第8章 憐憫
次の瞬間、ばさりと掛け布団が大きく跳ねあがる。
「……っ!」
咄嗟に皆が膝を立てて再び布団が元の位置に戻った時には、雅が枕元に置いていた刀は消え、人のいない庭を背にして抜き身を構えた蘭の姿があった。と同時に、部屋に緊張感が走る。
「これは一体どういう事だ?」
部屋を見渡し、状況を把握しようとしている蘭に雅が答えた。
「あんたが気絶してそのまま寝てしもてる間、新選組に素性を話しとったんや。もう彼らはあんたを狙うたりはせんしな」
「私の……素性だと……?」
乱れた髪の隙間から覗く瞳から感じられるのは、怒りと戸惑い。蘭にとって自らの素性は、秘しておきたい物であるという事か。
「何故私の素性を知っている? お前は一体何者だ?」
「そやから言うたやろ。あんたの叔母に当たるモンや」
雅はそう言いながらゆっくりと立ち上がると、蘭に歩み寄ろうとした。その動きに合わせて新選組の者達に刀を向けながら、目は雅を見て蘭はゆっくりと下がっていく。
だが皆が次の動きを考えあぐねる中、ただ一人あっけらかんとした調子で蘭に話しかける者がいた。
「なぁ蘭。そんなに警戒しなくても、俺達はお前を襲ったりしねぇからさ。刀を収めてくれよ」
蘭が意識を取り戻したのが嬉しかったのか、にこにこと蘭に話しかける平助。その無邪気な笑顔は一瞬で皆の緊張感を解いてしまう。それは蘭も同じだったらしく、周りの者達に殺気が無いのを確認すると、小さなため息と共に刀を下ろした。
「目が覚めたら取り囲まれてたなんて、誰だって驚いちまうよな」
ちょいちょい、と平助が刀を指さしている事に気付き、蘭が抜き身を鞘に収める。それを見届けると、平助は蘭に歩み寄り手を差し伸べた。
「ほら、こっち来いよ。今お前の事を話してたんだ。色々大変だったみたいだな」
先程までとは打って変わり、目玉が飛び出そうな程に驚いた表情をしている蘭。それは他の者達も同様で、全く空気を読まずに行動している平助を、ただただ唖然と見つめていた。
「お前は……今のこの状況を何とも思っていないのか?」
「へ? 何を?」
「……いや、もういい。お前に聞いた私が馬鹿だったようだ」
「え? 蘭って馬鹿だったの?」
その言葉に文字通り閉口してしまった蘭は、もう平助の言葉に耳を傾ける気はないようだ。
「どんな話をしたのかは知らないが、私はお前達と関わって行く気は毛頭無い」
そう冷たく言い放つと、玄関へと向かって歩き出す。そのまま出て行こうと、草履を履きかけた時だった。
「……っ!」
咄嗟に皆が膝を立てて再び布団が元の位置に戻った時には、雅が枕元に置いていた刀は消え、人のいない庭を背にして抜き身を構えた蘭の姿があった。と同時に、部屋に緊張感が走る。
「これは一体どういう事だ?」
部屋を見渡し、状況を把握しようとしている蘭に雅が答えた。
「あんたが気絶してそのまま寝てしもてる間、新選組に素性を話しとったんや。もう彼らはあんたを狙うたりはせんしな」
「私の……素性だと……?」
乱れた髪の隙間から覗く瞳から感じられるのは、怒りと戸惑い。蘭にとって自らの素性は、秘しておきたい物であるという事か。
「何故私の素性を知っている? お前は一体何者だ?」
「そやから言うたやろ。あんたの叔母に当たるモンや」
雅はそう言いながらゆっくりと立ち上がると、蘭に歩み寄ろうとした。その動きに合わせて新選組の者達に刀を向けながら、目は雅を見て蘭はゆっくりと下がっていく。
だが皆が次の動きを考えあぐねる中、ただ一人あっけらかんとした調子で蘭に話しかける者がいた。
「なぁ蘭。そんなに警戒しなくても、俺達はお前を襲ったりしねぇからさ。刀を収めてくれよ」
蘭が意識を取り戻したのが嬉しかったのか、にこにこと蘭に話しかける平助。その無邪気な笑顔は一瞬で皆の緊張感を解いてしまう。それは蘭も同じだったらしく、周りの者達に殺気が無いのを確認すると、小さなため息と共に刀を下ろした。
「目が覚めたら取り囲まれてたなんて、誰だって驚いちまうよな」
ちょいちょい、と平助が刀を指さしている事に気付き、蘭が抜き身を鞘に収める。それを見届けると、平助は蘭に歩み寄り手を差し伸べた。
「ほら、こっち来いよ。今お前の事を話してたんだ。色々大変だったみたいだな」
先程までとは打って変わり、目玉が飛び出そうな程に驚いた表情をしている蘭。それは他の者達も同様で、全く空気を読まずに行動している平助を、ただただ唖然と見つめていた。
「お前は……今のこの状況を何とも思っていないのか?」
「へ? 何を?」
「……いや、もういい。お前に聞いた私が馬鹿だったようだ」
「え? 蘭って馬鹿だったの?」
その言葉に文字通り閉口してしまった蘭は、もう平助の言葉に耳を傾ける気はないようだ。
「どんな話をしたのかは知らないが、私はお前達と関わって行く気は毛頭無い」
そう冷たく言い放つと、玄関へと向かって歩き出す。そのまま出て行こうと、草履を履きかけた時だった。