素直じゃない君と素直になれない僕(沖神)【完結】
俺には、宇宙で最も嫌いな人間が二人いる。
一人は言わずもがなの真選組副長、土方十四郎。俺の大切な姉上の心を奪った大罪人だ。
とにかくあの野郎は、出会った瞬間からいけすかねぇ。いつの間にか俺たちの側にいて、誰彼構わず心を開かせ、挙句俺の大切なもんをことごとく奪っていきやがった。
常に虎視眈々とあいつの命を狙ってるってのに、未だに生きてのさばってやがるのが心底腹立つニコチンマヨネーズ馬鹿だ。
もう一人。こいつは土方さんより更に厄介な野郎だ。
元攘夷志士だの白夜叉だの言われちゃいるが、俺が見ているのは死んだ魚の目をしたチャランポランなうすらトンカチ。万事屋とかいう胡散臭い仕事をしてるフリしながら、周りを引っ掻き回してる害獣だ。
その癖事が起これば誰よりも強く、誰からも頼られ、誰からも守られる。
存在自体が不愉快で迷惑で、吐き気がするほど血糖値の高い糖分馬鹿だ。
そんなくず野郎たちだが、一方の嫌いレベルに変化が出てきた。っつっても最大級に嫌いな事には変わりないのだが、それに輪をかけてムカつく存在になったって事だ。
「んっとにアンタの存在は癪に障りやがるぜ。ねェ、旦那」
あれは、たまたま道でチャイナとすれ違ったとき。例のごとくぶつかり合った俺たちは、周りへの被害など全く気にする事無く戦っていた。
「何度も何度もしつこいアルよ、このドS野郎!」
「そいつは悪かったな。お前さんが消えれば、こんな不毛な戦いも終わるぜコンチクショウ」
「ふざけんなコラ。消えるのはお前ネ。さっさとくたばりやがれ」
容赦ない戦いの中の会話は、色気もへったくれもない。でも戦っている間は確実に相手しか見えていないから。俺はいつもこの空間に、奇妙な高揚感と快感を覚えていた。
それは俺とチャイナの……俺たち二人だけしか感じられないもののはずだったから。
それなのに……
「おいおい、仲が良いのも大概にしろよ。周りの迷惑考えろ」
「銀ちゃん!」
不意に現れた存在が、その空間を霧散した。
たった今まで俺を睨みつけていた瞳は一瞬で柔らかく変化し、俺の後ろに現れた銀色の髪を追いかける。
「ったくお前らはいつもいつも……もう少し周りのことも考えなさいよ。特に総一郎君は天下の警察組織の一員でしょうが」
「おたくの猛獣が暴れやがるから、排除しようとしてただけですぜィ」
「誰が猛獣アルか。お前こそゴリラの檻にさっさと戻るアル」
ベーッと舌を出し旦那のところへと走り寄るチャイナは、さっきまでの猛々しさなど全く感じられない、ただの娘になっていた。
「銀ちゃん、私ただ歩いてただけなのにこいつが突然襲ってきたアル。ほんといつもいつも迷惑ね。こんな危険な輩、さっさと消すヨロシ」
そう言って、当たり前のように旦那の手にぶら下がったビニールから酢昆布を取り出す。最初からチャイナを迎えに来るつもりで店に寄っていたんだろう。「こら、勝手に取ってんじゃねぇ!」と言いながらも、嬉しそうに酢昆布を口にするチャイナに優しい笑みを向けていた。
この姿は親子? 兄妹? それとも……
見ているだけで虫唾が走るその姿に、俺は未だ抜き身だった刀を握りしめる。
――消せちまえればどんだけ楽かってぇの。
表に出さないようにしていても、抑えきれずに吹き出してしまう苛立ちは、殺気となって旦那を襲う。
だがその殺気を物ともせず軽く受け流し、気怠そうに俺を見た旦那は言った。
「ほらほら、刀を収めなさいって。総一郎君の気持ちは分かるけど、こいつはまだまだお子ちゃまだしぃ、広い心で受け止めてやるのも男の甲斐性って奴っしょ」
「そいつぁどういう意味ですかい?」
「ん~、何て言やぁ良いのか……まぁ若いモン同士頑張れっつー事かな」
旦那が袋からもう一つの酢昆布を出し、見せつけるように高々と掲げると、チャイナが飛びつく。
「それもさっさと寄越すアル。酢昆布は誰にも渡さないね」
「世の中の酢昆布全部がお前のもんだと思うなよ、神楽。ってなわけで後は宜しくね、総一郎君。神楽もキリのいいとこで帰ってこいよ」
そう言った旦那は軽く腕を振った。その手から投げ出された酢昆布はふわりと曲線を描き、俺の手に落ちてくる。
