キスなんてできない(銀土)

 キスは、しない。
 例えどんなに深く体を繋げようとも、キスだけはしないと心に決めていた。

 何度目かの精を放ち、ぐったりとベッドに横たわった俺の呼吸がようやく落ち着いた頃。既に土方は夢の中にいた。疲れ切って深い眠りに落ちたその体は、無防備に肌を晒している。

「さすがの副長様もお疲れのようで」

 体が冷え始めているのだろう。小さくフルリと震えた体に布団をかけてやると、意識の無いままに少しだけ口角を上げた。

「ガキみてェ」

 クスリと溢れた笑みと共にベッドを抜け出した俺は、風呂場に向かう。熱いシャワーを浴びてふと見た鏡には、胸元にひとつだけ赤い痣のある俺が映っていた。

「……んっとにガキだな」

 ーーこんな事をしたって俺は、お前のものにゃなんねーよ。

 初めから言っていたはずだ。これはお互いの体を使った自慰行為だと。
 だからこそ俺は、決してお前と唇を重ねない。ただ快楽だけを求め、放つだけの関係。
 それなのにーー。

『……やっぱダメ、か』

 消え入りそうに小さな声で言ったお前の顔は、泣きそうだった。その直後にチリ、と胸元に走った痛みの原因はきっとこの、悲しい程に鮮やかな紅。

「ダメに決まってんだろーが」

 お前がキスをねだってる事には気付いてる。
 だが俺は決してキスはしない。

 ーーできねェんだよ。

「これが、最後の砦だ」

 キスなんざしちまったら、俺の想いが伝わっちまうだろうが。俺がどれだけお前を好きかなんて、知られてたまっかよ。

 胸元の痣をそっと指でなぞる。その指に口付けた鏡の中の俺は、さっき見た土方のように泣きそうな顔をしていた。

〜了〜
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