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時の泡沫

 十一月十九日の京の朝は、恐怖と怨嗟で始まった。

「いやあ、これ新選組の仕業やて」
「こない惨い姿で捨て置くなんて、鬼の所業や」
「伊東はんも藤堂はんもええ方やったのに……むしろ新選組がこないなるべきやったんや」
「あんなん幕臣言うたかて、所詮は血に飢えた狼藉者の集まりや」

 予想はしていたが、それの更に上を行く罵詈雑言はやはり堪える物がある。村山さんの遺体を引き取りに行く際、状況確認も兼ねて七条油小路を抜けて行ったのは失敗だったかもしれない。町の者達の白い目線は、引き連れた平隊士達を委縮させてしまっていた。

「……気にするな」

 一緒に来てくれていた山口さんの言葉に頷きはしたものの、あの突き刺すような数多の視線は暫く忘れられそうにない。
 四面楚歌。
 そんな言葉が頭に浮かんでしまう程に、京の町には新選組の居場所など無いのだと思わずにはいられなかった。

 村山さんの遺体は、新選組の評判が地に落ちてしまっている事もあり、受け入れてくれる寺がなかなか見つからず。最終的に八木さんを拝み倒して、縁故の寺に埋葬する手筈となった。

 そして夕刻には、会津藩より伊東さん達を埋葬せよとの命と共に、葬料として二十両を賜る。これにはさすがの副長も逆らえず、その日の内に遺体は引き取られ、山口さんの差配により光縁寺へと埋葬される事となった。

 やがて葬儀を終え、ようやく肩の荷が一つ降りた事にほっとした私は、半日ではあるが非番をもらって隠れ家に来ていた。この数日は寝る間を惜しんで走り回っていたため、さすがに体にガタがきている。一刻でも良いから、熟睡しておきたかった。
 布団に体を投げ出し、ここ数日の事を振り返る。

「人間ってのは、ほんまに呆気なく死んでまう生き物なんやな……」

 昨日まで生きていた人が、今日はもういない。この動乱の渦中で、それが当たり前な場所にいるのは分かっている。だが何度も人の死を見てきているはずなのに、やはり改めて目の当たりにすると怖くなった。

「うちも、あない突然命を失う事になるんやろか」

 広島で命からがら逃げ惑った記憶も重なり、その恐怖は増幅されていく。さすがにこのままではまずいと思い、その恐怖を打ち消さんと私は自らに問うた。



「怖いのは、何故?」

 ――死にたくないから。

「死にたくないのは、何故?」

 ――生きたいから。

「生きたいのは、何故?」

 ――大切な人がいるから。



「大丈夫、大丈夫や」

 自らに言い聞かせる。

「うちは未だ死なん。あの人がいる限り、共に戦える」

 きっと、大丈夫。何度も何度も心でその言葉を唱えている内に、いつしか私は深い眠りに落ちていた。
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