万事屋騒動記(オールキャラ)【完結】

「あんたねェ! 分かってたんなら最初から言えーッ!」
「すまんすまん。あいつらの記憶が退行しとることに気付いたタイミングも遅くてのぅ。製造された工場によって食材は違うらしいが、とりあえずこの薬は、いちご牛乳を飲めば中和されて元に戻れるはずじゃき。」
「どんだけ都合の良い設定だよ!……けどまぁ元に戻る方法が分かって良かったです。銀さんにも教えてあげなきゃ……」

 イラつきながらも何とか冷静さを保てた新八はさすがだと言えよう。
 何がともあれ、解決策は見つかった。それならば早速この事を銀時に伝えようと、新八が踵を返した時だった。

「そ、それはいかんぜよ」

 何故か慌てたように縋り付き、新八を引き止める辰馬。その顔には、本気の焦りが見えていた。

「何でですか、坂本さん。いちご牛乳を飲むだけで解決するなら、さっさと話を進めてしまえば……」
「それはそうなんじゃが、その……銀時にバレたら本気でキレるじゃろうて。さっきもワシが子供のナリをしてるにも関わらず、バシバシと殺気を叩きつけてきよったき、恐ろしゅうて仕方なかったわ」
「ったり前だろうが。諸悪の根源に優しくできるほど、白夜叉様は慈悲深かァねェぞ」
「……ヒッ!」

 気配を感じさせる事なく辰馬の背後を取り、頭に手を置いたのは銀時。
 正に夜叉の如くの恐ろしい笑顔を浮かべながら、ギリギリと指に力を入れていく。

「たっつーまくーん。とっても楽しい企画をありがとねェ……」
「あ、あれぇ、ここはどこかなぁ? お兄ちゃんは誰? 僕何にも分かんないや〜」
「ほォ〜、コ◯ン君ばりに何も覚えてないってか? そんじゃお兄さんがぜェんぶ思い出させてあげようねェ……エリザベスとガキどもが壊したモンの修理費諸々含めて、脳髄まで叩き込んでやるよッ!」
「ぶべらァッ!」

 パキャッと頭蓋骨に穴が開いたような音が聞こえたと同時に、辰馬の口から白い物が空へと消えていく。魂の抜けてしまったらしい辰馬は、白目を剥いて倒れてしまった。

「やり過ぎですよ銀さん。思い出すどころか、全部抜けて真っ白になってます」
「これで良いんだよ。コイツの場合、一旦空っぽにして入れ直す方が早ェ」

 無慈悲な視線を辰馬に向けた銀時だったが、ピクリとも動かなくなった辰馬の姿を見て気が済んだのか、いつものやる気のない表情に戻ると「あとは頼まァ」と言って台所を出て行った。

「また僕に押し付けて……」

 大きくため息を吐いた新八が、諦めたように辰馬を放置したまま冷蔵庫を開ける。中を確認し、いちご牛乳を取り出すと人数分のコップをお盆に乗せた。
 改めてお茶請けを探して棚を開ければ、先程は気付かなかったいくつかの物体が目に入り、更に大きなため息を吐く。仕方なくそれもお盆に乗せると、「いい加減気絶したフリはやめて、貴方もさっさと来てくださいよ」と言って辰馬を跨ぎ、リビングへと向かった。

「お待たせしました」

 新八がそっとテーブルにお盆を置くと、皆の視線が一気に集中する。何故ならそこにはいちご牛乳と、正体不明の黒い物体が鎮座していたから。

「……何だこれ」

 晋助が不思議そうに、皿の上に乗せられた黒い物体を指で突く。原形の分からないそれは触れると固くて焦げ臭く、妙な存在感があった。

「正体の分からぬ物に無暗に手を出すなよ、晋助」

 その見てくれに恐怖心を煽られているのか、少々引き気味の小太郎が晋助を止める。そんな二人の姿に、苦笑いをしながら新八は言った。

「すみませんね。来客用のお菓子が全部無くなってたんですよ。だから今はこれしか無くて……。ちなみコレ、甘い玉子焼きだったはずの物ですから」
「ちょっと待つネ新八! こんなダークマター食わせたら、コイツ等死んでしまうヨ。何血迷ったことしてるアルか。とうとう本気でおかしくなったネ」
「子供たちにはいちご牛乳を出しますよ。こっちは神楽ちゃんのノルマです。お菓子を食べた事を隠すために、酢昆布の空箱を置いてごまかすようなアホにはこれがお似合いですからね」
「さりげなく自分の身内を最大級にディスってるネ。恐ろしい子……ッ!」
「恐ろしいのはお前だーッ!」

 いつものコントを繰り広げながらも、新八はいちご牛乳をコップに注ぎ分けていく。

「あっちは食べなくて良いからね。こちらをどうぞ、小太郎くん、晋助くん。坂……辰馬くん」

 さりげなく子供たちの隣に戻ってきていた辰馬も含め、新八が一つずつコップを目の前に置いていく。だがダークマターを目にしてしまった小太郎と晋助は、さすがに不安な面持ちでコップと新八を交互に見ていた。
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