万事屋騒動記(オールキャラ)【完結】
お登勢の話では、出先からの帰りにエリザベスを見かけたらしい。
別に声をかけるつもりは無かったのだが、妙に幸せそうな雰囲気で手の中の何かを見ていたため、気になったそうだ。
そっと近付いて覗き込めば、それは長髪の可愛らしい少年の笑顔の写真だった。
「あんた、そういう趣味だったのかい?」
『ち、違う! これは遠い親戚の子の写真で……』
「そうかい。あたしには桂の小さい頃に見えるがね。桂の血縁か何かかい?」
『まぁそれに近いかもしれない。気にしないでくれ』
プラカードを掲げながら慌てるエリザベスに不信感を抱きながらも、深く探るつもりはない。
「あんたも幸せそうで良いねぇ」
そう言って立ち去ろうとしたお登勢だったが、踵を返しかけたエリザベスの足元からコロリと何かが落ちた事に気付いた。
「ちょいと、何か落とした……これは!」
拾い上げてみれば、それは怪しげな薬瓶で。しかもそのデザインにはお登勢も見覚えがあった。
「エリザベス、あんた……何やってるんだい?」
『は? 何のことだか』
「あたしが何も知らないと思ってるのかい? 蓮蓬族が特許を取ってる『子供に戻れる薬』じゃないか。まさか桂に……」
『私は何も知らない。たまたま坂本さん経由で桂さんの手に渡っただけだ」
「ほ~う。そのたまたまを理由に桂に飲ませ、コレクション用の写真を撮ってた、と?」
『人聞きの悪い事を言うな! あくまで記念写真だ』
『とにかく私はこれで失礼する。万事屋にはこれを届けておいて欲しい。さらばだ!』
そう言ったエリザベスは一枚のプラカードをお登勢に投げ渡すと、一目散に走り去ったのだった。
「まぁそういう訳だからちゃんと渡したよ。ったく、とんだ面倒だったよ」
ぶつくさと言いながら、お登勢は万事屋を出て行く。その後姿を見送った銀時は、頬を引きつらせながらプラカードを確認した。
そこに書かれていたのは
『しばらく旅に出ます。探さないで下さい』
の文字で。
「あんのヤロー! 結局黒幕はエリザベスだったのかよっ!」
銀時の叫びと共に、プラカードは真っ二つにされたのだった。
こうしてとりあえず今回の件についての話は繋がったが、その後は全員が釈然としないままの解散となった。
桂は「少し歪な愛情表現ではあるが、それだけ俺を大切に思ってくれている友を放ってはおけぬ」とエリザベスを探す旅に出る。
高杉は「エリザベスが見つかったら俺が殺る」と物騒なセリフを吐き、迎えに来たまた子に持参させた自らの着物に着替えると、万事屋を出た。
高杉が帰る直前、「身長の事、未だに気にしてんのな」と銀時が小さく言ってしまった言葉に一瞬火花が散ったが、やはりお互い疲れていたのか、またの機会に、とお互い背を向ける。
気を失っていたことで最後まで残っていた坂本は、白目を剥いたまま陸奥に引きずられて万事屋を後にした。
「やっと静かになりましたね……いくらギャグとはいえあまりにも無茶苦茶な展開だったから、収集つかないかと思ってハラハラしてましたよ」
一気に人のいなくなった万事屋に、平穏が戻る。やれやれとソファに座り込んだ三人は、新八が改めて淹れたお茶をすすり、ホゥッとため息を吐いた。
「新八の言う通りネ。メモ帳のスクロールバーがどんどん短くなっていくのを見ていたら、生きた心地がしなかったアル」
「何で神楽ちゃんにそんなもんが見えてんだよ! それにしてもまさかエリザベスさんが黒幕だったとは……。だったら何で僕たちに助けを求めたんでしょうね。蓮蓬族なんだから戻し方も知ってただろうし。中和作用のある食材が分からなかったからかなぁ」
「大方想像以上にあの二人がやんちゃだったせいで、相手しきれなくなったんだろうよ」
大きくあくびをしながら面倒くさそうに答えた銀時に、苦笑いで頷く新八と神楽。
気が付けばもう、外は暗くなっている。もう一度あくびをしながら、銀時は言った。
「いい加減腹も減ったし、晩飯でも食いに行くか。陸奥に色々と請求したら、迷惑料を上乗せしてくれたしな」
「マジか! やったナ銀ちゃん」
「早速行きましょうよ。僕もうお腹ペコペコです」
一気に場が明るくなり、新八と神楽がはしゃぎ出す。
二人を見ながら銀時はだるそうに立ち上がったが、その口元は小さく微笑んでいた。
「そんじゃ行くか」
「はーい」
万事屋を出て、店を目指し歩きながら、銀時は思う。
――バカげた出来事だったけど、こんな風に集まれる日が来るなんて思ってなかったからな……ちったァ楽しかった、かも。
「銀さぁん、置いてっちゃいますよ」
「早く来るネ銀ちゃん!」
両腕を二人に絡め取られ、引っ張られながら仰ぎ見た夜空は、銀時の心を表すかのように美しく星を瞬かせていた。
~了~
