第8章 憐憫
微妙ながらも和やかに夕食を終えると、新選組の者達は各々自分達の部屋へと戻っていき。残された蘭は、雅の命により後片付けを手伝わされていた。
「落ち着いて観察しとると、おもろい連中やろ?」
雅が笑いながら言う。
確かに食事中の彼らは、今まで蘭が見ていた姿とは違って、どこにでもいる普通の若者たちだった。
国を憂い、仲間を思い。強さを求め、純粋で真っ直ぐな心を持っている。そんな彼らが食事をしながら語り合う姿を、蘭は最後まで黙って見ていた。
だがーー。
「そう見えるように誘導したんだろう。彼らの本音を引き出し、語らせたのはあんただ」
洗った器を重ねながら雅を見る。どうやら蘭には、全てが雅の掌の上の事のように思えてならないらしい。
「ずっと気になっていた。あんたは初めて私を見た時から、一貫して私を庇おうとしていた。叔母だからと言ってはいるが、他にも私に深く関わろうとする何かがあるんじゃないのか? 新選組にも肩入れしているようだが、私には裏があるようにしか見えない」
「そうか? 別に裏も表も無いんやけどな」
カラカラと笑いながら答える雅に、疑いの眼差しを向ける蘭。だがどんなに腹の内を探ろうとしても、そこは経験値の差とでも言おうか。何も読み取る事は出来ないようだ。
そんな蘭に、雅は苦笑いをしながら言った。
「なんや色々想像しとるみたいやけど、まぁあの連中に語らせたんはあんたの言う通りや。こちらの情報を与えたんやし、あちらの情報もいただかな割に合わんやろ?」
新選組に蘭の素性を教えた以上、新選組の面々について蘭も知る必要があると考えたわけだ。
「ただ闇雲に暴れているような輩や無い事はよう分かったやろ。少しは彼らを見直したんと違うか? 特に土方はんあたり、な」
そう言えば、やけに土方が饒舌だったなと思い返している蘭に、雅がにやりと笑みを見せる。
「少し強めの酒を混ぜといたんや。あの人偉そうにしとるけど、実は酒に弱いっちゅー可愛いとこもあってな。多分今頃は潰れてはるえ」
「あんたは鬼か……」
「失礼な! 鬼は土方はんなんえ。間違うたらあかん」
楽しそうな雅の姿に、蘭はもう何も言う気が起きなかった。ただ、初めて土方を気の毒に思った事は間違いない。
「ま、とりあえず片付けは終わったし、今日はもう寝よか。さっき少し寝たとはいえ、あんたも疲れが溜まっとるはずや。朝ここに来てからあまりにも色々ありすぎたしな。今夜はゆっくりしぃや」
ポン、と蘭の頭に手を乗せて優しく髪を撫でた雅は、そのまま蘭の頭に何かを置く。
「何だ?」
不機嫌そうに言った蘭が頭に手を伸ばすと、そこには子供達が金平糖を持ってきたと時と同じ、だがこちらはとても綺麗な折り紙の箱が乗せられていた。
中に入っていたのは、煮干し。
「 一応子供らに世話はさせといたけど、一番懐いとるのはあんたやし、ちゃんと見たりや。ほなお休み」
母が子を見るような温かな笑みが、蘭を包み込む。戸惑いつつも小さく頷いた蘭は、踵を返して自分の部屋へと向かった。
そして、階段を上りながら呟く。
「……お休み……なさい……」
薄っすらと頬を赤らめながら言ったその声はあまりにも小さすぎて。雅の耳に届く事は無かった。
「落ち着いて観察しとると、おもろい連中やろ?」
雅が笑いながら言う。
確かに食事中の彼らは、今まで蘭が見ていた姿とは違って、どこにでもいる普通の若者たちだった。
国を憂い、仲間を思い。強さを求め、純粋で真っ直ぐな心を持っている。そんな彼らが食事をしながら語り合う姿を、蘭は最後まで黙って見ていた。
だがーー。
「そう見えるように誘導したんだろう。彼らの本音を引き出し、語らせたのはあんただ」
洗った器を重ねながら雅を見る。どうやら蘭には、全てが雅の掌の上の事のように思えてならないらしい。
「ずっと気になっていた。あんたは初めて私を見た時から、一貫して私を庇おうとしていた。叔母だからと言ってはいるが、他にも私に深く関わろうとする何かがあるんじゃないのか? 新選組にも肩入れしているようだが、私には裏があるようにしか見えない」
「そうか? 別に裏も表も無いんやけどな」
カラカラと笑いながら答える雅に、疑いの眼差しを向ける蘭。だがどんなに腹の内を探ろうとしても、そこは経験値の差とでも言おうか。何も読み取る事は出来ないようだ。
そんな蘭に、雅は苦笑いをしながら言った。
「なんや色々想像しとるみたいやけど、まぁあの連中に語らせたんはあんたの言う通りや。こちらの情報を与えたんやし、あちらの情報もいただかな割に合わんやろ?」
新選組に蘭の素性を教えた以上、新選組の面々について蘭も知る必要があると考えたわけだ。
「ただ闇雲に暴れているような輩や無い事はよう分かったやろ。少しは彼らを見直したんと違うか? 特に土方はんあたり、な」
そう言えば、やけに土方が饒舌だったなと思い返している蘭に、雅がにやりと笑みを見せる。
「少し強めの酒を混ぜといたんや。あの人偉そうにしとるけど、実は酒に弱いっちゅー可愛いとこもあってな。多分今頃は潰れてはるえ」
「あんたは鬼か……」
「失礼な! 鬼は土方はんなんえ。間違うたらあかん」
楽しそうな雅の姿に、蘭はもう何も言う気が起きなかった。ただ、初めて土方を気の毒に思った事は間違いない。
「ま、とりあえず片付けは終わったし、今日はもう寝よか。さっき少し寝たとはいえ、あんたも疲れが溜まっとるはずや。朝ここに来てからあまりにも色々ありすぎたしな。今夜はゆっくりしぃや」
ポン、と蘭の頭に手を乗せて優しく髪を撫でた雅は、そのまま蘭の頭に何かを置く。
「何だ?」
不機嫌そうに言った蘭が頭に手を伸ばすと、そこには子供達が金平糖を持ってきたと時と同じ、だがこちらはとても綺麗な折り紙の箱が乗せられていた。
中に入っていたのは、煮干し。
「 一応子供らに世話はさせといたけど、一番懐いとるのはあんたやし、ちゃんと見たりや。ほなお休み」
母が子を見るような温かな笑みが、蘭を包み込む。戸惑いつつも小さく頷いた蘭は、踵を返して自分の部屋へと向かった。
そして、階段を上りながら呟く。
「……お休み……なさい……」
薄っすらと頬を赤らめながら言ったその声はあまりにも小さすぎて。雅の耳に届く事は無かった。