忘れられぬ日に(沖神)
その日、久しぶりの非番だった沖田が街をぶらついていると、駄菓子屋の前をうろついている神楽を見かけた。
店を覗き込んでは頭を抱え、ハッとしたように店内に飛び込んではがっくりとしながら外に出てくる。そんな神楽を暫くは面白おかしく見ていた沖田も、時間と共に落ち込みが激しくなっていく姿が気になったのか、声をかける事にした。
「さっきから何をしてんだ? 営業妨害のつもりなら、しょっ引いてやろうか」
沖田がわざと気配を消して近付くと、一瞬ビクリと肩を震わせる神楽。だがさすがと言うべきか、すぐにまたいつものペースで沖田に噛みついた。
「突然現れて喧嘩吹っ掛けて来んな、チンピラチワワ。今私は自分の人生の一年分をかけた大勝負に出ようとしてるネ。邪魔すんなヨ」
「はァ? また随分大仰なこって。だが人生をかけるには、ちと場所がおかしくねェか?」
「お前には関係無いダロ。誕生日のお祝いとして銀ちゃんから貰ったこのお小遣いで、いかに豪華なお菓子を買うか。この場所でしか掴めない大きな夢が、今目の前に広がってるネ。人生をかけるに値する、夢の空間アル」
「やっぱバカだな、お前は。……って言うか、誰の誕生日だって?」
この上なく真剣な表情で言う神楽に呆れ顔を見せた沖田だったが、ふと気付いて尋ねる。それに対して、今度は神楽が心底沖田をバカにした表情を見せた。
「お前の耳は飾り物かヨ。私に決まってるネ」
「そんなの初耳だぞ」
「言ってなかったからナ。大体何でお前に言う必要があるカ? とにかく今はお前とグダグダ話してる暇は無いアル。あちらを立てればこちらが立たず……取捨選択という言葉が、これ程までに残酷な物だったとは……っ!」
「何わけの分かんねェ事言ってんだよ。要するに欲しい物を全て買うには、金が足りねェって事だろ?」
「だからお前には関係ないアル。店に用が無いのなら、お前こそ営業妨害ネ。さっさとどこかに行くヨロシ」
心底迷惑そうに、あっちへ行けと手を振る神楽。だが沖田はその場を動こうとはせず、数秒ほど何かを考えたかと思うと、まっすぐに神楽を見つめて言った。
「……何が欲しいんだよ」
「はァ? いきなり何を言い出すネ」
「だから、お前が欲しい菓子ってのはどれだよ」
茶化しているのかと思えば、意外と真剣な顔をしていた為、
「えっと……これとこれと……これアル。でもこの大きいのだと、一つで全額使ってしまうから困ってるネ」
と素直に答える神楽。すると沖田から、思いがけない言葉が返ってきた。
「だったら俺がそれを買ってやろうか」
「……え?」
そんな事を言われるとはこれっぽっちも考えていなかった神楽は、驚きで目を見開く。だがそんな事などお構い無しに、沖田は平然と続けた。
「お前が欲しいモンの中で、それが一番高い奴なんだろ?」
「そうアルけど……何の気まぐれネ? 私に物を買い与えようなんて、どんな下心があるか分かったもんじゃないヨ」
「酷ェ言い草だな。誕生日だって聞いたから、気を使ってやろうと思ったってのに。だったらいらねェのな」
「おい、すぐに諦めんなヨ!……誕生日プレゼントってんなら、受け取ってやらなくも無いし……」
お菓子を買ってもらえるという、嬉しさを見せるのが恥ずかしいのか、見事なツンデレを見せる神楽。それを見て皮肉な笑みを浮かべた沖田は、
「顔を真っ赤にしながら言うセリフじゃねェな。ほら、買う商品全部カゴに入れろ」
と言って自ら店先に置かれたカゴを持ち、店の奥へと入って行く。
「あ、ちょっと待つネ!」
思いもよらぬ展開について行けず、慌てて沖田の後を追いかけた神楽だったが、その顔には隠しきれない喜びが浮かんでいた。
