第2章 興味
それから数日が経ち。
今日もまた、蘭は京の町を縦横無尽に歩き回りながら獲物を探しては、見事なスリの才能を発揮していた。だが収穫は多いにもかかわらず、その表情は何故か浮かない。
「さっきから邪魔くさいな……」
さり気なく周囲の気配を探る。
先程から何者かが、陰で蘭に張り付いているようだ。暫くは様子を見ていた蘭だったが、それが先日の二人だという事に気付くと、大きく溜息を吐いた。
「とことんしつこい奴らだな。今度はもっとしっかりと叩きのめすべきか?」
腰の刀を見て、苦笑いしながらポツリと呟く。
実際のところ、蘭の腕からすれば敵を倒す事など容易い。だが刀を使えば手入れをせねばならず、面倒くさい。その気持ちが、相手をしようという気持ちを萎えさせていた。
「……撒く、か」
何事も無いようにフラフラと歩き、さり気なく路地へと入って行く。だがその直後、つけてきていた二人がその路地に入ると――既に蘭の姿は無かった。
「そんな馬鹿な! 此処は一本道だし、隠れられる場所だって無い! 一体何処に……」
総司が塀を殴って悔しがる。
しかしその蘭はと言うと、まさに今総司が殴りつけている塀の向こうにいた。
「総司という奴は、腕は立つ方だが少々洞察力に欠けるか? 猪突猛進ってやつだな」
ふん、と鼻で笑うと、蘭はその場を立ち去ろうとした。
ところがである。
「総司! 見てよここ。塀に足跡のような物がある! これ、ひょっとして塀を乗り越えたんじゃないか?」
「足跡?」
平助の声に総司が近寄ると、確かに塀には縦にいくつかの足跡があった。それはパッと見には分かりにくく、目にしても単なる汚れか何かとしか思えない物。余程意識していなければ、見逃していただろう。
「総司、ちょっと退いてて」
平助はそう言って足跡のある塀の周辺を開けさせ、少し離れた所から勢いをつけると、塀に向けて走った。
「よっ!」
器用に塀に足をかけ、駆け上がる。
「総司、見つけた!」
塀の上に手をかける事が出来た平助が中を覗き込むと、そこに立っていたのは蘭。立ち去ろうとしていたのだが、平助が気付いた事に感心し、そのまま聞き耳を立てていたようだ。
「こいつは洞察力と機敏性に優れているようだな。あれに気付くとは……とことん面倒くさい」
塀を上りきり、下に飛び降りた平助は早速刀を構え、じりじりと間合いを詰めてきた。
「あんた、さっきからいくつも財布をスってるよね。俺は新選組の副長助勤、藤堂平助だ。あんたをスリの容疑で捕縛するよ」
「新選組……」
蘭が呟く。
前髪で目が隠れてしまっている為表情は分からないが、何かを考えているらしい。小さく左右に首を傾げていたが、最後にポンと手を叩いて言った。
「知らん」
「はあ!?」
平助が思わず声を上げる。
『新選組』の名を賜ってこの時既に半年余り。それなりに京の町にも浸透してきているはずだが、ここに全く存在を知らない者がいる。それが平助には地味に衝撃だったようだ。
「お前さぁ、スリで生計立ててるんだよな? だったら京の治安を守る新選組を知らなきゃおかしくねぇ? 今まで追われて冷や汗かいた事ってねぇのかよ」
「無い」
そう言うと、蘭はあっさりと背中を向けた。
今日もまた、蘭は京の町を縦横無尽に歩き回りながら獲物を探しては、見事なスリの才能を発揮していた。だが収穫は多いにもかかわらず、その表情は何故か浮かない。
「さっきから邪魔くさいな……」
さり気なく周囲の気配を探る。
先程から何者かが、陰で蘭に張り付いているようだ。暫くは様子を見ていた蘭だったが、それが先日の二人だという事に気付くと、大きく溜息を吐いた。
「とことんしつこい奴らだな。今度はもっとしっかりと叩きのめすべきか?」
腰の刀を見て、苦笑いしながらポツリと呟く。
実際のところ、蘭の腕からすれば敵を倒す事など容易い。だが刀を使えば手入れをせねばならず、面倒くさい。その気持ちが、相手をしようという気持ちを萎えさせていた。
「……撒く、か」
何事も無いようにフラフラと歩き、さり気なく路地へと入って行く。だがその直後、つけてきていた二人がその路地に入ると――既に蘭の姿は無かった。
「そんな馬鹿な! 此処は一本道だし、隠れられる場所だって無い! 一体何処に……」
総司が塀を殴って悔しがる。
しかしその蘭はと言うと、まさに今総司が殴りつけている塀の向こうにいた。
「総司という奴は、腕は立つ方だが少々洞察力に欠けるか? 猪突猛進ってやつだな」
ふん、と鼻で笑うと、蘭はその場を立ち去ろうとした。
ところがである。
「総司! 見てよここ。塀に足跡のような物がある! これ、ひょっとして塀を乗り越えたんじゃないか?」
「足跡?」
平助の声に総司が近寄ると、確かに塀には縦にいくつかの足跡があった。それはパッと見には分かりにくく、目にしても単なる汚れか何かとしか思えない物。余程意識していなければ、見逃していただろう。
「総司、ちょっと退いてて」
平助はそう言って足跡のある塀の周辺を開けさせ、少し離れた所から勢いをつけると、塀に向けて走った。
「よっ!」
器用に塀に足をかけ、駆け上がる。
「総司、見つけた!」
塀の上に手をかける事が出来た平助が中を覗き込むと、そこに立っていたのは蘭。立ち去ろうとしていたのだが、平助が気付いた事に感心し、そのまま聞き耳を立てていたようだ。
「こいつは洞察力と機敏性に優れているようだな。あれに気付くとは……とことん面倒くさい」
塀を上りきり、下に飛び降りた平助は早速刀を構え、じりじりと間合いを詰めてきた。
「あんた、さっきからいくつも財布をスってるよね。俺は新選組の副長助勤、藤堂平助だ。あんたをスリの容疑で捕縛するよ」
「新選組……」
蘭が呟く。
前髪で目が隠れてしまっている為表情は分からないが、何かを考えているらしい。小さく左右に首を傾げていたが、最後にポンと手を叩いて言った。
「知らん」
「はあ!?」
平助が思わず声を上げる。
『新選組』の名を賜ってこの時既に半年余り。それなりに京の町にも浸透してきているはずだが、ここに全く存在を知らない者がいる。それが平助には地味に衝撃だったようだ。
「お前さぁ、スリで生計立ててるんだよな? だったら京の治安を守る新選組を知らなきゃおかしくねぇ? 今まで追われて冷や汗かいた事ってねぇのかよ」
「無い」
そう言うと、蘭はあっさりと背中を向けた。