君だけを想う(銀土)【完結】
ふと気が付けば、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
ああ、寝てしまっていたのかと未だボンヤリした頭のまま体を起こせば、視界に入る銀の髪。
俺に寄り添うようにソファの下で眠る姿が愛おしくて、胸の奥がツキリと痛んだ。
視線を移せば、テーブルの上には酒とツマミが散乱している。
だが種類はあるのにほとんどの物が未開封のままなところを見ると、あまり口にせず潰れてしまったのだろうか。
「そんなに酒に弱かったか?」
ムニャムニャと幸せそうな表情は、普段見ているチャラけたものとはまた違って、幼ささえ感じる。
こんな顔を見られることなんて滅多にないよな、と思った俺は、そっと顔を近付けた。
だが自分のこの行動は、俺を後悔させることとなる。
何故ならもっとハッキリ表情を見たいと近付き過ぎ、寝息を頬に受けてしまったから。
まるで口付けられたような錯覚に陥った俺は、思わず身を引く。その振動で「ううーん……」と唸る万事屋に焦ったが、そのまま再び寝息をたて始めた。
「っぶね……ッ」
安堵の息が漏れた時、ふと気付いた自分の手。
まさか未だ頬に残る熱を逃がさぬよう、無意識に覆っていようとは。
「何やってんだ、俺は……」
頬から放した手のひらを見つめる。
憧れよりも、もっと強い感情を知ってしまったのはつい最近の事だ。
気が付けば目で追ってしまっている銀の光は、いつだって俺の心をかき乱す。
この感情に名前を付けてしまったらもう、後戻りは出来ないだろう。
今の俺には未だ、その勇気が無い。
俺は、眠っている万事屋にそっと手を伸ばした。だがやはり自分から触れる事への躊躇いは強く、虚しく空を切る。
――もしコイツから触れてくるなら……。
自分の中に生まれる事など想像だにしなかった、劣情。
認めたくはないが、間違いなくそれは存在している。
いつか、来るのだろうか。
すぐ目の前にあるのに手を伸ばせない、愛しい君に抱きしめられる日が。
希望などありはしないのに、願ってしまう自分が女々しくて情けない。
それでも、想いを心に秘めておくことくらいは許されるだろう。
もう一度、熱を受けた頬を指でなぞる。その指を自らの唇に当てながら思った。
せめてこの眠りから目覚めた時、最初に見るものが俺でありますように……と。
~了~
ああ、寝てしまっていたのかと未だボンヤリした頭のまま体を起こせば、視界に入る銀の髪。
俺に寄り添うようにソファの下で眠る姿が愛おしくて、胸の奥がツキリと痛んだ。
視線を移せば、テーブルの上には酒とツマミが散乱している。
だが種類はあるのにほとんどの物が未開封のままなところを見ると、あまり口にせず潰れてしまったのだろうか。
「そんなに酒に弱かったか?」
ムニャムニャと幸せそうな表情は、普段見ているチャラけたものとはまた違って、幼ささえ感じる。
こんな顔を見られることなんて滅多にないよな、と思った俺は、そっと顔を近付けた。
だが自分のこの行動は、俺を後悔させることとなる。
何故ならもっとハッキリ表情を見たいと近付き過ぎ、寝息を頬に受けてしまったから。
まるで口付けられたような錯覚に陥った俺は、思わず身を引く。その振動で「ううーん……」と唸る万事屋に焦ったが、そのまま再び寝息をたて始めた。
「っぶね……ッ」
安堵の息が漏れた時、ふと気付いた自分の手。
まさか未だ頬に残る熱を逃がさぬよう、無意識に覆っていようとは。
「何やってんだ、俺は……」
頬から放した手のひらを見つめる。
憧れよりも、もっと強い感情を知ってしまったのはつい最近の事だ。
気が付けば目で追ってしまっている銀の光は、いつだって俺の心をかき乱す。
この感情に名前を付けてしまったらもう、後戻りは出来ないだろう。
今の俺には未だ、その勇気が無い。
俺は、眠っている万事屋にそっと手を伸ばした。だがやはり自分から触れる事への躊躇いは強く、虚しく空を切る。
――もしコイツから触れてくるなら……。
自分の中に生まれる事など想像だにしなかった、劣情。
認めたくはないが、間違いなくそれは存在している。
いつか、来るのだろうか。
すぐ目の前にあるのに手を伸ばせない、愛しい君に抱きしめられる日が。
希望などありはしないのに、願ってしまう自分が女々しくて情けない。
それでも、想いを心に秘めておくことくらいは許されるだろう。
もう一度、熱を受けた頬を指でなぞる。その指を自らの唇に当てながら思った。
せめてこの眠りから目覚めた時、最初に見るものが俺でありますように……と。
~了~
2/2ページ