素直じゃない君と素直になれない僕(沖神)【完結】
ポロリとこぼれた大粒の涙に、俺は言葉を失った。
その代わり、衝動的に動いた俺の腕がチャイナの体をとらえて抱きしめる。戦いのときはバケモノ並みに強さが邪魔して気付いていなかったが、想像をはるかに超える華奢な体に驚いた。
「は、放せ、バカっ!」
突然の抱擁に驚いたのか、腕の中でチャイナが暴れる。だが本気で逃れようとしているわけではないようで、押し返してくる力は弱かった。
その時になって、俺はようやく気付く。
「放さねぇよ。俺に見ててほしいんだろ?」
「何をいきなり言ってるアルか。さっさと放すネ、ドS野郎」
「へいへい、姫さんは素直じゃないねぇ。嬉しい癖に」
さっきまでの胸の締め付けは、いつの間にか消えていた。今あるのは抑えきれないほどの大きな期待。
「まぁ体の方は素直みたいだけどな」
「バッ……何一人でエロい妄想してるネ、この変態!」
今度は本気で俺の腕から抜け出そうと足掻きだすチャイナ。でも残念ながら俺は放す気はねぇんだよ。
割と本気で抱きしめながら、俺は言った。
「誰が変態だって? 俺は凹凸のねぇお子ちゃまなんざ相手にしねェよ」
「ほざけ! 私だってお前なんか好きじゃないネ!」
それは、期待が確信に変わった瞬間だった。
「へェ……俺ァ一言も『好き』なんて言葉は使っちゃいねぇんだがなぁ」
「……っ!」
ボンッと湯気が立ちそうなほどに、チャイナの顔が赤く染まる。腕の中の温度が急激に上昇するのが分かり、どれだけチャイナが動揺しているかが伝わってきた。
「で? 俺がなんだって?」
ニヤニヤと笑いながら顔を覗き込めば、恥ずかしいのか俺の胸に顔を埋めてイヤイヤと頭を振る。そんなチャイナがとても愛おしくて、俺はそっと髪に口づけた。
ゆっくりと腕の力を緩めて開放すれば、恥ずかしさで泣きそうになるのを我慢しているのか、くしゃりとゆがんだ顔が現れる。こんな風に少女の顔を見せるチャイナは初めてで、俺の心が満たされていくのが分かった。
「お前はずるいネ。さっさとゴリラの糞とマヨネーズにまみれて死ぬヨロシ」
「残念ながらそいつァできねぇ相談だな。そんなことになっちまったら泣くやつがいるみてぇだしよ」
そう言って俺は懐からハンカチを取り出すと、ペシリとチャイナの顔に叩きつけた。見事に顔面を直撃したハンカチは、多分溢れそうになっていた涙を吸い込んでいるはずだ。
「痛……っ! 乙女の顔に傷付けるつもりかコラ! 嫁に行けなくなったらどうしてくれるネ」
怒りをあらわにしたチャイナが、今度は俺の胸にハンカチを叩きつける。その手を掴んで引き寄せると、俺は耳元に口を寄せて言った。
「そん時は俺がもらってやるさ。早く大人になりなせェ」
唇で頬に触れ、とん、とチャイナの体を押す。立ち上がって背を向ける瞬間に合ったお互いの視線はきっと、同じ思いを秘めている事だろう。
「ほら、さっさと行くぜ」
座り込んでいるチャイナに背を向け、振り向くことなく歩き出す。向かう先は万事屋だ。
未だお互いの気持ちをはっきりと形にするには幼い二人なのだと、あの時旦那は言いたかったのだろうか。
でもそれならそれでいいのかもしれない。歩き出す直前に聞こえた「お前が大人になったらナ」という声が、とても幸せそうだったから。
「あーあ、ほんと旦那にはムカつきまさァ」
追いかけてくる足音を聞きながら仰ぎ見た空は、俺の心と同じように清々しい青空だった。
~了~
その代わり、衝動的に動いた俺の腕がチャイナの体をとらえて抱きしめる。戦いのときはバケモノ並みに強さが邪魔して気付いていなかったが、想像をはるかに超える華奢な体に驚いた。
「は、放せ、バカっ!」
突然の抱擁に驚いたのか、腕の中でチャイナが暴れる。だが本気で逃れようとしているわけではないようで、押し返してくる力は弱かった。
その時になって、俺はようやく気付く。
「放さねぇよ。俺に見ててほしいんだろ?」
「何をいきなり言ってるアルか。さっさと放すネ、ドS野郎」
「へいへい、姫さんは素直じゃないねぇ。嬉しい癖に」
さっきまでの胸の締め付けは、いつの間にか消えていた。今あるのは抑えきれないほどの大きな期待。
「まぁ体の方は素直みたいだけどな」
「バッ……何一人でエロい妄想してるネ、この変態!」
今度は本気で俺の腕から抜け出そうと足掻きだすチャイナ。でも残念ながら俺は放す気はねぇんだよ。
割と本気で抱きしめながら、俺は言った。
「誰が変態だって? 俺は凹凸のねぇお子ちゃまなんざ相手にしねェよ」
「ほざけ! 私だってお前なんか好きじゃないネ!」
それは、期待が確信に変わった瞬間だった。
「へェ……俺ァ一言も『好き』なんて言葉は使っちゃいねぇんだがなぁ」
「……っ!」
ボンッと湯気が立ちそうなほどに、チャイナの顔が赤く染まる。腕の中の温度が急激に上昇するのが分かり、どれだけチャイナが動揺しているかが伝わってきた。
「で? 俺がなんだって?」
ニヤニヤと笑いながら顔を覗き込めば、恥ずかしいのか俺の胸に顔を埋めてイヤイヤと頭を振る。そんなチャイナがとても愛おしくて、俺はそっと髪に口づけた。
ゆっくりと腕の力を緩めて開放すれば、恥ずかしさで泣きそうになるのを我慢しているのか、くしゃりとゆがんだ顔が現れる。こんな風に少女の顔を見せるチャイナは初めてで、俺の心が満たされていくのが分かった。
「お前はずるいネ。さっさとゴリラの糞とマヨネーズにまみれて死ぬヨロシ」
「残念ながらそいつァできねぇ相談だな。そんなことになっちまったら泣くやつがいるみてぇだしよ」
そう言って俺は懐からハンカチを取り出すと、ペシリとチャイナの顔に叩きつけた。見事に顔面を直撃したハンカチは、多分溢れそうになっていた涙を吸い込んでいるはずだ。
「痛……っ! 乙女の顔に傷付けるつもりかコラ! 嫁に行けなくなったらどうしてくれるネ」
怒りをあらわにしたチャイナが、今度は俺の胸にハンカチを叩きつける。その手を掴んで引き寄せると、俺は耳元に口を寄せて言った。
「そん時は俺がもらってやるさ。早く大人になりなせェ」
唇で頬に触れ、とん、とチャイナの体を押す。立ち上がって背を向ける瞬間に合ったお互いの視線はきっと、同じ思いを秘めている事だろう。
「ほら、さっさと行くぜ」
座り込んでいるチャイナに背を向け、振り向くことなく歩き出す。向かう先は万事屋だ。
未だお互いの気持ちをはっきりと形にするには幼い二人なのだと、あの時旦那は言いたかったのだろうか。
でもそれならそれでいいのかもしれない。歩き出す直前に聞こえた「お前が大人になったらナ」という声が、とても幸せそうだったから。
「あーあ、ほんと旦那にはムカつきまさァ」
追いかけてくる足音を聞きながら仰ぎ見た空は、俺の心と同じように清々しい青空だった。
~了~
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