ烝さんが生きていた頃、鍼医の助手としては働いていたが、こんなに殺人的な忙しさは経験した事が無く。必死に食らいついていた為、流石にクタクタだ。
そのお陰で松本先生には認められ、「今後は新選組の医者を名乗っちまえ」とお墨付きを頂いた。これは素直に嬉しい。でも……。
「医者……か……」
自らが名乗れば、誰でもなれてしまう医者という職業。だからこそ信用は軽く、責任は重い。
頭に浮かぶのは、労咳の彼。
「今度こそ、助けられる?」
膝を抱え、自分に問いかけた。
「本当に、私に出来る?」
答えは出ない。
だが私は迷ってなどいられない事を知っている。未だ症状の軽い内に動かねば、確実に終焉の時は駆け足で訪れるのだから。
日を追うごとに自由の利かなくなる体。咳が続けば体力は奪われ、肺の痛みを伴う。あの苦しみを知っているからこそ、私は……。
「抗ってみよう。できる限り」
その日から私は、日記を付ける事にした。内容は、沖田さんについての病状や、『私達』に行われた労咳の治療法を思い出せる限り書き写していく。私がいない時に変化があっても、誰かしらが対処出来るように。
ついでにもう一冊、隊内の出来事や覚え書きの物も作っておくとしよう。
『取調日記』としておけば、何かしらの役には立つかもしれない。そんな事を考えながら、私は筆を取るのだった。