新しい職場は米屋。
　最近はスーパーなどで買えてしまう事から、個人のお客は見込めないと、飲食店をメインに商売をしている。
　
　今日の配達先はスナックだ。
　荷運びは力自慢の同僚に任せ、私は営業担当として取引先に向かう。受注書のチェックをしながら現地に向かうと、そこはまさかの万事屋の真下だった。
　やけに縁があるなと思いながら店に入れば、頼もしそうな女将さんが出迎えてくれる。

「ご注文の品をお届けにあがりました」
「ご苦労だったね。おや、新入りかい？」
「はい。よろしくお願いします」

　運び込んだ米袋は、この規模のお店にしては量が多い。不思議に思いながら精算していると、店の女将であるお登勢さんが、チラリと店の奥に視線を送った。
　釣られて私もそちらを見れば、大きな炊飯器から直接、しゃもじでご飯を口に運んでいる少女がいる。しかもその横では、万事屋の坂田さんも、凄まじい勢いでご飯をかき込んでいた。

「家賃もまともに払わない、タダメシの大食らいが頻繁に来るんでね。ほんと迷惑な話だよ」

　言葉はキツイが、その表情からお登勢さんが、坂田さんを大切に思っていることが分かって。

　――かぶき町のマスコット的存在なのかな？

　こちらに気付いてニッと笑った坂田さんに、私は自然と笑みを返していた。