いつだって君のそばに(土銀)【完結】
束の間の休息を取ろうと、あまり人気の無い酒場に入る。
奥の席が空いていると促されて足を向けると、そこには見慣れた銀髪があった。
今夜は一人で飲むつもりだったのにと舌打ちした俺だったが、ふとそいつがいつもと違う空気をまとっている事に気付く。
よくよく見れば、俯いて手の中のグラスを見つめるその顔には暗い影が重なり、今にも壊れそうな弱々しさがあった。
「しけた面してやがんな」
悪態をつきながら隣に座る。
面倒くさそうにチラリとこちらを見た万事屋は、またすぐに目の前の酒へと視線を戻した。
「何飲んでんだ?」
「知らね。とりあえず強い奴って頼んだから」
「でも酔えねーってか。もうやめとけ」
俺は万事屋のグラスを取り上げると、何を飲んでいたのかを確かめようと口に含んだ。
そしてチラリと視線を酒場のオヤジに向ける。
コクリと頷かれて合点のいった俺は、一つ瞬きをして答えておいた。
――酒と水との判別すらつかねェってか。
本当の所を確認するため、万事屋の顔にかかる前髪をかきあげる。光の無い赤い瞳に生気は無く、俺はため息を吐くしかなかった。
「オヤジ。悪いが今夜は飲まずに帰るわ。こいつの勘定頼む」
「あいよ。全部で五杯。三杯分で良いよ」
「……分かった。ありがとよ。また改めて来るわ」
最後は水とは言え、三杯分の酒は入ってるって事か。オヤジの心遣いに感謝しながら、俺は万事屋を店から連れ出した。
本人の意思を確認することなく腕を引っ張り店を出たというのに、文句一つ言わず素直についてくる万事屋。
「調子狂うぜ、全く」
そう呟いた俺は、敢えて入り組んだ路地へと万事屋を連れ込み、人がいない事を確認すると壁に押さえつけた。
「しっかりしろよ、万事屋! 一体どうしたってんだ?」
いつものコイツなら、茶化したり怒ったりと表情豊かに返してくるのに。今はまるで別人のように無表情のまま俺を見るだけ。
「……何があったんだ? 万事屋。そんな顔で家に戻ったら、ガキ共も心配するだろーが」
『ガキ共』の言葉が耳に入ったのか、一瞬ピクリと万事屋の体が震える。それを見た俺は全てを察した。
普段は死んだ魚のような目でふざけた生き方をしているように見えるが、実のところは神経の細いガラスのハートの持ち主だって事を知っているから。
今のコイツはきっと崖っぷちにいながら、助けを求められないでいるのだろう。
「どうせまた、『俺は本当にあいつらを側に置いてて良いのか?』なんて事を考えてんだろ。『自分のせいで危険な目に合わせちまってる』とか何とか言って、自分を追い詰めてんじゃねーのか?」
これまでいくつもの戦いを経験してきた。
その度に命を落としかけながらも何とか生還できたのは、仲間がいたからだ。
未だガキとはいえ立派な戦力となっているあいつらは、万事屋の心の支えにもなっている。
俺から見れば、あいつらがいなければこの坂田銀時と言う男は、とっくに生きる事を諦めていたかもしれない。
「お前の側にいるかどうかは、あいつら本人が決める事だ。ガキとはいえもう自分の事を決められる年だからな。それに関しちゃお前が気に病むこっちゃねェだろ」
「……そんな簡単に割り切れっかよ」
ようやく口を開いた万事屋は、苦しみを絞り出すように言った。
奥の席が空いていると促されて足を向けると、そこには見慣れた銀髪があった。
今夜は一人で飲むつもりだったのにと舌打ちした俺だったが、ふとそいつがいつもと違う空気をまとっている事に気付く。
よくよく見れば、俯いて手の中のグラスを見つめるその顔には暗い影が重なり、今にも壊れそうな弱々しさがあった。
「しけた面してやがんな」
悪態をつきながら隣に座る。
面倒くさそうにチラリとこちらを見た万事屋は、またすぐに目の前の酒へと視線を戻した。
「何飲んでんだ?」
「知らね。とりあえず強い奴って頼んだから」
「でも酔えねーってか。もうやめとけ」
俺は万事屋のグラスを取り上げると、何を飲んでいたのかを確かめようと口に含んだ。
そしてチラリと視線を酒場のオヤジに向ける。
コクリと頷かれて合点のいった俺は、一つ瞬きをして答えておいた。
――酒と水との判別すらつかねェってか。
本当の所を確認するため、万事屋の顔にかかる前髪をかきあげる。光の無い赤い瞳に生気は無く、俺はため息を吐くしかなかった。
「オヤジ。悪いが今夜は飲まずに帰るわ。こいつの勘定頼む」
「あいよ。全部で五杯。三杯分で良いよ」
「……分かった。ありがとよ。また改めて来るわ」
最後は水とは言え、三杯分の酒は入ってるって事か。オヤジの心遣いに感謝しながら、俺は万事屋を店から連れ出した。
本人の意思を確認することなく腕を引っ張り店を出たというのに、文句一つ言わず素直についてくる万事屋。
「調子狂うぜ、全く」
そう呟いた俺は、敢えて入り組んだ路地へと万事屋を連れ込み、人がいない事を確認すると壁に押さえつけた。
「しっかりしろよ、万事屋! 一体どうしたってんだ?」
いつものコイツなら、茶化したり怒ったりと表情豊かに返してくるのに。今はまるで別人のように無表情のまま俺を見るだけ。
「……何があったんだ? 万事屋。そんな顔で家に戻ったら、ガキ共も心配するだろーが」
『ガキ共』の言葉が耳に入ったのか、一瞬ピクリと万事屋の体が震える。それを見た俺は全てを察した。
普段は死んだ魚のような目でふざけた生き方をしているように見えるが、実のところは神経の細いガラスのハートの持ち主だって事を知っているから。
今のコイツはきっと崖っぷちにいながら、助けを求められないでいるのだろう。
「どうせまた、『俺は本当にあいつらを側に置いてて良いのか?』なんて事を考えてんだろ。『自分のせいで危険な目に合わせちまってる』とか何とか言って、自分を追い詰めてんじゃねーのか?」
これまでいくつもの戦いを経験してきた。
その度に命を落としかけながらも何とか生還できたのは、仲間がいたからだ。
未だガキとはいえ立派な戦力となっているあいつらは、万事屋の心の支えにもなっている。
俺から見れば、あいつらがいなければこの坂田銀時と言う男は、とっくに生きる事を諦めていたかもしれない。
「お前の側にいるかどうかは、あいつら本人が決める事だ。ガキとはいえもう自分の事を決められる年だからな。それに関しちゃお前が気に病むこっちゃねェだろ」
「……そんな簡単に割り切れっかよ」
ようやく口を開いた万事屋は、苦しみを絞り出すように言った。
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