素直じゃない君と素直になれない僕(沖神)【完結】
「よーこーせー!」
俺の元へと飛んできた酢昆布に吸い寄せられるようにチャイナが突進してきたため、俺は慌てて身構える。だがチャイナの動きの方が一瞬早く、俺に激突してしまった。しかも勢いがありすぎて止まれなかったのか、よりによって尻餅をついた俺の顔面がチャイナの胸に埋もれる形になってしまう。
思わず顔が赤くなりそうだったのを必死に隠し、少しでも酢昆布を遠ざけようと手を伸ばした。だがチャイナはそんな事などお構い無しに「さっさとそれを寄越すね、このヤロウ」と胸を押し付けたまま奪おうと手を伸ばしてくる。
――コイツには女の恥じらいってモンがねぇのかよ。それとも何か? 俺を男として認識してないとでも?
そんな考えが浮かび、胸が締め付けられた。
「やーめた。アホらしいや」
鼻がツンとする感覚を誤魔化したくて、俺はアッサリとチャイナに酢昆布を渡した。
「どうしたアルか、珍しく素直ネ」
「べっつにー。ただ面倒になっただけでィ」
「……そうアルか」
酢昆布をゲットして嬉しいはずなのに、チャイナの顔は何故か浮かない。まぁ旦那から受け取れなかった時点で、コイツにとっては嬉しさ半減なんだろうよ。
「そいつを持ってさっさと万事屋に帰りねェ」
「なんかいつものお前らしくないアル。気色悪ぃ」
そう言うとチャイナは何故か、強引に俺の足を揃えて伸ばさせ、膝の上にドスンと座り込んだ。
「痛ェな! でかいケツで関節押さえてんじゃねェよこの野郎」
「ふざけんな。こんな美少女に座って頂けてありがたく思え、クソ野郎」
例のごとく色気もへったくれもない会話。いつもならここからいかにからかうかを楽しむのだが、今の俺には虚しいばかりだ。
「分かったから……さっさとどけよ」
目を合わせたくなくて、顔を背けながら言った。
じっと見られてるのは分かっちゃいたが、自分でも情けなくなるくらい弱気になっている今の顔を、正面に向けられるほど俺は強くはない。
「どいて欲しいならこっち向くネ」
「てめェの面なんざ見たかねぇんだよ」
「何ダヨその態度! 可愛げが無いネ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやらぁ」
「何だとコラァ!」
胸倉に掴みかかってくるチャイナにも、やり返してやる気が起きない。
もう好きにしてくれとばかりに、ガクガク揺さぶられながらも無抵抗でいた俺だったが……ふと気付けば、俺を掴んでいる手が震えていた。
「チャイナ……?」
「何か嫌アル」
それは、消え入りそうに小さな声。驚いて視線を向ければ、そこには今まで見た事の無い表情のチャイナがいた。
「……なんでェ、その顔は」
チャイナが俺を男として認識していないのでは、と思った時とはまた違う、新たな胸の締め付けに戸惑う。何かを言わなければと俺は必死に頭を働かせたが、結局口をついたのはいつもの憎まれ口だった。
「何が嫌だってんだよ。捨てられた子犬みたいな目ェしやがって」
「うるさいネ! お前がいつもと違うから戸惑ってるだけアル!」
「別に俺は……」
もしかしてこのまま泣くんじゃないか。そんな風に思ってしまうほどに悲し気なチャイナの目を見ているのが怖くて、再び俺は目を逸らそうとした。だが強引に俺の両頬を挟み込んだチャイナの手が、それを許さない。
「目を逸らしてんじゃねェヨ! お前がおとなしかったり、こっちを見ようとしないのは何かモヤモヤするネ。お前はいつだって自分勝手でわがままで無茶苦茶でドSな幕府の犬ダロ? 私に敵うはずなんてないのに、すぐ戦いを挑んでくるような脳みそ空っぽのサド野郎だったはずアル。それなのに……」
――罵倒を浴びているのは俺じゃねぇか。傷付くのは俺のはずだろ? 何ててめェの方がそんな傷付いた顔してやがる
そう言ってやりたかったのに。
「何で急に私を見ようとしないネ? 私はお前に……」
俺の元へと飛んできた酢昆布に吸い寄せられるようにチャイナが突進してきたため、俺は慌てて身構える。だがチャイナの動きの方が一瞬早く、俺に激突してしまった。しかも勢いがありすぎて止まれなかったのか、よりによって尻餅をついた俺の顔面がチャイナの胸に埋もれる形になってしまう。
思わず顔が赤くなりそうだったのを必死に隠し、少しでも酢昆布を遠ざけようと手を伸ばした。だがチャイナはそんな事などお構い無しに「さっさとそれを寄越すね、このヤロウ」と胸を押し付けたまま奪おうと手を伸ばしてくる。
――コイツには女の恥じらいってモンがねぇのかよ。それとも何か? 俺を男として認識してないとでも?
