時の泡沫2
翌四日。再び始まった戦いに、新選組は善戦する。
飛び交う銃弾をものともせず勇敢に戦う事で、旧幕軍の他藩の者たちをも鼓舞し、一時は有利な状況になり始めたかのように見えた。
だが、実はあちこちで綻びは見え始めており、一時はこの戦に関わりを持たぬと言っていた土佐藩が新政府軍に加わり、旧幕軍のいくつかの藩は、戦いを放棄した。
そして更に大きな衝撃を受ける出来事が起こる。
「錦旗……だと!?」
戦いの最中、新政府軍が掲げた『錦の御旗』に、旧幕軍は動揺した。
錦旗を持つという事は、すなわち朝廷より官軍と認められた証となる。よってこの瞬間から、旧幕軍は賊軍扱いとなるわけだ。
だが、どこからも朝廷が新政府軍を官軍としたという情報は入っていなかった。
「あれはきっと、新政府軍が我々を牽制する為に作った偽物だと思われます。」
動揺する局長代理を初めとする上官達に進言はしたものの、果たしてそれが信じられるかどうか……それ程までに錦旗の威力は絶大だった。
実際その効果は、すぐに現れる。
時間と共に、旧幕軍を打ち破った新政府軍が援軍として集結し始め、優勢だった我々の陣形を崩し始めた。仕方なくこの場は後退し、改めて陣形を立て直そうと言う事になったのだが――。
拠点となるはずだった淀城への入城を拒否される。
「今朝まで共に戦おうと言ってたってのに、何でだよ!」
皆が口々に叫ぶが、門が開かれることは無く。表で皆が騒ぐ中、私も密かに裏手に回って交渉を試みたのだが、夕べ知り合ったばかりの淀藩の者から塀越しに聞かされたのは、
「我が藩主は淀藩を守るため、貴公らを見捨てる形を選んだ。この戦況を見る限り錦旗の事もあって、旧幕軍に勝ち目は無いと踏んでいる藩は増えている。すまない……」
という現実。
だが私がそれを伝えたところ、局長代理は「ふざけるな! 未だ俺達は戦える!」と激昂する。
ああ、この人はどんな苦境に立っていても決して諦めない強さを持っているんだ、と頼もしく思い、私も大きく頷くのだった。
淀城を追われた我々は、その夜千両松に陣を構える事となる。
敵に錦旗を見せつけられ、仲間であったはずの旧幕軍に見捨てられ。更には凍えるような寒さの中での野営という事で、皆の中には大きな衝撃と失望感があった。
そんな旧幕軍の者達をいかにして動かすか。それはなかなかまとまる事無く、翌朝を迎える。
五日朝。千両松の戦いの火ぶたは切って落とされた。
心の折れかかっている者達を鼓舞するためにも、と、新選組は真っ先に斬り込む。誠の旗と、乱れ飛ぶ銃弾の中を物ともせず突っ込んでくる新選組の者達に、新政府軍は圧倒され押され気味だった。それを見た旧幕軍の者達は勢い付き、少しずつ敵を倒していく。
だがそれも長くは続かなかった。敵の援兵が次々と合流し、前方だけでなく側面からも攻撃を開始し始めたのだ。後方しか逃げ場のなくなった我々は、じりじりと後退するしかなくなっていく。
一人、また一人と逃げる者が増え始めると、ますます相手の攻撃は激しくなってきた。
「ひるむな! 進め!」
局長代理が叫ぶも、次々と飛んでくる銃弾と、更に数の増えた大砲から逃げ惑う者達がその言葉に従う筈も無く。気が付けば、周りにいるのはほぼ新選組の者だけとなっていた。
飛び交う銃弾をものともせず勇敢に戦う事で、旧幕軍の他藩の者たちをも鼓舞し、一時は有利な状況になり始めたかのように見えた。
だが、実はあちこちで綻びは見え始めており、一時はこの戦に関わりを持たぬと言っていた土佐藩が新政府軍に加わり、旧幕軍のいくつかの藩は、戦いを放棄した。
そして更に大きな衝撃を受ける出来事が起こる。
「錦旗……だと!?」
戦いの最中、新政府軍が掲げた『錦の御旗』に、旧幕軍は動揺した。
錦旗を持つという事は、すなわち朝廷より官軍と認められた証となる。よってこの瞬間から、旧幕軍は賊軍扱いとなるわけだ。
だが、どこからも朝廷が新政府軍を官軍としたという情報は入っていなかった。
「あれはきっと、新政府軍が我々を牽制する為に作った偽物だと思われます。」
動揺する局長代理を初めとする上官達に進言はしたものの、果たしてそれが信じられるかどうか……それ程までに錦旗の威力は絶大だった。
実際その効果は、すぐに現れる。
時間と共に、旧幕軍を打ち破った新政府軍が援軍として集結し始め、優勢だった我々の陣形を崩し始めた。仕方なくこの場は後退し、改めて陣形を立て直そうと言う事になったのだが――。
拠点となるはずだった淀城への入城を拒否される。
「今朝まで共に戦おうと言ってたってのに、何でだよ!」
皆が口々に叫ぶが、門が開かれることは無く。表で皆が騒ぐ中、私も密かに裏手に回って交渉を試みたのだが、夕べ知り合ったばかりの淀藩の者から塀越しに聞かされたのは、
「我が藩主は淀藩を守るため、貴公らを見捨てる形を選んだ。この戦況を見る限り錦旗の事もあって、旧幕軍に勝ち目は無いと踏んでいる藩は増えている。すまない……」
という現実。
だが私がそれを伝えたところ、局長代理は「ふざけるな! 未だ俺達は戦える!」と激昂する。
ああ、この人はどんな苦境に立っていても決して諦めない強さを持っているんだ、と頼もしく思い、私も大きく頷くのだった。
淀城を追われた我々は、その夜千両松に陣を構える事となる。
敵に錦旗を見せつけられ、仲間であったはずの旧幕軍に見捨てられ。更には凍えるような寒さの中での野営という事で、皆の中には大きな衝撃と失望感があった。
そんな旧幕軍の者達をいかにして動かすか。それはなかなかまとまる事無く、翌朝を迎える。
五日朝。千両松の戦いの火ぶたは切って落とされた。
心の折れかかっている者達を鼓舞するためにも、と、新選組は真っ先に斬り込む。誠の旗と、乱れ飛ぶ銃弾の中を物ともせず突っ込んでくる新選組の者達に、新政府軍は圧倒され押され気味だった。それを見た旧幕軍の者達は勢い付き、少しずつ敵を倒していく。
だがそれも長くは続かなかった。敵の援兵が次々と合流し、前方だけでなく側面からも攻撃を開始し始めたのだ。後方しか逃げ場のなくなった我々は、じりじりと後退するしかなくなっていく。
一人、また一人と逃げる者が増え始めると、ますます相手の攻撃は激しくなってきた。
「ひるむな! 進め!」
局長代理が叫ぶも、次々と飛んでくる銃弾と、更に数の増えた大砲から逃げ惑う者達がその言葉に従う筈も無く。気が付けば、周りにいるのはほぼ新選組の者だけとなっていた。