時の泡沫2
「そう言えば……ここは何処なんだ?」
ふと気が付き、手当をしながら井上くんに聞いた。
「大坂城です。山崎さん含め負傷者と私達は、船で先にここまで来ました。局長代理達も後程合流するはずです」
「そう、か……」
どうやら私は気絶している間に、ここに運び込まれたようだ。ならば尚の事、皆が到着するまでに手当を進めておきたい。
「あの……山崎さんの傷は……?」
「ん?」
井上くんが、心配そうに私を見ながら言った。
「さっきは大丈夫だと言われてましたけど、それ……」
彼が指し示したのは、私の着物に付いたシミ。皆が揃いで黒を着ている為分かりにくいかと思っていたが、いつの間にか腰紐が、傷の在り処を伝えるかのように赤く染まっていた。しかも、その範囲は今も少しずつ広がっている。どうやら一度塞がりかけていた傷が、また開いてしまったようだ。
「やっぱり山崎さんは休んでいて下さい。貴方に無理をされると、原田組長に叱られます」
「大丈夫だよ。皆が傷を受けて苦しんでる今、私も出来る事をしなければ」
「ダメです! せめて血が完全に止まってからにして下さい!」
井上くんが、必死に私を止めようとする。だが、私は諦めなかった。
「心配してくれるのはありがたいが、今ここで出来る限りの事をやっておかねば、悔いが残るからね。原田さんには私がきちんと話を付けるから……」
そう言った時。ふと、咳が聞こえたような気がして口を噤んだ。まさかと思い、そちらを見るとそこには……。
「沖田さん!」
以前よりも更に青白く、痩せてしまってはいるが、紛う方無き沖田総司がそこにいた。
「ダメですよ、山崎さん。我儘言っちゃ。泰助君が困ってるじゃないですか」
「ですが、今私が動かないと……」
「確かに貴方の腕は必要ですが、これから先も貴方がいてくれないと困るんです。今だけでなく先も考えて下さい。というわけで泰助君、山崎さんを寝かせて下さいね」
「はい!」
井上くんが、意気揚々と沖田さんの指示に従う。私は抗おうとしたが、何故か周りの者達まで一緒になって私を寝かせようとする為、言う事を聞くしかなかった。
「皆、貴方を心配してるんですよ。……今自分がどんな顔をしているか、気付いてないでしょう」
そう言うと、何故か沖田さんは懐から手鏡を出してきた。どこかで拾ってきたらしい、端の欠けている手鏡を渡され、自分の顔を見てみると――沖田さんより更に色を失った自分が映っていた。
「そんな顔色の医者に診られても、誰も嬉しくありませんからね。まずは自分を治してください」
「……分かりましたよ」
これは、観念するしかないか。私はため息を吐くと、おとなしく横になった。
「先ほど教えて頂いた処置だけでも頑張ります。体が楽になったらまた教えて下さい」
井上くんが鼻を膨らませながら力強く言うのを見て、笑いながら私は頷く。そして目を瞑った直後、自分でも驚くほどの眠気に襲われて――。
同時に引き裂かれんばかりの痛みを感じ、耐えられなくなった私はそのまま意識を失ったのだった。
ふと気が付き、手当をしながら井上くんに聞いた。
「大坂城です。山崎さん含め負傷者と私達は、船で先にここまで来ました。局長代理達も後程合流するはずです」
「そう、か……」
どうやら私は気絶している間に、ここに運び込まれたようだ。ならば尚の事、皆が到着するまでに手当を進めておきたい。
「あの……山崎さんの傷は……?」
「ん?」
井上くんが、心配そうに私を見ながら言った。
「さっきは大丈夫だと言われてましたけど、それ……」
彼が指し示したのは、私の着物に付いたシミ。皆が揃いで黒を着ている為分かりにくいかと思っていたが、いつの間にか腰紐が、傷の在り処を伝えるかのように赤く染まっていた。しかも、その範囲は今も少しずつ広がっている。どうやら一度塞がりかけていた傷が、また開いてしまったようだ。
「やっぱり山崎さんは休んでいて下さい。貴方に無理をされると、原田組長に叱られます」
「大丈夫だよ。皆が傷を受けて苦しんでる今、私も出来る事をしなければ」
「ダメです! せめて血が完全に止まってからにして下さい!」
井上くんが、必死に私を止めようとする。だが、私は諦めなかった。
「心配してくれるのはありがたいが、今ここで出来る限りの事をやっておかねば、悔いが残るからね。原田さんには私がきちんと話を付けるから……」
そう言った時。ふと、咳が聞こえたような気がして口を噤んだ。まさかと思い、そちらを見るとそこには……。
「沖田さん!」
以前よりも更に青白く、痩せてしまってはいるが、紛う方無き沖田総司がそこにいた。
「ダメですよ、山崎さん。我儘言っちゃ。泰助君が困ってるじゃないですか」
「ですが、今私が動かないと……」
「確かに貴方の腕は必要ですが、これから先も貴方がいてくれないと困るんです。今だけでなく先も考えて下さい。というわけで泰助君、山崎さんを寝かせて下さいね」
「はい!」
井上くんが、意気揚々と沖田さんの指示に従う。私は抗おうとしたが、何故か周りの者達まで一緒になって私を寝かせようとする為、言う事を聞くしかなかった。
「皆、貴方を心配してるんですよ。……今自分がどんな顔をしているか、気付いてないでしょう」
そう言うと、何故か沖田さんは懐から手鏡を出してきた。どこかで拾ってきたらしい、端の欠けている手鏡を渡され、自分の顔を見てみると――沖田さんより更に色を失った自分が映っていた。
「そんな顔色の医者に診られても、誰も嬉しくありませんからね。まずは自分を治してください」
「……分かりましたよ」
これは、観念するしかないか。私はため息を吐くと、おとなしく横になった。
「先ほど教えて頂いた処置だけでも頑張ります。体が楽になったらまた教えて下さい」
井上くんが鼻を膨らませながら力強く言うのを見て、笑いながら私は頷く。そして目を瞑った直後、自分でも驚くほどの眠気に襲われて――。
同時に引き裂かれんばかりの痛みを感じ、耐えられなくなった私はそのまま意識を失ったのだった。