シガレット・キス(銀土)

「なァ、俺にもタバコくんねェ?」

 茶屋で一服していると、偶然通りかかった万事屋にねだられた。

「別に構わねェが……お前ってタバコ吸ってたか?」

 甘いものばかり口にしているイメージが強くて、不思議に思った俺が尋ねる。だが答えの代わりに差し出されたのは、手。さっさと寄越せとばかりにヒラヒラと動かし、俺を急かした。
 そんなに欲しいのなら、と一本渡せば、早速タバコを咥える万事屋。
 その動きを見て、火を点けてやろうと思った俺は、懐からマヨライターを取り出そうとした。ところが万事屋は俺の手を押さえ、「ん」とタバコを突き出してくる。
 
「何がしてェんだ?」

 吸うつもりはないのだろうか。それとも単に俺をからかってるのか? わけが分からない俺は、考えを読み取ろうと万事屋の目を見る。するとーー。

「……そういう事か」

 向けられている期待の眼差しに応えるべく、俺は自分の咥えていたタバコの先を万事屋に向けた。そこに万事屋のタバコが触れる。少し強めに息を吸うと、俺のタバコの火が大きくなった。同じく万事屋が息を吸えば、ゆっくりと火が移っていく。

「……満足か?」

 完全に火が移ったことを確認し、煙を吐き出した俺が言うと、ニヤリと笑う万事屋。

「もちろん大満足。なーんか大人のキスって感じで良いよなァ」
「ハァ!?」

 理解不能な言葉に俺が戸惑いを見せれば、万事屋は言った。

「銀さん、前からずっとやってみたかったんだわ。お前の大好きなタバコで、大好きなお前とのキスってやつ」
「バッ……」

 カじゃねェのか? と言ってやりたかったが、その顔があまりにも嬉しそうで、何も言えなくなってしまう。すると更に笑みを深めた万事屋は、たった今火を点けたばかりのタバコを、灰皿に押し付けた。

「お気に召さねェみてーだな。やっぱ副長さんは真面目で一途だから、タバコはタバコ、キスは……」

 一瞬で取り上げられたタバコの代わりに触れたのは、万事屋の唇。それはタバコの火よりも熱くて甘く、俺の心を蕩かせる。

「キスだけの方がお好みってか?」

 そう言って勝ち誇ったような笑顔を見せる万事屋に、反論できるはずもなく。俺はただ小さく頷くと、万事屋から与えられるであろう次の熱を期待して、そっと目を瞑った。

〜了〜
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