そんな考えが浮かび、胸が締め付けられた。
「やーめた。アホらしいや」
鼻がツンとする感覚を誤魔化したくて、俺はアッサリとチャイナに酢昆布を渡した。
「どうしたアルか、珍しく素直ネ」
「べっつにー。ただ面倒になっただけでィ」
「……そうアルか」
酢昆布をゲットして嬉しいはずなのに、チャイナの顔は何故か浮かない。まぁ旦那から受け取れなかった時点で、コイツにとっては嬉しさ半減なんだろうよ。
「そいつを持ってさっさと万事屋に帰りねェ」
「なんかいつものお前らしくないアル。気色悪ぃ」
そう言うとチャイナは何故か、強引に俺の足を揃えて伸ばさせ、膝の上にドスンと座り込んだ。
「痛ェな! でかいケツで関節押さえてんじゃねェよこの野郎」
「ふざけんな。こんな美少女に座って頂けてありがたく思え、クソ野郎」
例のごとく色気もへったくれもない会話。いつもならここからいかにからかうかを楽しむのだが、今の俺には虚しいばかりだ。
「分かったから……さっさとどけよ」
目を合わせたくなくて、顔を背けながら言った。
じっと見られてるのは分かっちゃいたが、自分でも情けなくなるくらい弱気になっている今の顔を、正面に向けられるほど俺は強くはない。
「どいて欲しいならこっち向くネ」
「てめェの面なんざ見たかねぇんだよ」
「何ダヨその態度! 可愛げが無いネ」
「その言葉、そっくりそのまま返してやらぁ」
「何だとコラァ!」
胸倉に掴みかかってくるチャイナにも、やり返してやる気が起きない。
もう好きにしてくれとばかりに、ガクガク揺さぶられながらも無抵抗でいた俺だったが……ふと気付けば、俺を掴んでいる手が震えていた。
「チャイナ……?」
「何か嫌アル」
それは、消え入りそうに小さな声。驚いて視線を向ければ、そこには今まで見た事の無い表情のチャイナがいた。
「……なんでェ、その顔は」
チャイナが俺を男として認識していないのでは、と思った時とはまた違う、新たな胸の締め付けに戸惑う。何かを言わなければと俺は必死に頭を働かせたが、結局口をついたのはいつもの憎まれ口だった。
「何が嫌だってんだよ。捨てられた子犬みたいな目ェしやがって」
「うるさいネ! お前がいつもと違うから戸惑ってるだけアル!」
「別に俺は……」
もしかしてこのまま泣くんじゃないか。そんな風に思ってしまうほどに悲し気なチャイナの目を見ているのが怖くて、再び俺は目を逸らそうとした。だが強引に俺の両頬を挟み込んだチャイナの手が、それを許さない。
「目を逸らしてんじゃねェヨ! お前がおとなしかったり、こっちを見ようとしないのは何かモヤモヤするネ。お前はいつだって自分勝手でわがままで無茶苦茶でドSな幕府の犬ダロ? 私に敵うはずなんてないのに、すぐ戦いを挑んでくるような脳みそ空っぽのサド野郎だったはずアル。それなのに……」
――罵倒を浴びているのは俺じゃねぇか。傷付くのは俺のはずだろ? 何ててめェの方がそんな傷付いた顔してやがる
そう言ってやりたかったのに。
「何で急に私を見ようとしないネ? 私はお前に……」