第3章 接触
「ふん、呆気ない。次は?」
蘭の向いた先には、二人。誘われるように振り上げられた二本の刀が蘭の姿を見失い、地面に落ちた音を立てた時にはもう、持ち主はその意識を手放していた。
「なっ……!」
一瞬の事で、何が起こったのかが分からない。
自分の刀も持っていなかったこの若者が、あっさりと三人の男を倒してしまうというのは俄かに信じがたく、残りの男達もなかなか状況を把握できないようだ。
「何だ、これだけ人数がいても大したことないな。残りは……四人か」
蘭は目の前に立っている人数を確認すると、先程奪った刀を見た。
「せっかくこれがあるんだし、使ってみるか」
腰を落とし、刀を構える。その見た目は何かの型と言うには滑稽なのだが、不思議と蘭を大きく見せた。
「……行く」
ザンッ! と蘭が地面を蹴る音がした。
続いて聞こえたのは、血飛沫をあげながらドサリと男達が倒れる音。蘭の刀は一瞬にして、全員を屠っていた。
「つまらん」
大の男を七人も地に叩き伏せたというのに、蘭にとっては取るに足らない事だったようだ。
「八木さん……だったか? 怪我は無いようだな。私の言いつけ通り、そこから動かなかったのは良かった」
蘭はたった今使ったばかりの刀を投げ捨てながら、八木に声をかけた。
「へぇ、お陰さんで……おおきに。しかしお強いんどすなぁ。あっという間に七人も」
一部始終を見ていた八木は、感嘆するしかない。八木も今迄に腕の立つ者を数多く見て来ているが、ここまで強い者は記憶に無かった。
しかも良く見れば、返り血一つ浴びていない。そのあまりに強すぎた戦いぶりはまるで、絵物語のように現実味が無く。
蘭は動かなかったと言ったが実の所、八木は恐怖も忘れて蘭の戦いぶりに見入っていて。その場を動かなかったのではなく、動けなかったのだった。
「こいつらは、道場剣術しか知らない輩だろう。場数を踏んでいない奴など恐るるに足らずだ」
「そうどすか……あんたはんは、そないに場数を踏んできはったんやろか?」
「さぁ、な」
蘭は、答えを濁した。
少し喋りすぎたと思っているのだろうか。今は何を言っても、答えてはくれないだろう。八木はそう感じた。
「何にしても助かりましたわ。雇わせてもろたって事で報酬をお支払いしたいんどすが、生憎急な事で持ち合わせがありまへんのや。どないしまひょ? お届けにあがるならお住まいを教えて頂くか、お時間がおありどしたら、わては壬生に住んどりますさかい、寄って頂ければそこで」
「壬生……」
壬生なら今いる場所からそう遠くは無い。蘭としても、自らの塒を知られるのは好ましくなかった。
「ならば伺おう」
「へえ。ではお出で下さい」
その言葉に八木が歩き出す。気が付けば雨は上がり、雲の隙間から日差しが見え始めていた。
道すがら、ふと蘭が呟いた。
「そう言えば、さっきの奴らはあのままで良いんだろうか」
それに八木が、笑いながら答える。
「何の問題もありまへん。わてがあんじょう取り成しときますえ」
「そうか、なら良い」
最初の三人は、ただ気絶しているだけだ。
――今から役人に届け出た所で、誰かが行く頃には逃げられているかもしれないな……
ふとそれを思い出したが、蘭にとって終わった事はどうでも良く。次の瞬間にはもう、報酬の事だけしか頭に無いようだった。
蘭の向いた先には、二人。誘われるように振り上げられた二本の刀が蘭の姿を見失い、地面に落ちた音を立てた時にはもう、持ち主はその意識を手放していた。
「なっ……!」
一瞬の事で、何が起こったのかが分からない。
自分の刀も持っていなかったこの若者が、あっさりと三人の男を倒してしまうというのは俄かに信じがたく、残りの男達もなかなか状況を把握できないようだ。
「何だ、これだけ人数がいても大したことないな。残りは……四人か」
蘭は目の前に立っている人数を確認すると、先程奪った刀を見た。
「せっかくこれがあるんだし、使ってみるか」
腰を落とし、刀を構える。その見た目は何かの型と言うには滑稽なのだが、不思議と蘭を大きく見せた。
「……行く」
ザンッ! と蘭が地面を蹴る音がした。
続いて聞こえたのは、血飛沫をあげながらドサリと男達が倒れる音。蘭の刀は一瞬にして、全員を屠っていた。
「つまらん」
大の男を七人も地に叩き伏せたというのに、蘭にとっては取るに足らない事だったようだ。
「八木さん……だったか? 怪我は無いようだな。私の言いつけ通り、そこから動かなかったのは良かった」
蘭はたった今使ったばかりの刀を投げ捨てながら、八木に声をかけた。
「へぇ、お陰さんで……おおきに。しかしお強いんどすなぁ。あっという間に七人も」
一部始終を見ていた八木は、感嘆するしかない。八木も今迄に腕の立つ者を数多く見て来ているが、ここまで強い者は記憶に無かった。
しかも良く見れば、返り血一つ浴びていない。そのあまりに強すぎた戦いぶりはまるで、絵物語のように現実味が無く。
蘭は動かなかったと言ったが実の所、八木は恐怖も忘れて蘭の戦いぶりに見入っていて。その場を動かなかったのではなく、動けなかったのだった。
「こいつらは、道場剣術しか知らない輩だろう。場数を踏んでいない奴など恐るるに足らずだ」
「そうどすか……あんたはんは、そないに場数を踏んできはったんやろか?」
「さぁ、な」
蘭は、答えを濁した。
少し喋りすぎたと思っているのだろうか。今は何を言っても、答えてはくれないだろう。八木はそう感じた。
「何にしても助かりましたわ。雇わせてもろたって事で報酬をお支払いしたいんどすが、生憎急な事で持ち合わせがありまへんのや。どないしまひょ? お届けにあがるならお住まいを教えて頂くか、お時間がおありどしたら、わては壬生に住んどりますさかい、寄って頂ければそこで」
「壬生……」
壬生なら今いる場所からそう遠くは無い。蘭としても、自らの塒を知られるのは好ましくなかった。
「ならば伺おう」
「へえ。ではお出で下さい」
その言葉に八木が歩き出す。気が付けば雨は上がり、雲の隙間から日差しが見え始めていた。
道すがら、ふと蘭が呟いた。
「そう言えば、さっきの奴らはあのままで良いんだろうか」
それに八木が、笑いながら答える。
「何の問題もありまへん。わてがあんじょう取り成しときますえ」
「そうか、なら良い」
最初の三人は、ただ気絶しているだけだ。
――今から役人に届け出た所で、誰かが行く頃には逃げられているかもしれないな……
ふとそれを思い出したが、蘭にとって終わった事はどうでも良く。次の瞬間にはもう、報酬の事だけしか頭に無いようだった。