店を覗き込んでは頭を抱え、ハッとしたように店内に飛び込んではがっくりとしながら外に出てくる。そんな神楽を暫くは面白おかしく見ていた沖田も、時間と共に落ち込みが激しくなっていく姿が気になったのか、声をかける事にした。
「さっきから何をしてんだ? 営業妨害のつもりなら、しょっ引いてやろうか」
沖田がわざと気配を消して近付くと、一瞬ビクリと肩を震わせる神楽。だがさすがと言うべきか、すぐにまたいつものペースで沖田に噛みついた。
「突然現れて喧嘩吹っ掛けて来んな、チンピラチワワ。今私は自分の人生の一年分をかけた大勝負に出ようとしてるネ。邪魔すんなヨ」
「はァ? また随分大仰なこって。だが人生をかけるには、ちと場所がおかしくねェか?」
「お前には関係無いダロ。誕生日のお祝いとして銀ちゃんから貰ったこのお小遣いで、いかに豪華なお菓子を買うか。この場所でしか掴めない大きな夢が、今目の前に広がってるネ。人生をかけるに値する、夢の空間アル」
「やっぱバカだな、お前は。……って言うか、誰の誕生日だって?」
この上なく真剣な表情で言う神楽に呆れ顔を見せた沖田だったが、ふと気付いて尋ねる。それに対して、今度は神楽が心底沖田をバカにした表情を見せた。
「お前の耳は飾り物かヨ。私に決まってるネ」
「そんなの初耳だぞ」
「言ってなかったからナ。大体何でお前に言う必要があるカ? とにかく今はお前とグダグダ話してる暇は無いアル。あちらを立てればこちらが立たず……取捨選択という言葉が、これ程までに残酷な物だったとは……っ!」
「何わけの分かんねェ事言ってんだよ。要するに欲しい物を全て買うには、金が足りねェって事だろ?」
「だからお前には関係ないアル。店に用が無いのなら、お前こそ営業妨害ネ。さっさとどこかに行くヨロシ」
心底迷惑そうに、あっちへ行けと手を振る神楽。だが沖田はその場を動こうとはせず、数秒ほど何かを考えたかと思うと、まっすぐに神楽を見つめて言った。
「……何が欲しいんだよ」
「はァ? いきなり何を言い出すネ」
「だから、お前が欲しい菓子ってのはどれだよ」
茶化しているのかと思えば、意外と真剣な顔をしていた為、
「えっと……これとこれと……これアル。でもこの大きいのだと、一つで全額使ってしまうから困ってるネ」
と素直に答える神楽。すると沖田から、思いがけない言葉が返ってきた。
「だったら俺がそれを買ってやろうか」
「……え?」
そんな事を言われるとはこれっぽっちも考えていなかった神楽は、驚きで目を見開く。だがそんな事などお構い無しに、沖田は平然と続けた。
「お前が欲しいモンの中で、それが一番高い奴なんだろ?」
「そうアルけど……何の気まぐれネ? 私に物を買い与えようなんて、どんな下心があるか分かったもんじゃないヨ」
「酷ェ言い草だな。誕生日だって聞いたから、気を使ってやろうと思ったってのに。だったらいらねェのな」
「おい、すぐに諦めんなヨ!……誕生日プレゼントってんなら、受け取ってやらなくも無いし……」
お菓子を買ってもらえるという、嬉しさを見せるのが恥ずかしいのか、見事なツンデレを見せる神楽。それを見て皮肉な笑みを浮かべた沖田は、
「顔を真っ赤にしながら言うセリフじゃねェな。ほら、買う商品全部カゴに入れろ」
と言って自ら店先に置かれたカゴを持ち、店の奥へと入って行く。
「あ、ちょっと待つネ!」
思いもよらぬ展開について行けず、慌てて沖田の後を追いかけた神楽だったが、その顔には隠しきれない喜びが浮かんでいた。
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