第8章 憐憫

 眠っている蘭を挟むようにして向かい合わせに座った雅と新選組の面々は、しばし相手の出方を見るべく沈黙を保っていた。中でも雅と土方は、目でお互いの腹の内を探り合っている。

「ったく……どうしていつもこの二人はこうなるかな」

 相変わらず蘭の傍らに寄り添うように座っている平助が言う。その言葉に、土方はギロリと平助を睨んだ。

「俺たちに隠し事をしてるからに決まってるからだろうが! ってーか平助! なんでお前はそっち側に座ってんだよ。テメェは新選組の人間だろうが!」

 平助が座っているのは、蘭の傍らであると共に、蘭を挟んでこちら側。要するに雅の側に座っているわけだ。

「同じ部屋なんだし、最初からここに座ってたんだから別に良いだろ? 土方さんっていつも変なところに細けぇよな」

 ぷくっと頬を膨らませた平助は、じっとりとした目で土方を見る。その姿にチッと大きく舌打ちをすると、土方は言った。

「とにかくきちんと話を聞かせてもらうからな、雅さんよ」

 近藤にチラリと視線を向け、頷き合うのを見て雅も覚悟を決めたのだろう。蘭に視線を向けながら、ゆっくりと話し出した。

「さっきも言うたように、蘭はうちとは血の繋がりは無いけど、立場的には姪に当たるんや。その確証が取れたんはついさっきでな。正直まだうちも混乱しとる」

 そう言って雅が目の前に差し出したのは、蘭の刀。

「これがうちの実兄の物やと分かったんは、斎藤はんが砥いで届けてくれはった時や。そん時初めてじっくりと鍔を見て、兄の拵えいう事に気付いたんや。あとは……これ」

 柄頭を器用に外し、中から小さな紙を取り出す。そこには意味不明の形がいくつも書かれていた。

「未だうちが子供のころ、兄と暗号を作って遊んでたことがあってな。それが書き込まれとった。内容は、蘭を守って欲しいっちゅー事やったわ」
「他の間者が書いたもので、偶然あんたのやり方で読めちまったって事はねぇのか?」

 疑わしげに言う土方に、雅は首を振る。

「それは無いな。兄である証拠の印もあるし、この刀自体が間違いなく兄のモンや」

 柄頭を元に戻した雅は、刀を愛おしそうに抱えて言った。

「蘭は……この刀をずっと持っててくれはったんや。どんな理由があるかは知らんけど、あんたらも見て分かる通り、それはそれは大事にしてくれてたんやろなぁ……」

 刀を抱えたまま、そっと蘭の前髪をかき上げてやる。深い眠りに就いている蘭の表情はあどけなく、だが目の下の傷跡は痛々しくて、見ている者達に複雑な感情を覚えさせた。
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