「熱は下がったんですかィ？」
「キャッ！」

　店で作業をしていると、不意に後ろから声をかけられた。
　振り向いた先にいたのは沖田さん。私に悲鳴をあげさせたのが嬉しかったのか、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべている。

「もう、沖田さんってば……驚かさないでくださいよ」
「常に刺激がある人生ってなァ良いもんですぜ」
「こんな刺激はいりません！　でも何で熱があったことを知ってるんですか？」

　初めて会った時から遊ばれてる気がするなと思い、苦笑いしながら訊ねれば、スイ、と伸ばされた沖田さんの手。

「……え？」

　気がついた時にはもう、その手は私の額に当てられていた。

「店に出てんだから下がってて当然か。土方のヤローが気にしてたんで、巡察がてら確認に来たんでさァ」
「土方さんが？」

　思いもよらぬ事を聞かされ「しまった」と思う。額に触れた沖田さんの手が照れくさくもあって、一歩下がった私は深々と頭を下げた。

「そんなに気にしてくださってたなんて……すみません。今度またいつものお店でお会いした時にお礼を言おうと思ってたんです。職場に伺って良いものか分からなくて……でも今日の仕事が終わったら直接お礼を言いに伺います。土方さんにそうお伝え頂けますか？」

　一気に言い切り、ゆっくりと頭を上げる。すると私を見る沖田さんの瞳が少しだけ揺れていた。

「沖田さん……？」
「アンタ、土方のヤローと懇意なんですかィ？」
「え？　懇意……と言うほどでは無いですが、色々とお世話になってるんです」
「色々と、ねェ……」

　そう言った沖田さんからほんの一瞬冷たいものを感じたのは、きっと私の気のせいだろう。