君だけを想う(銀土)【完結】

「悪ィ、遅れた……」

そう言いながらガラリと戸を開け、万事屋に入ってきたのは土方。
今夜は神楽が新八の家に泊まりに行っているため、土方と二人で飲む事になっていた。
だが仕事が忙しかったのか、約束の時間を過ぎても姿を見せず。
ようやく来たかと思えば疲れ切った顔でソファに直行し、「すまねぇ、ちょっとだけ……」と言ってそのまま眠ってしまった。

「おーい、土方くーん」

声をかけても身じろぎ一つせず、深い呼吸を繰り返している土方を起こすのは、さすがにためらわれる。

「楽しみにしてたんだけどなー」

俺は仕方なく一人で晩酌を始めた。
土方が眠るソファにもたれ、寝息しか聞こえない静かな部屋でちびちびと飲む酒は、幸せだけど寂しい。
いつもなら浴びるように飲む酒も、何故か進まなかった。

「やっぱ一緒に飲みてぇよ、お前と」

熟睡している土方の顔を、そっと覗き込む。
瞼に落ちた影の濃さが妙に艶めかしくて、俺はたまらず口付けた。

「ん……」と小さく呻いて顔をそむける土方を追い、さらなる口付けを交わす。
甘い吐息と柔らかな感触が心地よくて、ほんの少しだけ寂しさが和らいだ。

「土方……」

眠っている今だけだから、と想いを込めてその名を呼ぶ。

ただそばに居られればそれで良い。
そう思っていたはずだったのに、時を重ねる毎に大きくなる想いは欲してしまっていた。
お前の心を。
お前の全てを、と。

だが俺は知ってしまっている。
土方がずっと誰に憧れ、誰を追い続けているかを。

「なぁ、土方……お前の未来を照らす光が近藤なら、俺はお前の心を照らす光となりたい。例えその瞳に映るのが誰であろうと、俺は俺の意志で、お前の為にこの命を燃やしてェよ」

いつか、来るのだろうか。
すぐ目の前にあるのに手を伸ばせない、愛しい君を抱きしめられる日が。

もう一度だけ、唇に触れた。
この温もりを忘れぬように。
誓いを刻むように。

そして、せめてこの眠りから目覚めた時、最初に見るものが俺でありますようにと願いを込めながら……。

~了~
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