smile(銀土)【完結】

 その笑顔が本物ではないことに気付いたのは、いつの事だったか。もう当たり前のように分かってしまっているそれを、今更改めて考えるつもりなどなかったのだけれど。

「あのお兄さん、何か寂しそうだね」

 偶々二人で入った店の子供が言った言葉に、引っかかってしまった。




「初対面のガキなんぞに読まれてんじゃねぇよ」

 いつものように軽い笑顔で店の主人と世間話をしている銀時の姿を見て、土方はつぶやいた。
 坂田銀時という男は元々、人と接することは嫌いではないようだが、自らを縛り付けている過去が邪魔をしてつい一線を引いてしまうらしい。だが不思議と人を惹きつける物を持っており、気が付けば銀時の周りには人の輪ができていた。
 事あるごとにその輪から離れようとしてみても、決して切れる事の無い、太く力強い絆の輪が。良くも悪くも銀時を縛り付けている事も知らずに。

「おい、万事屋!」

 笑顔に妙にいらついて、土方がわざと声をかける。会話は弾んでいたようだったが、すぐに軽く手をあげて会話を打ち切ると、気怠そうに土方の元へとやってきた。

「な~んか機嫌悪そうだねぇ」

 やはりいつもの軽い口調と笑顔で語りかけてくる。イライラする気持ちを押さえつけながら「話がある」と言って店を出ると、銀時は一瞬眉をひそめはしたが、何も言わずにすぐに後ろをついてきた。
 人通りの少ない通りへと歩き、周辺の気配を探る。確実に誰もいない事を確認して、土方は歩みを止めた。
 気心知れた自分となら、こいつは無理をしなくて良い。そう思って。

「いい加減、愛想振りまく癖をやめろっての」

 土方が呆れたように言う。
 もうお決まりの文句となってしまったそれは、いつも銀時の苦笑いを誘うだけだと分かっているが、どうしても言わずにはいられない。

「心からの笑いじゃねぇことなんて、分かる奴には分かっちまうもんなんだよ」
「さっきも言ったけど……やっぱ機嫌悪いよね?」

 せっかく良いことを言っているのに、返ってきたのは疑問系。
 しかも顔を覗き込みながら見せる探るような上目遣いに、土方は思わずゾクリとしてしまう。

「別に悪かねぇよ! ただイライラするだけだ」
「何でお前がイライラするんだよ?」
「んなの俺が知るかってんだ。とにかくその嘘臭い笑顔をどうにかしろ!」

 むすっとしたまま怒鳴りつける。
 今まで事ある毎に怒っていた。だが年の功というかなんと言うか、いつものらりくらりとかわされてしまうのだ。
 だからこそ今回は、勢いで押していこうと思っていたのだが……。

 銀時の口から発せられた返答に唖然として、思わず勢いを失ってしまう。

「妬いてる?」
「はぁ!?」

 言葉と同時に、先ほどまでの軽い笑いとは違う、少し意地の悪い笑みが浮かんだ。
 時折土方の前だけで見せるこの笑顔の意味は分からない。ただ何か、危険だという事だけは分かっていた。

「だ、誰が誰に妬くってんだよ! 大体俺は……」
「嘘、妬いてる」

 くすりと笑いながらゆっくりと土方の後ろに回った銀時は、そっと背中から抱きついた。
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