夕べ、一週間ぶりに実家に帰っていた私は、淹れ立てのコーヒーの香りで目を覚ました。

「おはよう」
「おはよう。もうすぐパンが焼けるから座っててね」

　テーブルの上には、いつものように朝食が並べられていた。
　既に食卓に着いていた父を交え、この一週間の出来事を話す。
　相槌を打って耳を傾けてくれる父。
　にこにこと笑顔で聞いてくれる母。
　ずっと当たり前だったこの温もりを、自ら手離してしまった事に後悔した私は、少しだけくじけそうになっていた。
　――ところが。

「そうそう、引っ越しの時に来てくれた坂田さんには会ってるの？」
「……はい？」

　突然振られた話に、私は疑問符を飛ばす。

「何でいきなり坂田さんの名前が出てくるの？」
「引っ越しの最中に、私が優花里ちゃんの一人暮らしを心配してたらね、坂田さんが言ってくれたのよ。『何かあったらすぐ駆け付けるから大丈夫』って。気になる事があれば電話しろって、改めて万事屋銀ちゃんの名刺も渡してくれたのよ」
「坂田さんが……？」
「お陰で安心して優花里ちゃんを送り出す事が出来たわ」
「そうだったんだ……」

　驚きながらもお母さんの言葉でふと思い出したのは、あの時の坂田さんの言葉。

『初めての一人暮らしなんだろ？　頑張んな。ま、困ったことがあったらいつでも銀さんの所に来なさい』

　――かぶき町の有名人っていうのが、ちょっと分かった気がするな。