第6章 秘匿
「ちょ、無理だって! 俺は……!」
必死に引き止めようとする平助に、八木が足を止める。だがそれは平助の言葉に対してでは無く、
「あぁそうそう、巡察が終わってからでええし、蘭の刀を見たってや。そんで状態によって研ぐか新しいのを買うかしたって欲しいんや。金はツケといてくれたらええし」
という伝え忘れを思い出しての物。
「ええ~~! だったら非番の誰かに……」
八木の言葉に反論した平助だったが、雅はそれを最後まで言わせてはくれなかった。
「いや、藤堂はんがええんや。今は……な」
「何だよ『今は』って。雅さんが言う事、いつも分かんねーんだよなぁ」
どうやら新選組の面々の前でも、雅は謎の言葉をよく発しているようだ。
それはさておき、終始困り顔の平助を残したまま、今度は振り返りもせず二人は屋敷に入ってしまった。
「迎えに来んかったら……分かってはるよな」
雅の背から聞こえた最後の一言に震え上がりながら、平助はそれを見送る。
「あの夫婦……絶対俺達新選組より強いよな。用心棒なんて必要なさそうじゃん。っていうか、どうすりゃ良いんだよ、俺は。蘭と一緒に巡察なんて、土方さんにどう言えば……」
うあ~~っ!と頭を掻きむしる平助に、手を差し伸べてくれる者はいない。大きく肩を落とすと、諦めたようにため息を吐いた平助は、重い足取りで土方の元へと向かったのだった。
だが、意外にあっさりと、その許可は下りる。
「良いんじゃねぇか? 八木さんが言うんならよ」
「へ? 土方さんなら絶対反対すると思ってたのに……八木さんから袖の下でももらったのか?」
驚いて思わず言った平助に、土方の拳骨が落ちた。
「ってぇ! 何すんだよ!」
「お前が馬鹿な事を言うからだ! 袖の下なんてあるわきゃねぇよ。どうせ蘭を連れて行けってのは雅さんの考えだろ? って事は、何か裏があるはずだ」
「裏? 何だよ裏って」
なかなか消えない殴られた痛みに、恨めしそうな目をしながら平助が問う。
「俺だって知らねぇよ。だが動いていれば何かが見えてくるだろうさ。ま、彼奴は強いから、いざ斬り合いになっても足枷にはならねぇ。その点は気楽だな」
存外軽い答えに、平助は拍子抜けした。そしてがっくりと肩を落とす。
「何でこういう時に限って承服しちゃうかなぁ。だったらせめて、他の奴にさ……」
「何だ、不服か? 結構気に入ってたじゃねぇか。彼奴の事をよ」
「土方さんまでそういう事言うのかよ……」
ぷうっと風船のように頬を膨らませた平助は、心底困った顔をしている。それを面白そうに見ていた土方だったが、ふと何かに気付いたように言った。
「蘭を連れて行けと八木さんが言った時、他にも何か言ってなかったか?」
「ええ? 他に? ……八木さんは、蘭の刀を見てやれって言ってたな。あと……そうそう、雅さんが、今は俺が良いって。何なんだよな、もう」
「……そうか、分かった。まぁ御指名なんだし、とりあえず頑張ってこい。話は終いだ」
強引に話を打ち切られて不満そうな平助だったが、土方にじろりと睨まれ、慌てて部屋を飛び出した。
障子戸も締めず、廊下に出てすぐ「あーもー、俺には誰も味方がいないのか~~っ!」と空に向かって叫ぶと、たまたま飛んでいたカラスが「カァー」と鳴く。
何だか馬鹿にされた気がして平助が地団太を踏むと、空からぽとりと糞が落とされた。
必死に引き止めようとする平助に、八木が足を止める。だがそれは平助の言葉に対してでは無く、
「あぁそうそう、巡察が終わってからでええし、蘭の刀を見たってや。そんで状態によって研ぐか新しいのを買うかしたって欲しいんや。金はツケといてくれたらええし」
という伝え忘れを思い出しての物。
「ええ~~! だったら非番の誰かに……」
八木の言葉に反論した平助だったが、雅はそれを最後まで言わせてはくれなかった。
「いや、藤堂はんがええんや。今は……な」
「何だよ『今は』って。雅さんが言う事、いつも分かんねーんだよなぁ」
どうやら新選組の面々の前でも、雅は謎の言葉をよく発しているようだ。
それはさておき、終始困り顔の平助を残したまま、今度は振り返りもせず二人は屋敷に入ってしまった。
「迎えに来んかったら……分かってはるよな」
雅の背から聞こえた最後の一言に震え上がりながら、平助はそれを見送る。
「あの夫婦……絶対俺達新選組より強いよな。用心棒なんて必要なさそうじゃん。っていうか、どうすりゃ良いんだよ、俺は。蘭と一緒に巡察なんて、土方さんにどう言えば……」
うあ~~っ!と頭を掻きむしる平助に、手を差し伸べてくれる者はいない。大きく肩を落とすと、諦めたようにため息を吐いた平助は、重い足取りで土方の元へと向かったのだった。
だが、意外にあっさりと、その許可は下りる。
「良いんじゃねぇか? 八木さんが言うんならよ」
「へ? 土方さんなら絶対反対すると思ってたのに……八木さんから袖の下でももらったのか?」
驚いて思わず言った平助に、土方の拳骨が落ちた。
「ってぇ! 何すんだよ!」
「お前が馬鹿な事を言うからだ! 袖の下なんてあるわきゃねぇよ。どうせ蘭を連れて行けってのは雅さんの考えだろ? って事は、何か裏があるはずだ」
「裏? 何だよ裏って」
なかなか消えない殴られた痛みに、恨めしそうな目をしながら平助が問う。
「俺だって知らねぇよ。だが動いていれば何かが見えてくるだろうさ。ま、彼奴は強いから、いざ斬り合いになっても足枷にはならねぇ。その点は気楽だな」
存外軽い答えに、平助は拍子抜けした。そしてがっくりと肩を落とす。
「何でこういう時に限って承服しちゃうかなぁ。だったらせめて、他の奴にさ……」
「何だ、不服か? 結構気に入ってたじゃねぇか。彼奴の事をよ」
「土方さんまでそういう事言うのかよ……」
ぷうっと風船のように頬を膨らませた平助は、心底困った顔をしている。それを面白そうに見ていた土方だったが、ふと何かに気付いたように言った。
「蘭を連れて行けと八木さんが言った時、他にも何か言ってなかったか?」
「ええ? 他に? ……八木さんは、蘭の刀を見てやれって言ってたな。あと……そうそう、雅さんが、今は俺が良いって。何なんだよな、もう」
「……そうか、分かった。まぁ御指名なんだし、とりあえず頑張ってこい。話は終いだ」
強引に話を打ち切られて不満そうな平助だったが、土方にじろりと睨まれ、慌てて部屋を飛び出した。
障子戸も締めず、廊下に出てすぐ「あーもー、俺には誰も味方がいないのか~~っ!」と空に向かって叫ぶと、たまたま飛んでいたカラスが「カァー」と鳴く。
何だか馬鹿にされた気がして平助が地団太を踏むと、空からぽとりと糞が落とされた。