smile(銀土)【完結】

「……っ! いきなり何してんだよ!」

 渾身の力を込めて腕をはずそうとしたが、これがなかなかはずれない。

「おい、放せ!」
「嫌だ。放さない」
「てめーは一体何考えてんだ! わけ分かんねーよ!」

 髪の毛に顔を埋めるようにしてじゃれてくる銀時の吐息がくすぐったい。

「ばっか野郎! いい加減に……」
「素顔を見せてるのはお前だけだよ。心から笑うのは、お前の前だけでありたい」
「……っ!」

 不意打ち。
 予想をしていなかった言葉に、抵抗していた土方の体が固まる。

「……何言ってやがる……」
「言葉の意味そのままでっす。何があっても俺を見てくれていて、何があっても側にいてくれる。俺にはお前だけだから」

 真後ろから聞こえる声は、怖いほどに優しくて。ひょっとして泣いているのか……? と小さな不安を覚えてしまう。

「おい、万事屋……?」
「妬いてくれて嬉しかった」
「だから俺は妬いてなんか――」
「さっき俺が店の主人と話をしてるとき、お前がどんな顔をして俺を見てたか分かる?」

 腕の力が緩んだ。
 くるりと回された土方の体が、銀時と向かい合う。
 正面から見た銀時の顔に浮かんでいるのは、やはりあの意地の悪い笑み。いつも以上に甘く優しい声が対照的で、そのギャップに戸惑った。

「物欲しそうだったよ」
「な……っ!」

 瞬時に顔が紅く染まった。まさかそんなはずは無いと思いながらも、事実なのだと体が証明してしまう。

「俺がお前以外の人と話をするのは嫌?」
「べ……つに構わねぇ! 構うわけねぇだろうが!」
「本当に……?」

 つ……と銀時の指が土方の頬に触れる。

「俺は嫌だね。お前は俺だけの物であって欲しいと思ってる」

 そのまま指は、少し湿り気を帯びた紅く柔らかい場所へと移動した。

「俺は独占欲が強いから。一度大切だと思ったら、絶対に手放したくないんでね」
「お、おい、よろ……」

 その先の言葉は紡げない。
 もう一つの柔らかい物が、塞いでしまったから。




 それは、求めるキス。
 求められるキス。




「本当の笑顔は、お前の前でしか見せねぇよ。お前以外はどうでも良いんだ」
「おま……」

 再び重なった唇は、先ほどよりも熱を帯びている。

「そそるね、その表情」
「ちょ、待て、おい!」
「怒ってる顔も良いねぇ」
「……っ!」

 もう、何も言う気になれない。
 明らかに強い想いを込めたキスに動揺して顔を紅く染めながら、土方は銀時を睨む事しかできなかった。

 そんな土方に、銀時は再びくすりと笑った。
 そして、言う。

「……心配してくれてありがとな」

 言葉と共に土方を包み込んだのは……





 これ以上ない心からの、真実の笑顔だった。

~了~
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