忘れられぬ日に(沖神)

 お菓子を買い終え、店から出てきた2人の手には、大きな袋が握られている。結局全てを沖田が支払い、しかも予定外のお菓子まで追加してホクホクの神楽が嬉しそうに橋の欄干を歩く姿を、少し後ろから歩いている沖田は優しい眼差しで見つめていた。

「おい、サド!」

 不意に振り向いて沖田を呼んだ神楽に、その表情を見る事は出来ない。目が合った瞬間にはもう、沖田の顔はいつものふてぶてしい物に戻っていた。

「なんでェ、チャイナ」
「お前の誕生日って、いつアルか?」
「七月八日」
「……もう過ぎてたアルな」
「何だよ。祝ってくれるつもりだったってか?」

 ニヤニヤと探るように聞いてくる沖田に、神楽の顔がカァッと赤く染まる。

「べ、別に! こうしてお祝いを買ってもらったから、少しだけ悪いなと思ってその……一応聞いてみただけネ!」
「へェ……一応、ねェ……」

 そう言った沖田はトンッと軽やかに地を蹴ると、神楽の乗っている欄干に自らも飛び乗った。そして正面から神楽の顔を覗き込む。

「な、何アルか?」

 明らかな動揺を見せる神楽に、沖田は言った。 

「チャイナの言う通り、確かに貰いっ放しってのはズルいよなァ。祝いのやり取りはお互い、年内に済ませておきたいもんだ」
「お互いって、もうお前の誕生日は終わってしまってるネ。時間は戻せないヨ。まぁ来年にはお前の誕生日なんて、忘れてしまってるだろうけどナ」
「そいつは困るな」
「ちょっ、サド!? 危ないから引っ張る……」
「神楽」
「……っ!」

 突如引き寄せられた腕の中で耳にしたのは、いつもは決して呼ばれない名。それを沖田が紡いだ事で、神楽は言葉を失った。しかもーー。

「一番高い菓子で忘れちまうってんなら、こっちならどうでェ?」

 優しく顎を固定する指が、神楽の意思を奪う。触れた唇は、ほんの一瞬だったにも関わらず、引かない熱を残した。

「ってなわけで、今年の俺へのプレゼントは、これで許してやるよ」

 余裕ぶって笑みを見せた沖田だったが、頬は赤く染まっている。
 
「……お前へのプレゼントの方が高いダロ。割に合わないネ」

 強がりを言いながらも、恥ずかしそうに頬を染めて自分を見上げる神楽は、いつもの喧嘩相手などではなく、儚げで愛らしい少女にしか見えない。
 初めて目にしたその顔に、こみ上げる感情を抑えきれなくなった沖田は、

「だったら追加してやろうか? 絶対忘れらんねェくらいの、最高のプレゼントって奴を……な」

と言うと、今度はゆっくりと神楽に唇を重ねた。

〜了〜
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