別に声をかけるつもりは無かったのだが、妙に幸せそうな雰囲気で手の中の何かを見ていたため、気になったそうだ。
そっと近付いて覗き込めば、それは長髪の可愛らしい少年の笑顔の写真だった。
「あんた、そういう趣味だったのかい?」
『ち、違う! これは遠い親戚の子の写真で……』
「そうかい。あたしには桂の小さい頃に見えるがね。桂の血縁か何かかい?」
『まぁそれに近いかもしれない。気にしないでくれ』
プラカードを掲げながら慌てるエリザベスに不信感を抱きながらも、深く探るつもりはない。
「あんたも幸せそうで良いねぇ」
そう言って立ち去ろうとしたお登勢だったが、踵を返しかけたエリザベスの足元からコロリと何かが落ちた事に気付いた。
「ちょいと、何か落とした……これは!」
拾い上げてみれば、それは怪しげな薬瓶で。しかもそのデザインにはお登勢も見覚えがあった。
「エリザベス、あんた……何やってるんだい?」
『は? 何のことだか』
「あたしが何も知らないと思ってるのかい? 蓮蓬族が特許を取ってる『子供に戻れる薬』じゃないか。まさか桂に……」
『私は何も知らない。たまたま坂本さん経由で桂さんの手に渡っただけだ」
「ほ~う。そのたまたまを理由に桂に飲ませ、コレクション用の写真を撮ってた、と?」
『人聞きの悪い事を言うな! あくまで記念写真だ』
『とにかく私はこれで失礼する。万事屋にはこれを届けておいて欲しい。さらばだ!』
そう言ったエリザベスは一枚のプラカードをお登勢に投げ渡すと、一目散に走り去ったのだった。
「まぁそういう訳だからちゃんと渡したよ。ったく、とんだ面倒だったよ」
ぶつくさと言いながら、お登勢は万事屋を出て行く。その後姿を見送った銀時は、頬を引きつらせながらプラカードを確認した。
そこに書かれていたのは
『しばらく旅に出ます。探さないで下さい』
の文字で。
「あんのヤロー! 結局黒幕はエリザベスだったのかよっ!」
銀時の叫びと共に、プラカードは真っ二つにされたのだった。
こうしてとりあえず今回の件についての話は繋がったが、その後は全員が釈然としないままの解散となった。
桂は「少し歪な愛情表現ではあるが、それだけ俺を大切に思ってくれている友を放ってはおけぬ」とエリザベスを探す旅に出る。
高杉は「エリザベスが見つかったら俺が殺る」と物騒なセリフを吐き、迎えに来たまた子に持参させた自らの着物に着替えると、万事屋を出た。
高杉が帰る直前、「身長の事、未だに気にしてんのな」と銀時が小さく言ってしまった言葉に一瞬火花が散ったが、やはりお互い疲れていたのか、またの機会に、とお互い背を向ける。
気を失っていたことで最後まで残っていた坂本は、白目を剥いたまま陸奥に引きずられて万事屋を後にした。
「やっと静かになりましたね……いくらギャグとはいえあまりにも無茶苦茶な展開だったから、収集つかないかと思ってハラハラしてましたよ」
一気に人のいなくなった万事屋に、平穏が戻る。やれやれとソファに座り込んだ三人は、新八が改めて淹れたお茶をすすり、ホゥッとため息を吐いた。
「新八の言う通りネ。メモ帳のスクロールバーがどんどん短くなっていくのを見ていたら、生きた心地がしなかったアル」
「何で神楽ちゃんにそんなもんが見えてんだよ! それにしてもまさかエリザベスさんが黒幕だったとは……。だったら何で僕たちに助けを求めたんでしょうね。蓮蓬族なんだから戻し方も知ってただろうし。中和作用のある食材が分からなかったからかなぁ」
「大方想像以上にあの二人がやんちゃだったせいで、相手しきれなくなったんだろうよ」
大きくあくびをしながら面倒くさそうに答えた銀時に、苦笑いで頷く新八と神楽。
気が付けばもう、外は暗くなっている。もう一度あくびをしながら、銀時は言った。
「いい加減腹も減ったし、晩飯でも食いに行くか。陸奥に色々と請求したら、迷惑料を上乗せしてくれたしな」
「マジか! やったナ銀ちゃん」
「早速行きましょうよ。僕もうお腹ペコペコです」
一気に場が明るくなり、新八と神楽がはしゃぎ出す。
二人を見ながら銀時はだるそうに立ち上がったが、その口元は小さく微笑んでいた。
「そんじゃ行くか」
「はーい」
万事屋を出て、店を目指し歩きながら、銀時は思う。
――バカげた出来事だったけど、こんな風に集まれる日が来るなんて思ってなかったからな……ちったァ楽しかった、かも。
「銀さぁん、置いてっちゃいますよ」
「早く来るネ銀ちゃん!」
両腕を二人に絡め取られ、引っ張られながら仰ぎ見た夜空は、銀時の心を表すかのように美しく星を瞬かせていた。
~了~
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