「かぶき町を案内してやるネ」

　そんなお誘いがあったのは、一昨日の昼頃。
　わざわざ職場まで来て声をかけてくれたのは、もちろん神楽ちゃんだ。

「お休みの日くらい目一杯お洒落するネ」

　よく分からない指示に首を傾げながらも、せっかくだからと久しぶりのお洒落をする。待ち合わせ場所である『スナックお登勢』の前に行くと、何故かそこには坂田さんが立っていた。

「神楽に町を案内しろって言われてよォ」

　怠そうに頭を掻く坂田さんに、どう答えていいか分からず困っているとーー。

「優花里ちゃんはどうしたいか、自分の意見を言ってみな」
「お、お願いしたいですっ！」

　咄嗟に叫んだ私を見て、坂田さんはフッと優しく微笑んでくれる。

「んじゃ、かぶき町ツアーと洒落込みますか」

　ポン、と私の頭を叩いた坂田さんは、賑やかな商店街の方へと歩き始めた。
　慌てて追いかける私に聞こえてきたのは、坂田さんの小さく呟く声。

「あんま可愛いカッコで並ばれると、照れくせェんだよなァ」

　……これは聞かなかった事にした方がいいのかな？