第7章 胸裏

「あんたが持ってる刀は、うちの兄の物やった。つまりうちは、血は繋がらんけどあんたの叔母って事や」

 雅の言葉に、これ以上ないくらい蘭の目が見開かれる。そんな蘭の頬を、雅の手が優しく包み込んだ。

「あんたの事を、ずっと探しとったんや。今まで一人でよう頑張ったな、蘭」
「嘘だ……そんな事を言って、また……騙されない! 私は絶対……っ!」
「嘘やない。ついさっき確認も取れたんや。うちが知ってる話は全部聞かしたるし、部屋に戻ろな、蘭」

 雅の言葉に嘘が無いのは分かっている。だがこれまでの経験が、それを素直に受け入れさせてはくれない。

「私……私は……っ!」

 頭の中が混乱し、体の自由が利かなくなる。

「蘭っ!」

 頭を抱え、頽れるように倒れる蘭をギリギリの所で平助が受け止めると、その腕の中で蘭はゆっくりと意識を手放していった。

「蘭……」

 心配そうに蘭を見つめる平助に、雅が微笑む。そして蘭が間違いなく気を失っているだけだという事を確認すると、平助に向けて言った。

「藤堂はんがおってくれて助かったわ。さっきまで使うてた布団に寝かせてやってくれはりますやろか」
「分かった!」

 雅の言葉にうなずくと、平助は早速蘭を抱えて部屋へと戻る。他の者達はそれを見送りながら、雅の元へと集まってきた。

「……これはどういう事なんだ? 雅さんよ。」

 眉間に皺を寄せ、威嚇するように怒りをあらわにしながら土方が言う。もちろん雅に効果などありはしないが。

「今日一日で、あまりにも色々あってやからな……さすがに蘭も付いていかれへんようになったんやろ。まずは一晩ゆっくり寝かしたらなあかんな」
「そういう事じゃねぇ! 俺が知りたいのはあんたとあいつの関係だ!」

 雅の目をまっすぐに見る土方には、必ず全てを明かさせてやると言う気概が現れていた。

「最初からあんた達夫婦が何かを知っているのだろうとは思っていたが、思い切り繋がりがあるみたいじゃねぇか。俺たちの目の前でそれがはっきりとした以上、きちんと話を聞かせてもらうぜ」

 土方の後ろでは、総司と一が睨むように雅を見つめている。
 そんな彼らに雅は小さく笑うと、肩を竦めて言った。

「そうやなぁ……まぁ蘭の事くらいは知っておいてもうた方が良さそやし。でも未だうちも確認が取れてない部分があるよって、八木と話をしておくわ。半刻後に奥の間に集まっとくれやす」

「あ、人数は最低限にしてや。狭いし」と付け加えた雅は彼らに何も言わせず、さっさと踵を返して部屋へと戻ってしまう。残された土方たちは、苦虫を噛み潰した表情でそれを見送った。

「相変わらず強引な人ですね。まぁ後で近藤さんも含めてきちんと話を聞かせてもらいましょう」

 嘆息しながら総司が言うと、眉間の皺を深くしながら土方が頷く。
 一と山崎も、複雑な表情を浮かべながら土方にならって頷くのだった。
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