受け止めた俺が旦那を見た時にはもう、旦那の後ろ姿は遠くなっていた。
一人は言わずもがなの真選組副長、土方十四郎。俺の大切な姉上の心を奪った大罪人だ。
とにかくあの野郎は、出会った瞬間からいけすかねぇ。いつの間にか俺たちの側にいて、誰彼構わず心を開かせ、挙句俺の大切なもんをことごとく奪っていきやがった。
常に虎視眈々とあいつの命を狙ってるってのに、未だに生きてのさばってやがるのが心底腹立つニコチンマヨネーズ馬鹿だ。
もう一人。こいつは土方さんより更に厄介な野郎だ。
元攘夷志士だの白夜叉だの言われちゃいるが、俺が見ているのは死んだ魚の目をしたチャランポランなうすらトンカチ。万事屋とかいう胡散臭い仕事をしてるフリしながら、周りを引っ掻き回してる害獣だ。
その癖事が起これば誰よりも強く、誰からも頼られ、誰からも守られる。
存在自体が不愉快で迷惑で、吐き気がするほど血糖値の高い糖分馬鹿だ。
そんなくず野郎たちだが、一方の嫌いレベルに変化が出てきた。っつっても最大級に嫌いな事には変わりないのだが、それに輪をかけてムカつく存在になったって事だ。
「んっとにアンタの存在は癪に障りやがるぜ。ねェ、旦那」
あれは、たまたま道でチャイナとすれ違ったとき。例のごとくぶつかり合った俺たちは、周りへの被害など全く気にする事無く戦っていた。
「何度も何度もしつこいアルよ、このドS野郎!」
「そいつは悪かったな。お前さんが消えれば、こんな不毛な戦いも終わるぜコンチクショウ」
「ふざけんなコラ。消えるのはお前ネ。さっさとくたばりやがれ」
容赦ない戦いの中の会話は、色気もへったくれもない。でも戦っている間は確実に相手しか見えていないから。俺はいつもこの空間に、奇妙な高揚感と快感を覚えていた。
それは俺とチャイナの……俺たち二人だけしか感じられないもののはずだったから。
それなのに……
「おいおい、仲が良いのも大概にしろよ。周りの迷惑考えろ」
「銀ちゃん!」
不意に現れた存在が、その空間を霧散した。
たった今まで俺を睨みつけていた瞳は一瞬で柔らかく変化し、俺の後ろに現れた銀色の髪を追いかける。
「ったくお前らはいつもいつも……もう少し周りのことも考えなさいよ。特に総一郎君は天下の警察組織の一員でしょうが」
「おたくの猛獣が暴れやがるから、排除しようとしてただけですぜィ」
「誰が猛獣アルか。お前こそゴリラの檻にさっさと戻るアル」
ベーッと舌を出し旦那のところへと走り寄るチャイナは、さっきまでの猛々しさなど全く感じられない、ただの娘になっていた。
「銀ちゃん、私ただ歩いてただけなのにこいつが突然襲ってきたアル。ほんといつもいつも迷惑ね。こんな危険な輩、さっさと消すヨロシ」
そう言って、当たり前のように旦那の手にぶら下がったビニールから酢昆布を取り出す。最初からチャイナを迎えに来るつもりで店に寄っていたんだろう。「こら、勝手に取ってんじゃねぇ!」と言いながらも、嬉しそうに酢昆布を口にするチャイナに優しい笑みを向けていた。
この姿は親子? 兄妹? それとも……
見ているだけで虫唾が走るその姿に、俺は未だ抜き身だった刀を握りしめる。
――消せちまえればどんだけ楽かってぇの。
表に出さないようにしていても、抑えきれずに吹き出してしまう苛立ちは、殺気となって旦那を襲う。
だがその殺気を物ともせず軽く受け流し、気怠そうに俺を見た旦那は言った。
「ほらほら、刀を収めなさいって。総一郎君の気持ちは分かるけど、こいつはまだまだお子ちゃまだしぃ、広い心で受け止めてやるのも男の甲斐性って奴っしょ」
「そいつぁどういう意味ですかい?」
「ん~、何て言やぁ良いのか……まぁ若いモン同士頑張れっつー事かな」
旦那が袋からもう一つの酢昆布を出し、見せつけるように高々と掲げると、チャイナが飛びつく。
「それもさっさと寄越すアル。酢昆布は誰にも渡さないね」
「世の中の酢昆布全部がお前のもんだと思うなよ、神楽。ってなわけで後は宜しくね、総一郎君。神楽もキリのいいとこで帰ってこいよ」
そう言った旦那は軽く腕を振った。その手から投げ出された酢昆布はふわりと曲線を描き、俺の手に落ちてくる。
受け止めた俺が旦那を見た時にはもう、旦那の後ろ姿は遠くなっていた。
1/3ページ